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いつか神殺しのアマデウス  作者: 焼き29GP
第一部 王国の動乱
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一章〜拠り所〜 十一話 無自覚

 そうして、肩を落とすアレルにメリルが近づく。


「アレルさん、そちらには何かありましたか?」


「いや、金にナイフと地図ぐらいで······な」


 アレルは、敢えて遠投したものを記憶から消去して無かった事にする。

 そんなアレルに、メリルは首を傾げる。


「何か、落ち込んでませんか?」


「まあ、何か珍しい物でもあればって、期待していたからな」


「そうでしたか······あっ、珍しいと言えば、アレルさんこれを使って下さい。アレルさんの服装は、目立つと思うので」


 メリルは、そう言ってアレルに綺麗に畳まれた地味な外套を手渡す。

 アレルはそれを広げ、自身に羽織ると胸元を留めて着心地を確かめる。


 外套は、アレルの膝下までをすっぽり覆い隠し、それでいて動きを阻害しないものだった。


「······うん、動きやすくて大きさも丁度良い」


「フードもついているので、顔も隠せますよ」


「いや、フードで顔を隠しているのが四人で歩いていたら怪しすぎるだろ。それより、よく余分な外套を持っていたな」


 アレルの言葉を受けて、メリルは少し遠くの空を眺める。

 その横顔は、どこか憂いを秘めている様に感じた。


「······本当は、騎士団長のガルシア様もアタシ達を護衛してくれるはずだったんです。ですが、······その、途中で追手を撹乱する為に別行動を」


 そう言って、メリルはその目を僅かに細める。

 何の事情も聞いていないし、聞く気もなかったアレルだが、その様子から僅かながらも事情を察してしまう。


「ソイツの分か······無事なのか?」


「わかりません。後で、追いつくとは言ってましたが、どうなったかまでは······」


「まあ、騎士団長なんてやってた男が、自ら口にした言葉を曲げたりはしないだろ。とりあえず、今は人の心配より自分達の安全を優先すべきだ。······その騎士団長だって、それを望んでいるさ」


 どこか、何かしらの想いを背負い込んでいる様なメリルに、アレルはその荷物を軽くするように説く。

 すると、メリルは空を眺めるのを止め、アレルの方を向き直り薄く微笑む。


「そうですね。すみません、最年長のアタシがしっかりしないといけないのに」


「別に、そんな事はないさ。しないといけないなんて、自分を追い込むだけの言葉使うなよ」


 アレルは、既に色々抱えてしまって憔悴の色が見え隠れするメリルを気遣う。

 そんなアレルに対して、メリルはその表情を柔らかくする。


「クスッ······優しいですね。あなたは」


「バカ言うな。雇用主の機嫌が悪いと、報酬の支払いが悪くなると思っただけだ」


 そう言ってそっぽを向くアレルに、メリルは変わらず微笑みを向ける。


 事情は知らずとも、そのままにしておけなかったアレルは、メリルを励ました事で距離感を間違えたと後悔する。

 しかし、それをどこか察したのか、メリルはそうして顔を背けるアレルを穏やかな表情で見詰め、感謝を口にする代わりに首だけで頭を下げる。

 それを見てないアレルは、メリルが語った内容に思考を巡らせる。


(騎士団長······か。それに、近衛のミリア。······そうなると、やっぱりアリシアは王家筋って事になるよな。まあ、それは置いといて、メリルはその騎士団長が別行動をするってなった時に、何かがあって責任を感じているんだろうな。そして、いなくなった騎士団長の代わりを最年長の自分が務めないとって、空回りした結果が騎士まがいの傭兵に捕まると。······なんか、記憶喪失の俺を含めて、厄介な問題抱えているヤツしかいなくないか?)


 アレルがそうして今後に不安を感じていると、不意に声を掛けられる。


「アレル、そちらはどうでしたか?」


「ああ、アリシアか。まあ、特に面白いものは無かったよ」


 その一言に、ミリアが渋い表情をする。


「面白い······まあ、いい。こっちは、無くなった物や破損した物は無かったぞ」


「そうか」


 そうして二人を見ると、ミリアはアレルが羽織った外套と同様の物を身に纏い、アリシアは自身と同様のローブをメリルに手渡している。


「なあ、馬にくっついている傭兵達の共通の荷物って野営道具か何かか?」


 不躾な質問に、憮然としたミリアが応じる。


「ああ、簡易的な毛布しかないけどな」


「じゃあ、アリシア達の野営道具······テントや簡易の調理器具の類は持っているのか?」


 見た感じ、そんな物が見当たらなかったアレルは、私物の方にでもあるのかと思い訊ねる。

 しかし、期待していた答えではなく、アリシア達の不思議そうな表情のみが返ってくる。


「いや······アリシア様に野宿などさせられないからな。そんな物は、最初から持っていない」


 何当たり前の事を訊いてくるんだと、さも言いたげにミリアはアレルの顔を見る。

 たが、それにアレルは開いた口が塞がらなくなる。


「······はぁ!? ちょっと待て、お前ら追われているんだよな?」


「ああ、その通りだ」


「今まで、移動や夜はどうしていた?」


「道中は、乗り合い馬車に乗ったり、夜は町や村の宿に泊まっていた」


 そこまで聞き、沸き上がる感情に蓋をする為に、アレルはこめかみを抑える。


「······なあ、完全に撒いたはずの追手が、何故か追跡してくる事を不思議に思わなかったか?」


「ああ、顔を隠していたのに何故かピッタリついてきていたな」


 アレルは、額に手を当てて深いため息を吐く。


「頭が痛くなってきた」


「アレル!? 大丈夫ですか? 酷いようなら、メリルに診てもらって下さい」


 そう言って、アリシアが心配してアレルに駆け寄る。

 それに、アレルの発言の意味を理解するメリルは苦笑いを浮かべる。


「いや、そういうのじゃなくてな」


 駆け寄るアリシアを、そう言って押し留めたアレルは、ミリアに生気のない瞳を向ける。


「おいミリア、追跡されていた理由は解っているんだよな?」


「ん? なんか、よくわからない魔法でも使ったんじゃないのか?」


 その返答に、アレルは密かに青筋をたてる。


「ハハッ······一から説明してやるから、ちゃんと理解しろよ。まず、顔を隠している三人組なんていれば、その異様さから酷く目立つんだ。だから、とてつもなく人の記憶に残りやすいんだよ。そういう人間に話を聞けば、足取りなんて簡単に追えるよな」


 笑顔で青筋をたてるアレルに、アリシアとメリルは僅かに怯える。

 しかし、そんなアレルの変化に気付けないミリアは火に油を注ぐ。


「そう······なのか?」


「そうなんだよッ!! 追い打ちで、乗り合い馬車なんて人の目しかないものにまで乗りやがってッ! しまいには、宿に泊まりながらだと? そうやって、お前らが立ち寄った町村を辿れば、後に通る道筋まで筒抜けになって待ち伏せされる危険まで出てくるのが解らねぇのかッ!!」


 追われている自覚のないミリアの行動に、アレルは火が付いたみたいな勢いで声を荒げる。


「あ、あの······それでは、どうすれば?」


 そこへ、怯えた様子でおずおずと訊ねるメリルの姿に、アレルは冷水をかけられたように平静を取り戻させられる。


「ハァ······悪かった。んで、普通は町村に立ち寄るのは最小限に抑えて、ここみたいな林や森の中、山道なんかを進むんだ。そうすれば、人目にはつかないからな」


「だが、さっきの町村立ち寄ると目立つというのはどうするんだ? 飲まず食わずでは、どこにも行けないだろ?」


 アレルを認めたくないのか、ミリアはまるで揚げ足を取ってやったと言わんばかりに鼻を鳴らす。

 だが、アレルはこれまでミリアがとってきた杜撰な行動に苛立っているので、反射的に睨み返す。


「······少しは、自分で考えたらどうなんだ?」


「アレル、すみません。私達は、その······あまり旅とかした事がないので······」


「ミリアも、訓練ばかりであまりそういった事を知らないので、教えてあげてくれませんか、アレルさん?」


 アリシアにメリルと、ミリアに対して突き放した様な態度を取るアレルに、二人して説得を試みる。

 そんな二人に免じて、アレルは苛立ちを頭の隅に追いやって、可能な限りの注意を促す心構えをする。



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