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終身刑のエルフ  作者: もちもち物質
エルヴィス・フローレイ
127/127

新暦852年

 初夏。

 2つの人影が、青空の下、さわ、と草を掻き分けて歩く。

 黒く古びた石材が立ち並ぶ遺跡群を抜けていくと、ふと、花の咲き乱れる不思議な場所に出た。

 野生化した薔薇が自由奔放に伸び、アイリスが何株も咲いては揺れている。風が通ると、ローズマリーの茂みがよい香りをふわりと広げていった。

 不思議な花園を進んでいった2人の少年少女は、大きな大きなクヌギの木の枝に、ほやり、とした小さな光を見つけた。

 そこには、少々場違いなことに、魔導機関の小さなランプがぶら下がっていた。相当に古いもののはずなのに、未だ、光が灯っている。

 ぽかん、としながら光に近づいて行った少年少女は……その足元に、黒い石材でできた石碑を見つける。

「これ、かな……」

 少年が手を伸ばし、石碑の表面を覆う蔓草をそっと退けると、刻まれた文字を読むことができた。


『ブラックストーン城と終身刑のエルフ、ここに眠る』


 石碑にはそう、刻まれていた。

 それを読み解いた少年少女は……大いに喜ぶ。

「父さんに聞いた通りだ!本当に、終身刑のエルフが居たんだ!」

「ブラックストーン城もあったでしょう?ね?本当だったのよ!」

 興奮気味に2人は声を上げ、草原に立ち並ぶ黒い石材を眺める。

 ……かつてここには、城があったという。その城は人間の住処であったとも、刑務所であったとも言われているが……それと同時に、人間とエルフの交流の場であったらしい。

 そしてその城には、1人のエルフが住んでいたそうだ。『終身刑のエルフ』と呼ばれるそのエルフは、ずっとこの城に居て、ずっとずっと、人間とエルフと共に過ごしていたという。

 人間達の間には、今も、『終身刑のエルフ』という音楽と共に、彼の物語が語り継がれているのだ。


「おとぎ話じゃなくて本当の話だって、これで信じてくれた?」

「うん。信じる。そっか、本当に本当のことだったんだね」

「ええ。変なエルフが居たんだ、って、よくお婆ちゃんが話して聞かせてくれるもの」

「エルフってやっぱり物知りだなあ……」

 少年が神妙な顔をしていると、少女は笑って、少年の手を取った。

「さ、帰りましょ。フローレイ祭が始まっちゃう」

「うん。ありがとう、付き合ってくれて」

「いいえ。私も一回、見てみたかったの」

 人間の少年とエルフの少女は仲良く手を繋いで、元来た道を帰っていく。

 2人の楽し気な笑い声は、草の揺れるさわさわとした音に重なって、まるで未来を祝福するかのように柔らかく響いていた。

完結しました。後書きは活動報告をご覧ください。

また、本日より新連載『出発信仰!』を開始しております。よろしければそちらもどうぞ。

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― 新着の感想 ―
読了しました。すごく良かったです。 各チャプターの登場人物が魅力的で、自分もその場にいて一緒にどうなるんだろうとワクワクしながら楽しんでいるような気分になれました。 また、エルフと人間のどちらにも感情…
[良い点] 読了しました。素晴らしい作品をありがとうございます。 どの章も濃密で読めて良かったと思える物語でした。 [一言] ブラックストーン城に残る痕跡を探しながら再読するのも楽しそう。
[良い点] エルフよりも早く死ぬ人間が、エルフよりも残る音楽を作れるってめっちゃいいですね、、、 [一言] 盗掘とかでエルフの涙奪われたりしないといいな
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