表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
118/942

一章〜拠り所〜 百十八話 ティエルナ事変

 そうして、体の凝りが解れていい具合に肩の力の抜けたアレルは、ふとジーナの発言に気になる言葉があったのを思い出す。


「そういえば、ジーナは辺境伯本人と会った事があったのか?」


「······はい、数える程の機会もありませんでしたが、フィリオ様と交流のある方ですから」


「それで、辺境伯の人柄をある程度掴めていたのか」


 アレルがそう言うと、ジーナは目を伏せる。


「······それも、アレル様が自信を持たせてくれなけば、口にする事など出来ませんでした」


 所々で、自身を持ち上げてくるジーナにアレルは眉をひそめる。ただ、それだけジーナの中での感謝の気持ちが強いという事かと、アレルは先程の反省からもジーナのそれを受け流す事にした。

 そうして、気を紛らわせる様に頭を二度程掻くアレルは、自分には出来ない空気の変更をカタリナに託す。


「えっと、それならカタリナも辺境伯にあった事があるのか?」


「はい! マクシミリアンおじ様には、小さな頃によく遊んでもらってましたから」


「そんなに、親密な付き合いをしていたのか?」


 カタリナの意外な発言に、アレルは目を丸くして質問で返してしまう。しかし、カタリナは一切嫌な顔もせずに微笑みながらそれに答える。


「はい、おじ様は凄いんです。体も声も大きくて、筋肉モリモリの力持ちで、凄く大きいんです!」


 エヘヘ、と笑うカタリナに、アレルは心の中でだけ『大きい』が二つ重なっているぞと、ツッコミを入れる。

 そこへ、横からレイラが口を挟む。


「それというのも、二十年程前のティエルナ事変がきっかけらしいです」


「ティエルナ事変?」


「はい、私は生まれるか生まれていないかの頃なので、先生に聞いた話になります。当時は、まだティエルナ教皇国とはされておらず、神都と呼ばれ領内の聖地を目指す巡礼者が集まる都市だったそうです。なので、その地を我が物にせんとする帝国と、ティエルナの教皇聖下と縁のあるルクスタニアが戦争状態になっていたらしいです」


「ルクスタニアと教皇に縁? そんなのどこから······」


 そんなアレルの呟きに、レイラではなくジーナが答える。


「······ルクスタニア建国の際に、レイナーレ様の戴冠式を執り行ったのがティエルナ教の母体となった宗教の方だったらしいです。なんでも、エウロス様の旅に同行した縁がお有りだとかで······以来ルクスタニアの戴冠式を任せるに至り、現在でもティエルナ教皇聖下が戴冠式を執り行っているのです」


「へえ」


 アレルは、興味の無い事柄に淡白な返事を返す。それを察したのか、ジーナはそれ以上を語らずに再びレイラにバトンを渡す。


「話を戻しますが、そのティエルナ事変で活躍されたのが当時子爵だった辺境伯様で、それに協力したのが当時公爵だった大公様なんです。そして、お二人の手勢に騎士として随伴していたのが、カタリナ様の父君フィリオ様だったんです」


「いや、少しおかしくないか? 普通、兵を率いるなら位の高い方······つまり、大公が総大将になったはずだろ? だったら、活躍したって言われるのは大公の方じゃないのか?」


「確かにそうなのですが、当時はまだ先王がご存命で退位もしてなかったと聞いてます。なので、仮にも継承権をお持ちの大公様を矢面に立たせる事を忌避して、実質的な総大将は大公様に。でも、表向きには辺境伯様を総大将としていたのだと思います」


 何だそりゃ、と思いつつもアレルは、辺境伯の上げた戦果を総大将である自らのものだとしなかった、大公の人としての器を評価する。

 アレルの持つ貴族の印象だと、戦果次第で簡単に実は自分がと名乗り出て、功績だけ持っていくのが貴族という印象だった。


「貴族ってのも、色々とあるんだな」


「まあ、お二人の関係があっての事だとも思いますが······元々、辺境伯様を見出して取り立てたのが大公様らしいのですが、そういった上下関係を飛び越えた友人関係だったそうですよ」


「平民出の人間を友人とするなんて、大公は随分と貴族らしくない人なんだな」


「そうですね。外聞などよりも、実利を取る方だと聞いています」


 辺境伯に加えて、大公までも型に嵌まらない人物だと判り、その上でアリシアも公国へ向かう事になっている。故に、今後は第三派閥と噂される陣営とクーデターを起こした急進派との対立が、ルクスタニアの行く末を決めるのかもしれないと、アレルは考える。

 だが、レイラはそんなアレルの様子に気付くことなく、説明が途中だからと続きを話し始める。


「それで、ティエルナ事変の決着を話しますと、最後は辺境伯様が帝国軍を完全に敗走させたのを機に大公様が動かれたそうなんです。兼ねてより、先王様の名代として西側各国との交渉を請け負っていた大公様は、ティエルナ周辺地域を中立地帯として西側東側の各国間で不可侵条約を締結させたのです」


「ん? クレイル男爵領が作られたのは、その後だよな? そんな流れなら、わざわざ捨て地なんて作る必要なかったんじゃないか?」


「その通りなのですが、調印式に帝国は参加していません。なので、帝国の脅威を無くす事が出来なかったのです。しかし、同時にティエルナに主権を認め国とし、もう一つ調印式に参加した国々の間で、中立国のティエルナに帝国による侵略行為が確認された場合の代理防衛条約を結んだんです」


(代理防衛条約? 安全保障条約みたいなものか?)


 アレルは、聞き慣れない言葉を自身の知識と照らし合わせる。そして、ふと浮かんだ考えをそのまま口にする。


「って事は、万が一が起きた場合の先遣隊がクレイル男爵領から出されるって訳か?」


「はい。そして、後詰めの部隊を派遣するのが辺境伯様となっていて、この為に辺境伯様とフィリオ様は頻繁に交流があるんです。ティエルナ事変で、馬を並べた縁もありますし」


「成る程、それなら第三派閥なんて言われ方してても不思議じゃないな」


 アレルは、レイラ達の話から辺境伯周りの人間関係を把握する。人伝な上に、又聞きの話も含まれるので完全に安心出来るとは言えない。

 だが、それでも信頼性の高い安心材料を得られた事だけは確かだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ