表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

格ゲー世界の年長者、過去に何か背負いがち

環境キャラを使った瞬間、負けられないという十字架を背負ったので初投稿です。

管理機関本部。

暗い廊下。

窓の外には夜の闇が広がり、月の光だけが周りを照らしている。

しかし月の光を楽しむよりも先に、廊下に照らされた照明が光を放った。


「まったく...勿体ないねぇ。こんな夜には、月の光をじっくりと眺めるのが乙なもんだ。」


まるで白紙のように真っ白な管理機関の軍服を着崩した偉丈夫が呆れたように溜息を吐きながらも呟く。

ジャケットの襟元には多くの勲章が付いており、その人物がやんごとなき身の上であるということを示していた。

しかし、そんな彼の身の上など気にしないといった様子で隣に付き従って歩いてる三つ編みの少女が彼をジト目で睨みつける。


「...だったら、月の光を頼りにこの書類でも片付けてもらいましょうか?」


「うげぇ、勘弁してくれよ。最近派手に動いてねぇから身体も鈍ってんのに、目まで悪く成りやがったら下の連中に見せる顔がなくなっちまうぜ。」


肩を落としながらも、彼は少女に答える。

しかし更に少女はそんな彼の様子に大きくため息を吐いた。


「はぁ...大体、ヤマト様が私が渡した時点で書類を提出していればこんな時間にまで執務室で作業を行わなくて良かったのです。..それで?私があの書類を渡した当時、貴方は一体何をしていたのでしたっけ?」


「....えぇと、知り合いの子に少し挨拶に行ってました。ハイ。」


「はぁ....女遊びですか。まぁ貴方がどこでどんな女と何をして居ようがどうでもいいですけれど、仕事位はちゃんとして欲しいものですね。でないとこんな貴方を慕っている方々が哀れでなりません。自分が何者であるか自覚してください。...こんな色情魔がさっきまで天領様相手に話していたとは、考えられないですよ。」


半ばヤマトという男を睨みつけながらもズケズケと物を言う少女。

そしてそんな少女の物言いに耐え切れなくなったのか、ヤマトは両手を合わせてペコペコと頭を下げた。

自分よりも年下であろう少女に外聞なく謝る姿はある種の哀愁を漂わせていた。


「悪い!俺が悪かった!だからお願いします手伝ってくださいラクシャさん!いや、ラクシャ様!!」


「...はぁ、私は貴方とは違ってちゃんとその手の仕事は遂行します。つまり、言われなくてもって奴です。....今度はちゃんと、私が渡したその日にやりますか?」


「やるやる!ちゃんとやるから!!!」


喰いつく様にラクシャの問いに答えるヤマト。

するとラクシャはこめかみに手をやった後、指でメガネを押さえて位置を正した。


「はぁ.....本当にしょうがない人。それじゃ、早く終わらせてしまいましょう?終わったら、久方ぶりに肩でも揉んで差し上げますよ。」


そう言うと、彼女はヤマトに微笑を見せる。

そんな彼女に対して安堵したかのように息を吐くヤマト。

二人はそのまま自分たちの執務室へと歩みを進めようとする。

しかし、その瞬間。


「おや...どうやら、かの英雄も秘書官に頭が上がらないご様子で。」


「!?....誰だ。」


自分達の背後から声が聞こえ、ヤマトは緩んでいた表情を引き締めて振り返る。

刃物のような鋭さを持った目線が背後へと注がれる。

照明が照らす範囲の外の闇。

そこから照明の直下へと、まるで闇の中から這い出るようにしてその男は姿を現す。


真っ黒に染め上げられて闇に馴染む黒い管理機関の軍服。

そして、細くつり上がった目にどことなく張り付けたような印象を受ける笑み。

廊下には革靴のコツコツという音が響く。


「その服...情報官。...諜報員ですか、貴方。」


「ご明察、流石ですねラクシャ=サラーサ第一尉官。お初にお目にかかりまして光栄でありますセングウ=ヤマト執行官代表。いや、『ノイアの英雄』と言った方がよろしいでしょうか?わたくし、エノクと言います。階級は第二尉官です。以後、お見知りおきを。」


大仰な仕草で頭を下げるエノク。

しかし、そんな彼に対して訝し気な顔をしながらもヤマトを庇うように前に出るラクシャ。

そんなラクシャの肩に手を置くと、ヤマトは首をゆっくりと横に振るうと彼女を自分の後ろへと誘導する。

そして目の前のうさんくさい男に対して豪快な笑みを見せる。


「ハッ、偽名を名乗っておいてお見知りおきをもクソもねぇだろ。....態々情報官が俺に何の用だ。俺ぁ、別に天領様に対しても、管理機関においても特段背いた覚えはねぇけどなぁ。」


しかし、すぐにその口元から笑みは消える。

測るような目つき。

それはあたかも敵の出方を見るかのような剣呑さを纏っていた。

そんな彼に対して、エノクは肩を竦める。


「そんなんじゃありませんって~!怖い怖い。流石にタイミングが悪かったですかねぇ?確か...12箇所目の書庫が襲撃されたそうではないですか。機材の全壊による施設の機能の停止。しかも主犯格と考えられているのは齢17歳くらいの少年。大変そうですねぇ~上に立つセングウ代表にとっては頭の痛い話でしょう。ピリつくのも無理はない。」


「あ?何が言いてぇ。同情すんのは別に構わねぇが、こちらの部下もやることやってる。テメェにこの話題でそれ以上は話すことはねぇ。...こんな与太話でもしに来たのか?だったら悪いが、今は忙しくてな。飲める性質なら暇さえありゃバーで話をしてやるくらいはやぶさかじゃない。」


「ヤマト様!情報官相手にそんな軽率な....!!」


ヤマトの言葉に対してラクシャは諫めるように声を発する。

しかし、ヤマトは眼光を緩めることなくエノクに向けた。


「まさか!このような話をする為だけに英雄の足を止めたなんて畏れ多い!ちゃんと用はありますよ。貴方がた執行官の職務が治安維持や警護等であることに対して、我々の職務は加盟組織との連携確認や非加盟の軍産複合体や反逆者の情報収集。そしてなによりも....。」


「組織及びに天領様の御意思伝達か...。」


「えぇ、えぇ!その通りです。」


ヤマトの呟きに子気味よく頷くエノク。

エノクの軽薄な仕草を見て眉間に皺を寄せるヤマト。

そんなヤマトをラクシャは心配そうに見つめていた。


「天領様は度重なる書庫の崩壊など今の状況に心を痛めておいでです。書庫や魔書の警護と言えば執行官の領分。...セングウ代表がどうとは言っていないのですが....。」


エノクの笑みが様相を変える。

さっきまでの張り付けた笑みから一変。

まるで蟻などの虫で遊ぶ子供のような残酷な色を瞳に湛える。

愉悦と嗜虐性が入り混じった。


(...コイツ、俺を嗤ってやがる。)


「どうか、頼みましたよ『執行官代表』。...天領様はご期待しておいでですから。」


「...御忠告どうも。ウチの部下は優秀だ。テメェが懸念しているようなことにはなりゃしねぇよ。」


「そうですか、それは頼もしい。ではお時間を取らせてしまい申し訳ありません。失礼致します。」


そう言い残すと、踵を返してコツコツと革靴を鳴らしながらその場を去る。


「ヤマト様...なんなんでしょう、あの人。上官に対してあの態度は....。」


「情報官は天領様の御意思を伝えようとしている間は階級差など問題にはならないからな。それに、薄っぺらくはあったが一応礼儀は通してやがった。...まぁ、どこまでが本当に天領様の言葉か。分かったもんじゃなかったがな。」


ヤマトは険しい表情をする。

これが普通の情報官からの言葉であれば、ヤマトはただ受け止めるだけだっただろう。

それにヤマトの異名の通り、例え情報官といえど普通は恐縮する。

しかし、エノクと名乗った男の態度はもはや慇懃無礼の段階にまで達していた。

あの身に纏うどことない不吉な感じ。

それが彼の言っていることに疑念を抱いた。


「きなくせぇな....。」


「確かにきな臭いですね....。あの者、調べますか?」


ラクシャがヤマトにそう提案する。

しかし、ヤマトはゆっくりとかぶりを振った。


「...いや、良い。きなくせぇのはアイツだけじゃない。今俺達が直面している状況そのものだ。」


(たかだか17のガキがなんで書庫を強襲しているのか、なぜ今ですら部分的な特徴のみで顔が割れてねぇのか。...そして負傷者は居れど死者は居ない現場と死傷者多数の現場。複数犯の可能性。さっきの奴の存在....。どうにもクセェ....どうなってやがる、何が起きてんだ。)


「ヤマト様...?」


顎に手を当てて考え込むヤマト。

そんな彼をただラクシャは見つめていた。




廊下の先には広がる闇。

その闇から目を逸らすように、彼は後ろへと振り返る。

ヤマトが歩き去って行ったであろう方向に手を翳すと、今度は掌を開く。

その瞬間、掌の少し上の虚空に拳くらいの大きさの穴が開く。

そして、その穴からは横のラクシャと話しているであろうか笑顔が見えた。


「今回は飽きさせないでくれよ?“英雄”。」


そう呟くと、その穴を握りつぶして再び歩き出す。

身に着けた黒い軍服が闇に溶ける。

暗い廊下へと歩みを進める様はさながら深淵へと堕ちていくようだった。







名前も知らない虫がか細く泣いているような夜。

外は相変わらず街灯がない故に真っ暗で、先を見通すことすら至難だ。

しかしそんな中でも、俺達の居る礼拝堂からは暖かな光を周囲に発していた。


「うまっ、うまっ!!やっぱりレーションはCレーションが一番でありますねぇ!!はぐっ、はふっ!!!」


「ちょっと!食べ方が汚いよハザクラ。口に沢山付けて...もぉ~~。」


ハザクラさんは袋に付属しているスプーンを突っ込んで、ビーフシチューを口に運ぶ。

確かに食べ方はワイルドその物であり、口にはべったりとシチューが付いている。

そんな彼女を見ていられないとばかりにマリーが口を付属の布で拭いてあげていた。


ハザクラさんに斬りかかられてから2時間程度が経過した。

この廃墟然としていた礼拝堂は瓦礫の撤去や塵などの拭き上げ、開いていた穴や壊れたステンドグラスをふさぐなどの行程によって最低限人が生活できる環境になっていた。


まぁ、整理整頓には結構な体力を使ったのだが。

こんな環境でも付いてるシャワーは動くはずもなく依然風呂とかは近くの川で水浴びだし、そもそも寝る為のベッドは贅沢としても毛布もなくて人が暮らすにはひどい環境である。

...まぁ、そこら辺は苛烈な任務であればあることだからとハザクラさんも気にしてなかったが。

現代人の俺からしてみればちょっとキツイ物である。


「?どうしましたナナイさん。もしかして、お口に合いませんでした?」


「あ、いや...別にそんなことないっすよ!旨いっす!!」


そう言いながら肉と細かい野菜のシチューを口にしきりに運びつつ、クラッカーを口に入れる。

旨い。

それは本当だ。

少し味が濃い気がするが、レーションっていうのはそういう物だって聞くし別に気にならない。


「そう...ですか。それならよかったのですが....。」


「おぉっ!良い食べっぷりでありますねぇマドカ君!やっぱCレーションは良い物でしょう!Aは豆系の品目が多いけど自分から言わせれば人を動かせるのに豆を食わせるのはナンセンスであります!やはり人が活動するには肉!肉が必要なのでありますよ!」


元気よくのたまうと彼女もレーションを口に掻き込んだ。

なんというか獣らしい論理だなぁって思う。


「それよりも相変わらずマリーは食が細いでありますなぁ。」


「まぁほら....ちょっと、私には脂っこいっていうか...アハハ....。」


確かに彼女は途中まで食べてスプーンを置いている。

少食なんだな。

....一応執行官?という身体メッチャ動かしそうな仕事をやっているのによく身体が動くものである。


どうやらハザクラさんも思うところは同じ様で、マリーさんにジト目を向けていた。


「まったく...そんなのでいざという時にガス欠起こしたらどうするでありますか。第一、そんなだから生育が乏しいでありますよ。成長するには栄養がないと!」


「なっっ!?余計なお世話なんですけどっ!!ちゃんと私だって成長してるし!!そ、そもそも私達は執行官であって大きすぎると戦うのに邪魔で....。」


「負け惜しみでありますよ~~、どんなものでも大きい方が良いのであります。それは私の生まれたアニマでは常識でありますから。」


ハザクラさんの言葉を聞いた瞬間、彼女は目を少し見開いた後に立ち上がる。

...どうやら地雷だったようだ。

しかし友人関係だからか、それともからかいのつもりかマリーさんの様子を見ても顔色一つ変えない。

寧ろ、したり顔をしていた。

友人としてよくやるやり取りなのだろうか。

それとも持って居る者の余裕という奴か。


....まぁ一番なのはただ一人男性である俺はなんとも言い難い居づらさを感じてるわけだが。

こう...話にも食いつくのもなんか気持ち悪いし、出来ることと言えば気配を消してシチューを食べることだ。

不意にマリーさんと目が合う。

すると彼女は俺の存在がこの場にあることに気づき、頬を少し紅潮させるとこほんと咳き込む。


「そんなことよりも、どうしたのハザクラ。いくらなんでも応援に来るのが早いけど....。」


不思議そうにマリーさんが首を傾げる。

まぁ、それは俺も思ってた。

するとハザクラさんはグッとサムズアップする。


「ふふん、自分偶然書庫を破壊した咎人を追う仕事が上官から入ってて近くに来ていたのであります!だから押っ取り刀で駆け付けた次第であります!!親友が呼ぶのであればたとえ火の中水の中...!フッ、お礼は要らないであります...。」


マリーさんの動きがぴたりと止まる。

そして、ゆっくりと顔が青くなる。


俺はこの世界に来たばかりだ。

だから事情が分かっているわけではない。

...でも、なんとなくだが分かる。

それ、まずくないか?


アンタらの組織って魔書を管理することが第一目的なんだろ?

だからこそ、態々マリーさんは残穢さんと契約した俺を一応管理機関に連れて行こうとしているわけだ。

ま、行く気ないけど。

それなのにましてやそれを管理する場所であろう書庫を破壊した人を追えって言われてる人間がここで呑気にシチュー食ってんのはダメな事な気がするんだけど....。


「書庫破壊って結構な大罪...それを追う貴方が今ここに居るってことは...仕事は終わらせ....」


「いや、ぜんっっぜん終わってないであります!」


「あ、貴方!!なにやってんの!!?ホント、何やってんの!!?」


あ、やっぱりまずかったんだ。

マリーさんが血相を変えてハザクラさんの肩を揺らす。


「貴方ねぇ...私の応援に駆けつけてくれたわけだからあまり言いたくはないけれど命令違反は褒められたことじゃないって何度も言ってるでしょ?それに書庫破壊って、すぐに駆けつけないといけないことでしょ!?」


「そうでありますなぁ。だからマドカ君の護送は自分は加われないであります。すぐに現場に向かわないといけないでありますから!」


「当たり前でしょ!!?なにを呑気な...自分のやっていることがマズイって分かってるの!?」


そこからはさっきまでの和やかな雰囲気はどこへやら。

マリーさんのハザクラさんへの説教が始まった。

どうやら彼女は結構くどくどとしつこく責め立てるタイプのようである。

...まぁ、端的に言ったら一番勘弁して欲しい類の説教だってことだ。

ハザクラさんもさっきマリーさんを揶揄っていた時とは打って変わって終始青い顔で殊勝な態度で受け止めていた。


「士官学校の時だってまったく先生の言うこと聞かないし、期限もオーバーすることはざらだったし!」


「そ、そんな昔の事を言われても....。」


「昔から言ってるのに今も治ってないから今回みたいなことに繋がってるんでしょ!?」


「あ..はい、おっしゃる通りであります。だから少し手心....いや、すみません。はい、ごめんなさい....。」


耳も垂れて尻尾も力なく地面に付いている。

なんというか見ていて少し可哀想になるものである。

少し同情してしまうな。

まぁ、正しいこと言ってるのはマリーさんなんだが。


『人のことを憐れむ暇があるのであれば自分の心配をしたらどうじゃ?おまんも儂との反省会が待っているぜよ。』


「....。」


どうやら目線で憐れんでいたのが分かったのだろうか、残穢さんが小声で俺に言ってくる。

俺の影から聞こえる声には、説教中の二人には届くことはない。

まぁ、それが分かっていたが故に声を発しているのだろうが。


そうだった。

残穢さんはどんな感じに怒るのだろうか?

出来れば、マリーさんとは違ってさっぱりと竹を割った感じであって欲しいと思った。


シチューの最後の一口を口にする。

時間というのは否応なしに進む。

反省会が始まるのは寝る前。

避けようもないことに、若干げんなりしていた。

嫌な後味だ。







『斬り合うということは相対するということ。刹那、自分の首は胴とおさらばしてるかもしれない。それを覚悟して初めて、命を取り合う土俵に立つことになる。それがない人間は、脆い。...私が居た時代では当たり前だったがこの時代...いや、おまんの居た世界ではない価値観だったかの?』


「俺、ガチガチ平和な所から来た人間なんで....なんかすいません。」


目の前に広がるのは月の青い光が照らす夜の闇。

月だけでもここまで明るいのだと驚かされる。

前の街頭ばかりの世界じゃ、分からないことだ。

冷たい夜風が身体を冷やす。

そんな屋外で冷たい礼拝堂の壁に寄りかかりながら、自分の影に頭を下げる不審者が一人。

そう、俺だ。


いくら配慮しようともあの礼拝堂という閉所でコソコソと話すのは無理があるということで外に出たのだ。

二人が何かに意識を向けてるのならまだしも、眠っている間は確かに厳しいものがある。

人によっては少しの物音で起きる人も居るしな。

彼女達が違うとも言い切れない。

念には念を入れて...らしい。


『まったく...とんだお守りになりそうぜよ。儂としては一刻も早くこちらに順応して欲しいものなんじゃがな?』


「うす、善処します....。」


『うむ、善処したまへ。...さっ、これで話は終わりじゃ。明日もどうなるか分からん、寝ておけ。』


俺の謝罪の言葉を聞くと彼女は呆れたような息を吐いた後、冗談めかした物言いをする。

さっきマリーさんの説教を見ていただけあって身構えていたが、結構サラッと説教が終わった。

なんというか叱る所は理屈を持って叱るけど、それ以上は追及しない感じ。

期待していたように竹を割ったような感じの語り口だ。

ホッと一安心だ。

夜にお説教で長時間も時間を取られたくなかったからな。


まぁ、俺が元居た世界の状況で戦うどころか喧嘩もしたことがないと言ったら納得したような声を出していた。

それも関係してるのかもしれない。


「うす。...なんか、マジですんません。俺もそういう心構えが出来ていれば話は早かったんでしょうけど....。俺の話聞いた時、残穢さんなんだそれって思いませんでした?」


『...平和なのは良いことぜよ。フフッ...まっこと耳が痛い話じゃな。』


彼女の声が少し暗くなる。

暗い声ながらも、それをこちらに感じさせないように少し微笑を湛えている。

耳が痛い話?

彼女は言葉を続ける。


『それに儂の男も暴力とは無縁の男だった。昔取った杵柄じゃ、今更大変だと思うことがあれどそれに対して煩うことなどありゃぁせん。そもそも、おまんは儂をあの書庫から自由にして、儂はおまんに降りかかる火の粉を振り払うという取引じゃったろうが。』


「そうっすか、それならよか....ん?“儂の”男??」


どうにも気分を害したワケではないようだ。

それが分かって安堵すると同時に、ある単語が耳に着いた。

結構さらっと言われたからこそ、聞き逃しそうになった言葉。

しかし、彼女の人となりを知るという意味では強い意味を持つ言葉。


『ん?なんじゃ、儂くらいの齢となれば契りを交わした相手が居ようともおかしくないじゃろ。何を目を丸くしておる。』


「ま、まぁ確かに....。結構突然且つサラッと言われたんで面喰ったっていうか....。」


言われてみれば確かに彼女は大人の女性なのだから居ても不思議ではない。

ちょっといきなりでビックリしたが、妥当なことであった。


『...ハハァ、さては貴様はこれから行動を共にする上でもしかして...とか思っておったか?ククッ...油断も隙も無いなエロ餓鬼。残念じゃったな?』


「そ...そんなんじゃないっすよ!揶揄わないでください。」


影から聞こえる愉快そうな笑い声。

楽しそうに笑っていることからも、こちらを揶揄っていると分かる。

そんな彼女が居るであろう影から僕は目を背ける。

別に彼女が言っていたようなことが図星だったわけじゃない。


....まぁ、それはそれとして出会った時に胸をガン見しちゃったワケなんだが。

でもそれにだって言い訳をさせてもらうと、あんだけデカいのにガッパー開いた服なんか着られたら男であろうがなかろうがそちらに視線を持っていかれるのは当然だと思う。

そう思う...思いはするのだが.....それはそれとして、なんていうか悪いことをしたような気分になってしまう。

こう、相手が居る女性に理由はどうあれそういう視線を向けるのは...こう、いけないことだと思う。


「それじゃ、その旦那さん?...彼氏さん?よく分からないですけどその人はどうしてるんですか?残穢さんみたいに魔書の中に居たりとか?」


そんな罪悪感から目を背ける為...そして単純な好奇心も込みで俺は残穢さんに質問をする。

すると、さっきまで聞こえていた楽しそうな笑い声が消える。

あるのは暫しの沈黙。


『そんな儂みたいなのが何人も居たら冥府の閻魔も頭を抱えるもんぜよ、とっくに死んだよ。』


「なんか、すみません。」


ぽつりと残る彼女の言葉を聞いて、俺は影にまた頭を下げる。

ただの好奇心で聞くべき質問ではなかったな。

知らなかったとはいえ、人には踏み込まれたくない領域がある。

そこを侵してしまったなら、頭は下げるべきだ。


『フッ、何をおまんが深刻な顔しちょるのか....話の発端は儂じゃ。それで目くじらを立てる程、儂は理不尽ではない。...まぁ、ただ久しぶりにアイツのことを思い出しただけぜよ。ただの感傷じゃ。』


「そ、そうっすか....。」


懐かし気な声色。

どうやら彼女は気にしていない様子。

それでも、思い出させてしまったのは悪いと感じた。

でもこれから契約?とやらをした身として相手のことを知れたのは形はどうあれ喜ぶことなのかもしれないな。


『とはいえ、未亡人だからと目の色を変えるなよ?噴き出しかねんからのう。来るとしても、もっと良い男になってから来い。』


「俺、もうホントに寝ますからね。」


影越しに残穢さんがニヤニヤと笑みを浮かべているのが想像できる。

こうやって目上の人から揶揄われるのは生前からあまり得意じゃない。

それにこんな時間だ、付き合ってられない。


『なんじゃ、いじくり過ぎたかの?まぁ、とにかく時間はかかったとしても心持ちだけはしっかりと持っておく。それだけは頭の片隅に置いておくんじゃぞ?...それじゃ、おやすみマドカ。』


釘を刺して来たな。

まぁ、説教が終わってからは雑談が多かったしな。

それで伝えたかったことを忘れられたら困ると思ったんだろう。


「うす、おやすみなさい。」


俺は彼女に言葉を返す。

それを最後にお互いに声を発することはない。

俺は背中を壁に預けるのは止めて、礼拝堂の扉へと歩みを進める。


道路が近くにあるわけでなく、街灯もない。

そんな夜が、こんなにも暗く静かだったなんて知らなかった。

礼拝堂の中の明かりも消えている今、月の青白い光がなければきっと何歩か踏み出すだけで迷う自信がある。

そして耳に張り付くかのような沈黙。

もしこの近くに湖畔があれば虫や木の葉が湖面に落ちる音すらも、響いて鼓膜を揺らすのではないかと思わせる程の静寂。

礼拝堂の中に入れば、きっと自分以外の微かな寝息が聞こえるだろうけど。


「....ここまで静かなら、眠れそうだ。」


慣れない環境とベッドもない環境で眠れるか心配していたが杞憂だったかもしれない。

身体は疲れからか重く、今ではこの静けさが心地よい。

目を閉じればすぐにでも寝落ちしてしまいそうだった。


ゆっくりと音を鳴らさないように礼拝堂の扉を開ける。

どうやら誰も起きてはいないようで、二人とも寝息を立てている。


「すぅ...すぅ.....。」


「こかっ....かぁ~....んごぉ...ずぅぅ....がぁー....。」


長椅子に横になって静かに寝息を立てている。

そしてハザクラさんは対照的に床の上でうつぶせになってすげぇ寝息立てていた。

ハザクラさん正直ちょっとうっせぇな....なんか心配になる感じの寝息の立て方だ。

やっぱり固い床の上でうつ伏せがまずいんじゃないんだろうか?

まぁ...犬みたいな寝方と言われれば頷ける。

....自重によって床との間で押されて形を変えた胸が目の毒ではあるのだが。


直ぐにハザクラさんから視線を外すと、俺は床に横になる。

自分の腕を枕に使う。

これ、絶対翌日腕が痺れたり痛くなる奴だ。

嫌だなぁ...明日、少なくとも人並みくらいの就寝環境に置いてもらえないか相談しないと....。


...これ、寝れるだろうか?

寝息と就寝環境にさっきとは打って変わって少し不安になる。

しかし、目を閉じれば段々と意識が沈んでいく。

規則的な呼吸音だけが頭の中を響いていき、身体が脳からの命令を受け付けなくなっていく。

腕を上げようとして見ても、きっと指をピクリと動かす程度だろう。


よかった....眠れる。

そう安堵したと同時にふっと意識の糸が途切れて睡魔の澱へと堕ちていった。





荒野のように、何もない。

剥き出しの土、それを彩るかのように紅い血潮が広がる。

血潮の主であろうか武装した人々が横たわっており、へし折れた武器の数々が使い手を弔うように傍で役目を終えていた。


一言で言えば地獄絵図、死屍累々だ。

その中で、一人女性が胡坐を掻いて座っていた。

まるで瞑想をするかのように目を閉じている。

そして右手には薙刀を持っている。


...俺はこの人を知っている。

整った顔立ちに切れ長の鋭利な目元。

髪は一つ結びに纏めているとはいえ、艶やかな黒。

胸が大きく開いた袴は返り血から所々赤黒く汚れている。

そして首元に輝く勾玉。

間違いない...この人は。


「ここが羅生門であることは分かり切ったことじゃろ....儂という悪鬼、番する冥府の門前。万に一つとして貴様らがここを跨ぐことはあり得んぜよ。立ち去れ、さすれば命だけは拾わせてやる。」


残穢さんは目を見開くと、ため息交じりに言葉を吐き捨てる。

その目線を受けて、心臓を掴まれたかと錯覚するほどの恐怖を感じた。

膝が震えている。

瞳は冷たく、どこか荒んだような印象を受ける。

人としての温度も生気もなく、ただの目の前に居る存在を瞳孔に収めている。

その瞳の先に本能的な忌避感を感じた。

それはあたかもとても高い場所から下を見下ろした時にふと感じる命の危機、それを慢性的に与えられているかのよう。

前に影の中で相対した時とは印象がまったく違う。


なぜ、そんな目で自分を見るのか?

そもそもここはどこなのか、なぜ影の中から彼女が出ているのか?

そして...後ろの人の背丈を遥かに超えた門は一体何なのか?


そんな疑問を抱くも、それは案外直ぐに氷解した。

視界に突然、男たちのローブに包まれた背中が現れる。

横を見れば、同じようにガスマスクのようなマスクで覆われたローブの男たち。

手には思い思いの武器を持っている。


...違う、突然目の前に彼らの背中が現れたんじゃない。

彼らに手を伸ばす。

すると、まるで空を掴むように彼らの体をすり抜けた。

そうか、俺を見たのではなくて俺の向こうに居たこの人達を見ていたのか。


そうだ、これは目の前に実際に起きている光景じゃない。

寧ろ...そう、過去だ。

直観的であるが、なぜだか過去の残穢さんが居た光景を見ていると分かった。

魔書の中に居るわけでも、俺の影に縛られているわけでもない。

であれば、一番可能性が高いのはソレだった。


「踏み出すか...分からんな、儂はじ、おりじんとやらがどんなものか伝聞でしか知らん。けれど、今儂が持っているこれの起源であることくらいは知っておる。...大方トビが油揚げを攫うが如く、その恩恵に預かり自分達で独占せんと言うのじゃろう。貴様らの上が思惑を叶える為、願望を遂げる為。」


彼女はゆっくりと組んでいた胡坐を崩すと立ち上がる。

その立ち姿はどこか気だるげで、うんざりしていた。

じ、おりじん?

一体なんだそれは....。

それが彼女の持つ薙刀の起源?

今の俺にはよく分からない。

そもそも残穢さんの様子からして彼女も良く分かってない可能性があるなコレ。

取り敢えず重要な物っぽい。


「『仇華』、『くわいあ』に『爪』と...貴様らは手を伸ばした先が何かを知らん。そして誰も分かっておらん。それを知る場所がここじゃ...そこを襲うという意味が分かっておるのか?貴様ら....。」


なにやら用語みたいな物を言っているっぽいが、この集団に対しての言動からこの人たちみたいな集まりのことなのだと推測する。

彼らを睨みながらも、吐き捨てる。

しかし彼らは反応することなく、散らばると隊列のようなものを組む。


「第3種武装隊用意!!」


「なんじゃ。今日の儂は機嫌が良いから、話は聞かずとも今自分が息をしてる事実を噛み締める時間くらいはくれてやろうと思っちょったが...どうにも貴様らには不要のようぜよ。」


そう言うと彼女は表情を消す。

それと同時に彼らが武器を向けると、そこに魔法陣のような物が現れる。


「撃ち方、始めっ!」


それと同時に放たれる白と黒の光弾。

それは破砕音と光を伴って残穢さんに絶えず向かっていく。

立ち込める砂煙。


残穢さん!と声を出そうとしても声が出ない。

そうか....今の俺は傍観者なのか。


「ォォォォオ”オ”オ”オオォォオオォッッッ!!!!!!!」


立ち込める砂煙の向こうに居るはずの残穢さんを心配していると、その直後にまるで地の底から響いてくるような轟音の如し叫びを聞いた。

突如巻き起こる強い風。

それは砂煙と彼らの飛ばしていた光弾のようなものを吹き飛ばす。


そこにはまるで獣が唸りを上げるかの如く、もしくは武将が勝鬨を上げるかのように雄叫びを上げる残穢さんの姿。

唖然とした。

だってそうだろ。

彼女は裂帛の気合だけで、彼らの攻撃を弾き飛ばしていたのだから。


動揺したのか彼らは残穢さんを見て後ずさる。

しかし彼女が薙刀を両手で持って構えた瞬間、俺には残穢さんの周りが一瞬暗転して見えた。

それは横薙ぎの一閃。


「...無尽、一切合殺。」


残穢さんがぼそりと呟く。

その瞬間に視界一杯を斬撃が縦横無尽に走る。

最早空間全体を乱雑に斬っているのではないかと思うような光景。

立て続けに上がる断末魔と共に、後に残るのは滅多切りになった成れ果て達だけだった。


「.....。」


残穢さんは一言も発することなく、その残骸を見下ろす。

しかし、ゆっくりと歩み寄ると懐に手を入れて何かを取り出して握りしめる。


「六銭をくれてやる。..渡し守によろしゅうな。」


そう言って彼らの近くに何かをばら撒く。

それは六枚の硬貨。

なんていうか...前の世界で鑑定番組とかで見たような古銭のような意匠の物。


そしてそれを最後に残穢さんはそれらに背を向ける。

表情は窺い知れないし、なぜだか声も聞こえない。

ただ、彼女が一歩踏み出すごとにゆっくりと門が開いていって.....





「っ..はぁっ!....はぁ....ゆ、夢.....?っぅ...、腕が.....!」


目を開けば、そこに広がるのは朝日差し込む礼拝堂。

起き上がった瞬間に枕にしていた腕にジワリと痺れが走る。

おぉぉ!!一番寝起きで嫌な感覚だこれ...!

しかも床の上で寝たせいで身体の節々が痛むし......!


ゆっくりと身体を起こしながらも痺れる腕から早く痺れを抜く為に揉む。

そんな中、何かが頭の中で引っかかった。

...あれ、なんだろう凄く大事なことがあった気がする。

そうだ、夢かって呟いたように起きる前に俺は何かを見ていたんだ。


今思えば確かにアレは夢だったけど、ただの夢じゃない。

くそっ...起きて少し経ったせいで内容が朧げだ....。

確か....門...そうだ、残穢さんを見ていて...それで....。


思い出そうと考える。

すると、霧が晴れるように徐々に見ていた夢の内容が思い出された。

俺が見た時とは違って剣呑な様子だった残穢さん。

大きな門とその前で行われた戦闘、彼女の必殺技。

そしてそれによる成れ果てに対して背を向けて門の中へと戻っていった残穢さん。


「いっつぅ....!」


それらの光景が頭の中を駆け巡ると共に、頭に鋭い痛みが走った。

FPSをずっとやってた時に感じる頭痛と似てるな...。


「ナナイさん?大丈夫ですか?うなされてましたけど....。」


そんな頭痛から頭を押さえると、向こうの方からマリーさんがこちらへと歩み寄ってくる。

そして近くまで来ると、座り込んでる俺に視線を合わせる為かしゃがみこむ。


うなされていた...?俺が?

いや、確かに汗は結構掻いているし息は切れていた。

いかにもうなされていましたって感じだった。


「やっぱり、多少片付けてもこんな環境で自分達みたいに訓練を受けたわけでもない人がちゃんと寝れるワケないであります。マリー、次はちゃんとした場所で寝かせてあげないとダメでありますよ?可哀想でありますよ!」


そんなマリーさんの後ろからマリーさんに指を向けながらしたり顔でハザクラさんが言う。

すると彼女は俯くと、こちらの眼を見つめる。

なんだろ、ちょっと近い。

気恥ずかしさから俺は目を逸らした。


「ごめんなさい...そりゃそうですよね。訓練を受けてない...それを考慮すべきでした。ハザクラじゃないんだから身体が痛むに決まってますよね...。」


「なんかその言い方、他意を感じるであります....。」


「知らないっ。」


ジト目を向けるハザクラさん。

そんな彼女の視線を背中に感じてか、彼女は冗談めかしてぷいっと顔を横に逸らした。

なんていうか....まぁ、仲良いなこの人達。


「心配させたみたいですいません!この程度全然大丈夫です!俺、寝つき悪いんっすよね。それだけなんで。」


心配させないように俺はマリーさんにそう言う。

夢の事は口にしない。

今の自分自身にも分からないことを言っても混乱を呼ぶだけだ。

それに...あれが残穢さんの過去だとしたら、ほいほい人に言って良いことでもないだろう。


「そうですか....?それなら良いんですけど....でも何かあったらちゃんと言ってくださいね?」


「そーそー。君の身体のことは君にしか分からないんだから。ちゃんと身体を気にしてあげないと自分が可哀想でありますよ~。お姉さんからのアドバイスであります!」


微笑を見せるマリーさんとその後ろで胸を張ってるハザクラさん。

アドバイスの内容は正しいが、なんていうか....こう人にお姉さんぶられるのに慣れてないから何とも言えない気分になった。


まぁでも、一日は始まったわけで。

ここで座り込んだままで居るわけにもいかないだろう。

マリーさんが立ち上がるのに合わせて立ち上がると、目の前の二人を見据える。


「まぁとにかく...マリーさん、ハザクラさん。おはようございます。」


「おっす!おはよ~であります!」


「はい!おはようございます。」


ハザクラさんは元気よく手を挙げて、マリーさんはニコニコと笑顔で挨拶を返す。

すると、彼女が俺の頭を見上げながらも何かに気づく。

そして手を伸ばした。


「寝ぐせ、立ってますよ。ふふっ...今日ここを発つ予定なので用意はお早めに。近くに川がありますから、顔を洗うと良いと思います。ここを出て左をずっと行けば見えますよ。」


「ぁ....う、うすっ!」


ちょっと一瞬硬直してしまった。

突然頭を触られて不覚にも一瞬ドキッとしてしまった。

それを誤魔化す為にも、返事に力が籠った。


...確かに顔も汗でべとべとだ。

出来るなら身体も拭きたいくらいだった。


「むふふぅ~なぁ~んか変な顔してるでありますなぁマドカ君?なぁ~んでかなぁ~?」


...なんだこの犬。

ハザクラさんはこちらを見ながら口元を押さえてニヤニヤと笑みを浮かべる。

なんでだろうな...この世界に来てから早くもこんなことばかりだ。

この世界の人間は年下を揶揄わないと気が済まない性質でもあるのだろうか?

...格ゲーの世界なら開発者の性癖によってはあり得る話だな...。


「....夜、貴方凄い寝息デカくてうるさかったです。一度病院で見てもらったらどうですか、いやマジで。ちょっと心配になるいびきでしたよアレ。」


「....わふぅ。」


俺の言葉を聞いて、シュンとなる彼女。

耳もへにょりと折れて、尻尾もへたりと垂れる。

...言い過ぎだったか?

いや、でも事実ちょっと心配になったのは事実だしな。

それに、人にちょっかいかけるってことはしっぺ返しを食らう覚悟はして然るべきだと思う。


そんなこんなで礼拝堂の外へと歩み出る。

外はどこかで小鳥が囀り、そよ風が俺の頬を撫でて木々を微かに揺らしていた。

夜では分からなかったけどこんなにも自然豊かな場所だったのか、ここの周辺。


言われたように左へと歩んでいく。

燦燦と降り注ぐ太陽の光に、朝起きたという実感を感じさせた。

爽やかな朝、一人歩く自然の小道。

それだけに今日夢で見た光景がずっともやもやと頭の中で渦巻く。


残穢さんの必殺技らしき物が見れたのは良かった。

これで影に何が出来るか残穢さんに聞いた時に、自分に出来ることは大概出来ると言われて分からなかった残穢さんの出来ることを知ることが出来たから。


それでもあの時見た光景は凄惨だし、そもそも分からない事ばかりだ。

なぜ残穢さんが襲われていたのか?

じ、おりじんとか色々分からない用語もあった。


そしてなにより...あの門の向こうには何があるのか?

何故残穢さんがあそこを守っているのか?

彼女は自分の事を番人と称していた。

つまり、彼女が守るべきだと思った物が門の向こうにあると考えられる。

そんでもって一番の疑問は...なぜ夢としてあんな光景を見たのか?


「分かんねぇ...。」


考えたって分からない事ばかりだ。

まぁ、当然だよな。

昨日来たばかりの世界なのだから。


....あとで時間がある時に残穢さんに聞くか?

いや、でも急に語った覚えがない彼女の過去を聞くのもな...。

正直、これ...彼女の過去を覗き見たのと同義だし。

しかも説明がしづらい。

なんで夢で見たのか俺自身も分かってないんだから。


しばらく考えるも、答えは出るわけがなく。

最終的には、今は支度を済ませて後で考えることにした。

考えても分からない事をいつまでも考えて、今やるべきことを止めてしまうのは馬鹿げている。


取り敢えず今は一旦置いておこう!うん!!

丁度川に着いたしな!!


そうと決まれば、川べりにしゃがみ込む。

そして清流から水を掬いあげると、頭の中のもやもやを掻き消すように顔を洗った。

俺、昔はバリバリやってたお姉様が過去を背負いながらも今では丸くなった未亡人と揶揄われる年下青少年のバディが...好きなんすよねェ~~~~!

性癖開示はバーストと同義。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ