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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 二百七十五話 開戦の合図

 険悪な雰囲気になっている、チェストプレートの男と傭兵達は宙を舞う連鎖筒に気付かない。

 そこで、アレルはそっと目を閉じる。それは、視力に頼り切らない為、情報量の多い目を塞いで自身を落ち着ける為、そうして仕掛け時だけは間違えない様にアレルは敢えて自身に届く情報を制限する。

 一番大きく聞こえるのは、自身の心臓の鼓動。次に、言い争うチェストプレートの男と傭兵の声。それから、門に向かって罵詈雑言を浴びせる声。不思議と、最も近くにいるはずのロバートからはほとんど音なんて聞こえてこなかった。

 そして、遂にその時が訪れる。


 ──パパパパンッ!


 断続的な破裂音が周囲の全てを上書きし、アレルとロバートを除く者達がその音に驚く中、更に二度三度と同様の破裂音が周囲に響き渡る。

 そして、盗賊に扮した集団が驚愕し警戒を始めるよりも先に、彼等と共にいた者達が騒ぎ出す。


 ──ヒィーンッ!?


 甲高い嘶きが響くと共に、ズドンッ、ドドンと巨体が暴れて地面を揺らす地響きまでもがアレル達まで届く。


「チッ!? クソッ、敵襲か!? このッ、落ち着けオマエッ!」


 破裂音に驚く馬を、どうにか落ち着けさせようとする傭兵の声が聞こえ始めると、そこに再び破裂音が響き渡る。


 ──パパパパンッ!


 ──ヒェンッ!


 その新たに鳴らされた破裂音に、馬の嘶きが変化を見せたところでアレルはカッと目を見開く。

 その瞬間、アレルの前のロバートも身体を前傾姿勢へと移行する。


「アレル様、行きます!」


「ああ!」


 ロバートは、外壁の影から飛び出す前に、アレルを指差した後で向かって左側を指差す。それを、アレルはロバートが左側に行けと言っていると受け取って門扉に張り付く四人にアレルは意識を向ける。

 そうして、ロバートが宣言通りに初手でクロスボウを潰しにいく為に、門扉とは逆の向かって右方向へと駆け出す。続いて、アレルも外壁の影から飛び出して門扉の方へと駆け出す。

 すると、丁度乗り手が跨っていなかった四頭の馬の内二頭が、連鎖筒の爆発に混乱し門扉に張り付く四人へと駆け出していた。


「く、来るんじゃねぇ!?」


「······クソがッ」


 横並びなっていた四人は、外側にいた連節棍の男と戦棍の男は横に避けるが、挟まれていた戦槌の男ともう一人は逃げ遅れてしまう。

 しかし、無手に見えていた男は悪態をつくのと同時にその懐から吹矢を取り出して馬へと構える。


(させるかッ!)


 その意図に気付いたアレルは、すかさず空いている左手で小石を拾い、走っている勢いをそのまま利用して吹矢を持つ手目掛けて投げつける。


「痛っ!? クソッ、誰だ?」


 アレルの投げた小石は、見事吹矢の男の手に当たるが吹矢を落とす事はなく、アレルは自身の存在を教える結果になってしまう。

 だが、そうしてアレルを睨みつけたのが吹矢の男にとっての悪手となる。


「馬鹿野郎ッ! 逃げろぉ!」


「は? おい、マジかよ······」


 連節棍の男が注意するも最早手遅れで、引きつった笑みを浮かべた吹矢の男に暴走する馬の影が覆い被さり、吹矢の男は顔を青褪めさせたまま門扉と馬の巨体に挟まれてしまった。

 その傍ら、オロオロとしていた戦槌の男も判断が遅れたのが原因で、吹き矢の男を潰した馬とは別のもう一頭の馬に潰されていた。

 四頭の馬の内、二頭が門扉へと体当たりをするも、他の二頭は怯えはするものの暴れたりなんかせずに、連鎖筒が投げられた方向とは別の方向へ逃げていた。


「この野郎ッ、よくも仲間をやってくれたな」


「知るか、邪魔だったから排除したまでだ」


 そうして、アレルは連節棍の男と戦棍の男に対して鞘から抜いた長剣を構える。


 一方で、クロスボウを潰しにいったロバートはというと、ほぼ全員が馬に跨がっていた所に突っ込んでいた。


「クッ······オイッ、落ち着けって──」


「馬も未熟ならば、その乗り手の練度も高が知れますね」


 ロバートは、暴れる馬に手綱で制動をかけようとしているクロスボウの男二人に対して、シュッ、シュッと流れる様な鮮やかな動きでその肩口に手にしていた鋲を投擲する。すると、ロバートが標的を外す事などある訳もなく、 軽装が災いして肩口に鋲を撃ち込まれた男二人は程なくして身体の自由が効かなくなりそのまま落馬する。

 しかし、ロバートはその結果が判っていたみたいにそちらを見る事もなく、次の標的へと動く。


「ふざけんなよッ、おっさん!」


 仲間二人を落馬させられた傭兵は、馬を落ち着かせずに騎士剣を抜き放つ。だが、それは愚策にしかならず、前脚を高く上げた馬に振り落とされてしまう。


「そういう場合は、左手に手綱を巻き付けて置くべきでしたね······若輩者」


 おっさんに対する皮肉返しとして、ロバートはそんな事を言いつつ振り落とされた傭兵に対し、強烈なかかと落としをお見舞いして沈黙させる。

 しかし、ロバートが思うままに行動出来たのはそこまでで、元から馬を暴れさせる事の無かったチェストプレートの男と、ロバートが三人を無力化させている間に馬を落ち着かせた傭兵二人に囲まれてしまう。


「さてさて、騎乗されているのが面倒ですが······少し本腰を入れてお相手致しましょうか」


 そうして、ロバートが足技主体の構えを取ると、こちらもアレルの方と同様に場が一時膠着状態となる。

 アレルは、相手にした事のない殴打武器を持つ二人を相手に。一方で、ロバートは騎乗した騎士剣を持つ三人を相手に。それぞれが、数的不利を強いられる戦いとなった。



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