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格ゲー、最低一人は話通じない戦闘狂居がち

自宅療養で苦しんでいる間に、某ゲームで鰤が実装されてました。

なんか、凄い世界に置いて行かれた気分になりました。

「...?何者でありますか?」


こちらの様子を窺う犬耳の少女。

慎重にこちらを見定めようとする少女とは対照的に俺の胸中は穏やかな物ではなかった。

やべぇよやべぇよ....、今さっき管理機関がヤバイ所って話聞いた矢先がコレかよ...!


...いや、確か応援を呼ぶってマリーさん言ってたよな。

クソッ、つまり来るべくして来たってことかよ...!

辺境にしては早すぎだろ、来るの!


どうする....ここはどうすれば良い?

目の前に居るのは管理機関の少女。

しかも最初に俺と相対したマリーさんとは違って、事の経緯を知らない。

そんなヤバ組織の女の子に、どう説明すれば良いんだ....?


「...聞いてるでありますか?」


「あ、は..はい!!聞こえてます!!もしかして、もしかしなくてもマリーさんが呼んでいた応援の方ですか!?」


このままだんまり決め込んでちゃ明らかに怪しい。

だからこそ、彼女の言葉に急いで返答した。

マリーさんの名前も出したし、応援の人なら何か察してくれないか?


すると、怪訝な表情を浮かべていた彼女が目を丸くした。


「マリーについて、知っているでありますか!?」


お、食いついた!

知り合いであることは確かみたいだ。

だったらなんとか言いようによっては説得できそうだ。

見る感じメカニカルなあの子みたいに話の通じないわけでもなさそうだし。


「えーと、どこまでマリーさんが話していらっしゃるのか分からないんですけど、色々あってマリーさんに保護してもらってましてぇ~!いや~その印を見る限り、管理機関の方ですよね!?安心しましたよ~管理機関の方たちが来てくれたら安心だ!!」


畳みかけるかのように言葉を投げかける。

あくまで自分は保護されただけ、そして管理機関に対しても友好的であるってことを表現する。

ほら、管理機関って名目上は警察的な役割なんだろ?

ほら、盲目的にそういう権威信じてる取るに足らない小市民だぞ俺は!

だから怪しんだりしないでっ!


「なるほど、貴方でありますか。マリーが話していた魔書と適合してしまった異世界出身者だと自称しているというのは。」


「...はい、いやまぁ....そうですけど。」


改めて他人の口から俺のパーソナリティを聞くと怪しいなんてもんじゃないな。

明らかに嘘ついてそうである。

それにしても、どうやら目の前の犬耳は俺がトイレに居る間にとっくに教会内でマリーさんから話を聞いていたようだ。

そう考えると、俺がトイレに行ったタイミングでここに辿り着いたって考えるのが妥当だろう。


...うむ、早いな応援。

マリーさん、辺境だからって自信なさげだったけどそれも杞憂だったわけだ。

それは逆に管理機関って組織が色んな所に人材置いてるのかもしれない。

まぁ、俺が居た世界でも町一つに交番があったりするわけだし感覚的にはそれに近いのかもしれない。


「災難だったでありますなぁ....自分がもし知らない土地に放逐されてしまったと考えたら身体が震えてしまうであります!世界単位ならなおの事でありますなぁ!」


...これは、皮肉...なのか?

しかしなんかそういうわけでもない感じがする。

ただ単純に無邪気にそう思ったことを口にした感じがするような明るい声色だった。

いや、でもだとしたら異世界から来たってことを人伝に聞いて信じたってことになるんだが....。


「えーと、あの..それって俺の話信じくれてる...ってことっすか?その...異世界から来たっていう....。」


恐る恐る目の前の少女に尋ねる。

すると、さっきまで明るく振舞っていた少女が目を細めて俺を見つめた。

その目線はまるで責めているかのような目つきであった。


「....それって、もしかしてマリーに嘘を吐いたってことでありますか?」


「いや!そう言うことじゃなくて!!....普通に信じられないでしょ、異世界から来たなんて。それに貴方は実際に僕に会ったわけじゃなくて人伝で聞いただけだし....、それなのになんだか信じてるみたいな口ぶりだったから...。」


慌てて思っていたことをそのまま言葉を口にする。

なんていうか、彼女の態度の変貌に一瞬の剣呑さを覚えたのだ。

簡単に言えばちょっとビビったのだ。

それに聞かせても不都合のない言葉だし、実際不可解だったしな。


すると、彼女は何を誇りに思っているのかしたり顔で胸を張った。


「ふふん!マリーが信じている間は自分も信じるであります!それに、異世界から来たって方がなんだか面白そうでありますしなぁ!!」


「面白そうって....。」


なんとも呑気な物言いである。

どうにも秩序を守るとかいう機関に所属しているとは思えない物言いである。

ただ、そこで俺はピーンと来た。


これは所謂なんかそういう堅苦しい機関に所属しているキャラの中でもムードメーカー的な感じの役割を担っているキャラなんじゃないか?

上司のTHE堅物って感じのキャラと抱き合わせられがちな感じのキャラ。

それでいて、今の発言のように友達思いな真っ直ぐ素直な女の子。

キャラ性能的には拳とかでまっすぐ相手に迫って肉迫して殴り合う感じのさ。


ギャグシナリオとかではトラブルメーカー、もしくは逆にツッコミ役になる感じの子。

露出度の高い恰好からお色気枠的な意味合いも感じるな。

なんていうか格ゲーにありがちな感じの属性の詰め合わせって感じがするぜ、『獣耳』に『ホットパンツなどの露出度の高いミリタリーちっくな恰好』とかって。


なんか口ぶりから少し足りなそうな感じもするし、それでいて『~であります』口調でどことなくあざといな。

でも、なんていうか話が分かる感じはするな。

ほら、格ゲーって人の話聞かない奴とか居がちだしな。

...今の所、幸いにもそういうのは出くわしてないが。


「けれど、確かに貴方の言う通りかもしれませんなぁ。」


「え、何がです。」


何にも言ってないんだが、俺。

すると、彼女は真っ直ぐにこちらを見据えた。


「だって、貴方がマリーに本当の事を言っていて、異世界から来た人だとするであります。...それはそれとして、貴方がその魔書の悪用へと至るような心根の悪い人であるって線はなくならないわけでありまして。人は見かけでは分からないものであります!」


...まぁ、確かにおっしゃる通りだった。

例え俺が本当に巻き込まれていて、異世界から来た人間だとしても性根が良い奴であるということとはイコールにはならない。

世の中は性善説では回るのが理想だろうが、実際は性悪説で回るものだからなぁ。


けれど、それが俺の言う通りという意味がまったく分からない。

俺そんなこと言ってないんだが?

それに話にも脈絡がない、今それ言う必要ある?


「それに自分の野生が言っているであります!...その魔書は“匂う”であります。」


そう一言言った瞬間、彼女の眼が据わった。

瞳から感情の色を失ったのだ。

それを間近に確認して、俺はぞわりと背筋が冷えた。

この感覚はあの時に近い。

まだ俺が生きていた頃、目の前に車体が迫っていることを近くした時のような....。


『何をボーッとしてるぜよ!早く儂の名を呼べ!!』


「え....?何が......。」


切羽詰まったような焦燥感滲み出た叱責が影から聞こえた。

すると、目の前の彼女は前傾姿勢になると自分の胸を右腕で抱くように寄せる。

そして目を閉じて、口を開いた。


「安心せよ...我が鈍は人を斬れず、両断せしは人の罪。痛みを感ぜば所業を悔いよ、畜生道へと堕ちていけ。...『正刀・罪斬狼(シンキロウ)』抜刀....であります。」


その名前を口にする。

すると呼びかけに応えるように、胸元が光る。

よく見れば胸元にはまるでペンダントのように紐に繋がれた小さなアクセサリーくらい大きさの巻物のような物が付いている。

それは光を放った後、寄せられた胸に挟まれながらも霧を発すると形を失った。


それはマリーさんのガンスミスでの大技でも見たのと似ていた。

本が武器に形を変える瞬間。

谷間でユラユラと揺蕩う霧に左手を差し込む。

そして、谷間から引き抜くかのように棒状の霧を取り出すと霧が晴れて一振りの刀が姿を現す。


刃の部分が潰れた刀。

それを目に収めた瞬間、彼女の姿が消えた。

ゾワリと背筋を生暖かい舌で舐められたかのような悪寒。

本能的に訴えかけて来ていた、自身の二度目の生の危機を。


『良いから呼ぶぜよっっ!死にたいんかっ!!?』


「ざん..えっ....!」


咄嗟の出来事に訪れるはずだった意識の空白を裂くかのように残穢さんが声を発する。

言われるままに、俺は口を動かして名前を呼んだ。



金属同士がぶつかり、擦れあう音。

刀をこちらへと振り下ろさんとする犬耳。

そんな彼女の白刃を、真っ黒な薙刀が受け止めていた。



「残...穢....さん?」


俺の足元に広がる影。

そこから女性的なフォルムの黒い人型が薙刀を用いて犬耳と鍔迫り合いを演じていた。

のっぺりとした黒い表面に瓢箪のようにメリハリが効いた体のライン。

それはあたかも女性の足元から伸びた影が三次元的に目の前で立っているかのようだった。


その影は鍔迫り合いをしている犬耳を力のまま払い飛ばす。

そして払い飛ばした後、すぐに液状化してバシャリと影に落ちる。

後に残るのは俺の影の表面を広がる波紋のみ。

その影の形はどこかで見た...いやさっき見た人物のよう。

そして目の前のこれは俺の影から出てきた。

...つまりは...。


「残穢....さん!?随分...真っ黒くなっちゃって....。」


唸るように言葉を捻り出す。

シルエットでしか判断できないと言うより、シルエットそのものだ。

NTR物とかで女の人が黒く焼きがちというのはよく見るが、目の前にある黒はもはやすべてを飲み込む暗闇。

それ自体を斬りぬいたかのような有様だ。

不可思議な事この上ない、正直滅茶苦茶狼狽えてる。


すると、そんな俺の言葉にハァ~と呆れたような溜息が影から聞こえた。


『...それは儂じゃなか。ただの影法師、儂の今まで積み重ねていた武芸、記憶や鉄火場での経験などを切り取った断片に過ぎん。』


「あー、えっと...それはどういう原理で.....?」


出た出た格ゲーの設定の悪いところだ。

こういうなんか小難しい感じの理屈を一枚かましてくる時あるんだよな。

こう、専門用語とか過去に何があってどういう世界観か知らないと分からない感じの奴。

俺、残穢って魔書どころか魔書についても何にも知らないからな?


『あー分からんか...うーん....こう、なんじゃ。儂がこの魔書の中で広がる虚数空間からそちらに干渉する為に出している搾りかす...いやとても噛み砕いて“分身”じゃと思えば構わん。本来はそちらの世界に弾かれた儂の影だからこそ長時間維持できずに常に常世から修正力を受けていて貴様の影の直上でなければ形を保つことすら出来ない哀れな影法師ぜよ。』


「な、なんとなくわかったような....分からないような....。つまり、これが残穢の力ってこと?」


めっちゃ苦虫を噛み潰したかのような声で説明している。

なんとなく、こう...残穢さんっぽい行動と強さしたエッチなフォルムのシルエットを出せる力ってことなのか?

それにどうやらこの影は俺のこの広がっている影の上でないと出すことすら出来ず、また出せてもすぐに消えてしまうということが分かった。

どうにもさっきあの犬耳を切り払った後に追撃しなかったのはそういう事情が関係してそうだ。


『あ、あー...あ~~~~!ざん、えの力...厳密に言ったら違うんだけど、儂が現実に干渉しようとしているだけで本来の残穢とはなんら関係ないというか....いや、でも一応残穢の力を利用しているとわけでもあるのだから残穢の力と説明しても間違いではないのか....?う~~~~ん....ま、まぁ今その認識でも問題ないぜよ。正直仕組み分かっていようがいまいが戦いには微塵も関係ないし、説明するとなると複雑で分かりにくいし説明しづらい。加えて面倒臭い上に今この状況でやることじゃない!』


滅茶苦茶複雑そうに唸っていた。

どうにもそこらへんは結構ややこしいらしい。

残穢の力ではないが、それを残穢さんが何らかの手段で利用して色々影法師出したりしてる....これ残穢さんの自称した名前と魔書の名前が同じせいで考えててこんがらがるんだが。

もうこの状況理解の段階でややこしいとなると、相当だろう。

それに確かに今襲われた状況下で魔書についての説明されてもこっちも困るなぁ。


「それじゃ....なんか説明は今は良いです...。」


『そう言ってもらえると助かるぜよ。今度時間と余裕がある時にゆっくり説明するからのう。すまんが今は気にせんでくれ。』


何とも言えない声色で残穢さんはそう締めくくる。

確かに今はそれどころじゃないしな....いや、そうだよ!

それどころじゃないんだよこっちは!

目の前には大層な魔書の刀持って襲ってきた管理機関の犬耳がそこに居るんだから!!


俺は再度目の前の少女に意識を向ける。

彼女は後方に弾き飛ばされながらも空中で姿勢を正して、器用に着地していた。

腰を低く保って刀を構えている。

それはさながら居合のようであった。


「急に斬りかかってくるなんて、何のつもりですか!?俺が言った通りって言った矢先にこれってわけわからないですよ!」


まずはいきなり斬りかかってきたことの真意を聞かないといけない。

それ次第では管理機関の息がかかった人間は避けないといけなくなるから。

そもそも言った通りって何のこと?という疑問の答えはなんら得られてないし。

すると彼女は案外サラッと答える。



「言った通りというのは貴方が言っていた普通信じられないってところであります。マリーが言ったから貴方の言葉は信じるでありますが、それはそれとして貴方個人についてはまだ信じられないであります。目の前の人間が善い人かどうか。それを今の段階で明らかにするのに最上の方法、それは斬ってみる以外に他ならないのであります!それに....。」


言った通りっていうか、それ結構発言切り取ってない?

聞きたいところだけ聞いてない?


内心で若干ツッコミながらも目の前の彼女を見据える。

一瞬途切れる言葉。

次の瞬間、犬耳はそこで初めて笑みを浮かべた。

口元に刻まれた凄惨な笑み、覗く犬歯。


「やっぱりこちらの方が面白いであります...!」


....あ、分かったわ。

つーか訂正するわ。

コイツのこと、喋り方や振舞いで話通じそうとか堅苦しい組織における明るいムードメーカーとか色々思ってたけど全然違うわ。

戦闘狂の話通じないタイプの奴やわ。

格ゲーにありがちなクソコテ寄りの脳筋だわ....。


すると、彼女は刀を一度素振りするとまた一歩踏み出す。

その瞬間、身体に霧のような物を纏い始める。

これは....ヤバイ!


「ッ、残穢!!」


張り上げる声。

喚起されるように足元の影からせり上がる影法師。

影法師は目の前の敵に対して横凪に薙刀を振るう。


普通であれば、刃が届く。

されど、犬耳に刃が届くことはなかった。


「吶喊であります!」


霧を纏いながらもこちらとの距離を縮めていた少女。

それは刃が当たりそうになった瞬間、身体が一瞬霧散した。

そしてまた霧が寄り集まると彼女が姿を現す。

さながら目の前で神隠しでもしたんかと思うような光景だった。


いや、そんなことはどうでもいい!

一撃が外れたということは影法師の懐に彼女が入ったということ。

あんなに大振りの攻撃の後だ。

対処できるとはとても....!


「残穢さん!」


『心配無用!』


「覚悟!!」


声を上げる俺の声を搔き消すように張り上げられる残穢さんの声。

それと同時に迫る犬耳の一撃。

しかしその刃が届く瞬間に、影は形を失ってバシャリとバケツをひっくり返したかのように影の中に沈んだ。


犬耳の白刃は空振り。

空振りになった彼女は一瞬目を丸くするも、こちらをしっかりと見据えてきた。

そう、俺を見据えた。

障害がいなくなったことで本丸を捉えたと言ったところだろうか。


しかし、そこに再度割り込むように影がせり上がる。

しゃがんだ状態で薙刀を自分の上180度に薙刀を振り上げる影法師。

下段強攻撃...って感じか?

なんとなくだがそう思った。


犬耳の方は咄嗟に刀を横向きに持って攻撃を防ごうとする。

しかし押し切られるように弾き飛ばされた。

吹き飛ばされて上空に浮かび上がる彼女。

結構な力で吹き飛ばされたからか、頭が下と受け身をとっても無事に着地できるかって感じの状態。


しかし、刀が彼女の手元で霧散すると次の瞬間に信じられない光景を目にする。

上空に居る彼女。

その直下に同じようなポーズであるが、鏡合わせに足を地面に頭を上にした状態の彼女が現れる。

そして、刀が再度二人の手元に現れると上空の彼女の方が霧に包まれて消えた。

そして後に残るのは地表でまともな姿勢で現れていた彼女。

気づけば彼女は無事に着地していた。


「...理科の教科書とかで見たな。蜃気楼...名前のまんまか。」


蜃気楼。

特定の条件下で大気中で光が屈折し虚像が見える自然現象。

たとえば遠くから見ると海上を船が浮いてるように見えるとか、逆さまに見えたりする現象のこと。

見る限りそれっぽいし、名前の通りの挙動である。

まぁ、そりゃこの世界は格ゲーの世界なんだからそりゃそうか。

あからさまに魔書のモチーフが蜃気楼なのに、モチーフ元から演出をズラす必要がないからな。


『どこか阿呆のように見えていたが...やはり管理機関の人間。面妖な事を....。』


苦々しいといった感じで影から声を漏らす残穢さん。

バシャリとまた影に沈む影法師を見ながらも、俺はただ今までの奴の挙動...そして影法師の挙動について考えていた。


この世界は格ゲーの世界。

だとすれば動き一つ一つが多少なりともコマンドに結びついているはずだ。

そんでもってキャラクターごとに個性があるはずである。


だとすれば、多分目の前の犬耳は肉迫してくる...突っ込んでいくのが特徴なんじゃないだろうか?

例えば、霧を纏って突っ込んでくるあの動作。

あれ自体があのキャラの特徴的なコマンドで突っ込んでくる間、あの一連の動作の間は喰らい判定が消失してるんじゃないだろうか?

無敵判定が上半身のみとかの一部だけ無敵になるのか飛び道具や斬撃などの一部の攻撃に対して無敵判定なのか、もしくはあの動作の間だけ完全無敵なのか。

なんにせよ影法師の一撃がスカッてたからそんな感じはする。

懐に潜り込まれた後だったら下段攻撃っぽいのが当たってたし、無敵判定が攻撃判定の発生成立後まで持続するような典型的な無敵攻撃な気がするな。


それなら、あの動作中はまともに相手しない方が良い。

この世界がどこまで格ゲーに準拠しているか分からないが、無敵行動もずっと無敵なんてことはあり得ない。

例えば一定の距離移動して攻撃が当たらなければ自動的に行動は終了して足を止めたりするはず。

そのタイミングで攻撃を差し込んでカウンターを狙おう。

事実、俺は意識してなかったが影が似たようなことをやっていた。

画面端なら相手の行動の終わりを待つなんてこと出来ずに激詰めされてガード崩されてコンボ決められるのが普通だが、ここは生憎格ゲーの世界っぽいけど格ゲーそのものではない。

だからこそ画面端なんて概念なくて、周りに広がるのは森だ。

距離を開けようとすればその気になればいくらでも開けられる。

...まぁ、格ゲーその物じゃないって理屈を取ってしまうとさっきまでの俺の考えもそれで片付けられてしまうのだけれど。


感覚的に考えれば突撃してくるのはこの世界がどんなシステムなのか知らないが、多分方向キーをニュートラルか横に倒した状態で該当するボタンを押す。

もしくは俺の居る方向にコマンドをしたのか。

あの蜃気楼は多分空中で方向バーを下に倒してボタンを押したのか。


「...そんなことが分かったところでって話なんだろうけどさ。」


そこまで相手を自分なりに分析してみた...されど出てくるのは自嘲と呟き。

まぁそりゃそーよって感じである。

これが俺が筐体に座ってアケコンガチャガチャって感じの状態なら意味のある考えだろう。

相手の振るコマンドを踏まえて自キャラを動かす。

格ゲーある程度やってるなら下手かどうかはさておきやってることだ。

上位層と他が差が出るのがそういう判断なんだから。


でも、今の俺の状況はそうじゃない。

今ここに立っている、目の前で刀を振り回して霧になったり出来るような奴と相対しているのだ。

この身一つで、最悪今度こそあの世行き。

そんで俺自体は喧嘩すらしたことなくて、そもそも残穢から影が出て動作的に格ゲー感を感じさせられてもそもそもコイツが何が出来るかまったくもって分からん。

そんでもって俺を動かすのはアケコンではなく、俺のこの不出来な脳みそただ一つである。

影に至っては正直、影の中で残穢さんが動かしているっぽいし。

状況は俺が追い込まれている。


つーか、薙刀ぶんぶん振り回す影とか出て来てる感じからすると....もしかして残穢の性能ってなんかあれじゃないか?

格ゲーのキャラで言えば自キャラとは別のもう一体キャラが居てこう...コマンドとかでそのもう一体のキャラを動かしつつ自キャラも動かして相手を切り崩したりハメたりするテクい感じの性能してんだろこれ。

俺だったら絶対に使わないキャラなんだが?

俺馬鹿だからよぉ....動かす対象が二体だと複雑でこんがらがってまともに対戦できねぇんだよなぁ!


それにさ、こういうのって大体自キャラ単体では弱いけど一応攻撃振れたりするもんすよね。

...俺、何にも出来ないんだが??

何回でも言えるが、喧嘩なんかしたことない非力な現代人である。

やっべぇ...俺個人が悲しいくらいにこの魔書との相性が悪い説出てきたぞ....。

2キャラで揺さぶり掛けられない追従キャラ持ちとかマジで存在価値ない産廃だぞ....。


『なんじゃボソボソ言いおって。何か打破する為の考えでもあるのかのう?』


「いや....そういうことじゃ....。」


残穢さんの問いかけを否定しようとして、言葉を止める。

待てよ...。

仮に、残穢が追従キャラ引き連れるテクい性能だったとしよう。

でもだとすると、この所謂追従キャラに当たるであろう『影』について納得できないことが一つある。


影の性質として残穢さんが言っていたのは『自分の記憶や戦闘での経験などの断片に過ぎない』ということや『俺の影の下でなければ存在を保つことすら出来ない』ということ。

だとすれば影は俺の周辺でしか戦闘することが出来ない。


でもそれは、追従キャラ持ちで2キャラ動かして切り崩していくというコンセプトにはそぐわないのである。

こういうのは追従キャラだけ突撃させられたり、敵の背後に呼び出して前後で攻めてガードを崩したりするのがテンプレートである。

そして、俺の足元の影。

それは明らかに残穢さんと契約する前とは異質な物となっている。

なんていうか見る限りドロドロしてて...液体っぽい質感になっている。


事実、影が沈む際や出てくる際に水しぶきみたいに黒い影が飛び散っている。

もし....もし、俺の足元の影を俺の足元から掬いあげてどこか別の場所にぶちまけることが出来れば?

それさえ出来れば、影法師はきっと俺の足元から離れて行動することが出来る。


これは、ただの予感だ。

でも、不思議と今までの時間を無為に使ってきた経験から自然と確信していた。

多分、この影はなんらかの手段を用いれば別の場所に広げることが出来る。

それは俺がやるのか、はたまた影法師がやるのか分からないが....それでもそれさえ出来ればこうして受け身のままでいる状況は覆せるんじゃないか?


「残穢さん!この影法師って...何が出来ますか?」


『...?そりゃ今日結んだばかりの契約では儂とおまんの間の経路がまだ確立はされていないから劣りはすれど、儂の影じゃから儂が出来ることは大抵出来るぜよ。』


「それ、答えになってなくないですか!?」


自分に出来ることは大抵出来るってなんだよ!そりゃそうだろ!

俺は、アンタが何が出来るのか知らないんだよ!

そりゃアンタ自身のことはアンタなら分かってるだろうけどさ!!

なんなら寧ろ契約が云々が不穏である。


しかし、一度残穢さんの言葉に言葉を投げかけた瞬間に目の前の犬耳が纏う雰囲気が更に変化した。

まるで嵐を前にして強まる風に不自然に騒めく木の葉のように心がざわついた。

眼を閉じると、直立して刀を自らの前に横向きに突きだすと刀身にもう一方の手を翳す。


「なるほど、担い手を守るでありますか。....よもやここまでとは、であればこちらも相応に手合わせさせて頂くでありますっ!」


凜と声が響く。

そして、目をカッと開いた。

その瞬間、一瞬だが....カットインが見えた。

あの時、書庫とやらで見たマリーのとは何やら違う。

超必の演出のそれではなく、全身からオーラのような光を微かに湛えている。

なんていうか格ゲーにありがちなボタン全部押した時になる制限時間付きの一時強化みたいだなって思った。


『来るぜよっ!!』


「なんとなく、それは分かる!」


明らかに今までとは違う。

身構える。


すると、次の瞬間目の前の犬耳の姿が横に引き延ばされたかのようになる。

実像が引き延ばされたように見える。

それ自体は典型的な蜃気楼で、理科の教科書とかでも見た物だ。

しかし、次の瞬間引き延ばされている彼女は更に横に伸びていき...最終的にプチっと千切れるかのようにして分かれた。

まるで細胞が分裂するかのように。

そう、二人に増えたのである。


『なんじゃあれは...なんてでたらめな.....。』


「勘弁してくれよ.....。」


あまりの光景に心情が漏れて出た。

一人でも受け身に回らざるを得ないのにもう一人増えるとか....。

そして当の本人たちは何とも言えないしたり顔で既に豊かな胸を誇らしげに張っていた。


「増えてみたであります!」


「一人に戻る前に、片つけさせてもらうでありますよ!!」


そう言って二人は左右対称に刀を構えてこちらに走り寄る。

一人に戻る前とか言ってるし、どうにも時間制限があるようだ。

やっぱり時限強化じゃないか!


「多分、今までのこと鑑みるとどちらか虚像っぽいけど....分かる!?」


『分かるわけないじゃろ!初めて見る魔書じゃし!!』


俺の問いかけにノータイムで返ってくる答え。

まぁ、そりゃそうだよな。

でも、そうだとしてもどっちにしろ影法師で対処してもらわないと切り捨てゴメンされかねないのは事実だ。

少なくとも、今俺がしゃがみ込めるだけの時間は稼いでくれ!


「ですよねぇ!!それでも今は頼むしかない、頼んます残穢さん!!」


『当然!』


残穢さんの言葉のすぐ後に、足元から影法師が這い出てくる。

そして二体と相対する影法師の背中を見た後、俺はしゃがみ込んだ。

別に怯えて足元が竦んだわけじゃない。

俺に出来ること....俺にも貢献できるかもしれないこと。

それを知る為にも俺はしゃがんでいるのだ。


足元の影。

影法師が這い出たばかりでユラユラと小刻みではあるが波が立っていた。

そんな影に指を突っ込む。

すると第一関節の辺りまで沈む。

それ以上指を入れようとすると柔らかいナニカにはじき返される。


触れられることは分かった。

だったら次は.....。


両掌をまるで皿にするかのようにくっつけて並べる。

そしてゆっくりと表層を掬いあげた。


指の隙間からぽちゃぽちゃと滴り落ちる黒。

しかし、それでも確かに....掌の上で黒が水溜まりを作っていた。

やっぱり.....俺の予想は間違ってなかった!!

残穢を使いこなすには....なんとか影をどこかに広げて影法師の可動範囲を増やす必要がある!


『っぅ....!!不味い、やはり昨日今日の契約で儂とおまんとの繋がりが不十分じゃ!!影法師の立て続けの再顕現で動作も遅延が酷い!!何もかもがこれでは足りん!!』


残穢を使う為のヒントを掴んだ瞬間、忌々し気に歯噛みする残穢さんの声で前方の犬耳たちの方へと意識が引き摺り戻される。


影法師は薙刀を振り回していて大立ち回りをしているように見える。

しかし、左から振り下ろされる白刃を受け止めると同時に右の方から犬耳が身を踊り出す為、白刃をはじき返して横凪に薙刀を振る。

右側から距離を詰めようとした犬耳は一度距離を離す。


横凪に薙刀を振るっただけで、影法師は耐え切れないといったように自壊して影にびちゃびちゃと滴り落ちる。

その隙を縫うかのように左上から斬りつけていた犬耳は今度は刀を下から掬いあげるかのように振るいつつ、俺目掛けて距離を詰める。

しかし、すぐに影が這い出ててそれを受け止めた。


どうやらこれは本調子ではないようだ。

その証拠に、さっきまでは完全に這い出ていた影もいちいち全部出していたら間に合わないと感じたのか上半身だけが影から這い出て薙刀で彼女たちを迎え撃っている。

それでも紙一重で抑えられてるのは、流石というかなんていうか。

彼女の過去の経験や武芸とやらの強さを窺い知れる。


『今はまだ...されどこのままでは、突破されるのも時間の問題ぜよ!』


「...だったら、一か八か賭けるしかないっすね。...俺が可能な限り影を色んな場所にぶちまけます。その間耐えてください。それが終わったら、俺のことなど放って奴に自分からガンガン斬りかかりに行ってください!」


『...!?おまん自分が何を言っておるのか分かっておるのか!!最悪、おまん自身が....。』


残穢さんの声の調子が厳しくなる。

分かっている、正直危険な策だ。

それに、現状掌を器にして影をまき散らすことになるが、やはりそれでは非効率極まりないだろう。

上手く行く可能性は低い。

...されど。


「あれ、こういう言葉があるの...知らないんすか残穢さん?攻撃は最大の防御...ってね。」


『...おまん、バカじゃろ?』


本調子じゃなくても抑えきるくらいは出来るなら、守りを放棄して俺に攻撃が届く前にこちらの攻撃を届ければ状況を変えられるかもしれない。

...というより、それ以外にこの状況を打破できるような考えが思いつかなかった。

呆れ果てたような声が足元で聞こえた。

まぁ、なんら間違ってはいなかった。

しかし、すぐにクスリと笑う声が聞こえてくる。


『でも、そんな馬鹿は嫌いじゃないぜよ。いいよ、乗った。』


そう言うと、影は変わらず犬たちの攻撃を受け止めてくれている。

左から突きが迫ればそれを打ち払い、立て続けに対空だろうか右側の犬耳に蹴りを入れる。


「良い、良いでありますよ!」


「やはりこの応酬、やめられないであります!」


危うげなほどに愉快そうな笑みを浮かべる犬耳。

そんな彼女達を見ながら、俺は影を掬う。

全てが指の間から滴り落ちる前にぶちまけよう。

余裕ぶってられるのも今の内だ。

そう思った矢先。


「ちょっと!なにを騒がしくして....な!?ハザクラ!アナタなにしてるのっ!?」


礼拝堂の扉が開く。

開いた扉に身体を預けながら、マリーが外の様子を見に来た。

そして俺と犬耳を交互に見て、血相を変えて声を上げていた。

ハザクラ...多分犬耳の名前だろう。


『おい!何を気を取られておる!!』


「っ....!」


残穢さんの言葉でハッとした。

突然の彼女に、意識が一瞬そちらに持っていかれた。

早く影を撒かないといけないのに。


「今でありますっ!」


「そこに、隙があるっっっ!!!」


『しまっ....!』


しまった。

残穢さんがそう言いかける。

俺がマリーに意識を向けた、そんな俺に意識を向けたことで隙が生まれてしまった。


その隙を目ざとく見逃さなかった二人。

まず、影が薙刀を持つ右手を右側の犬耳が切り落とす。

影は出血も何もない。

ただ、狼狽えながらも足を振り上げようとする。

多分徒手空拳に切り替えたつもりなのだろう。

しかし、その蹴りが当たるよりも早く左側の犬耳が懐までに入ると。


「獲った...でありますぅぅぅぅうう!!!」


横に一閃。

影が上半身と下半身で分かれ、切り離されながらもグジュグジュと形を失って影へと落ちた。


まるで一瞬が引き延ばされたかのような感覚。

死が...明確に迫ってくる。

こんなに早くあの世に後戻りとは、神様も驚きだろうな。

....あそこで意識を外さなければ。

今更ながら後悔する。


二人居たはずの彼女は時限強化が終わったのか片方が消えて一人がこちらへと肉迫してきている。

刀は引き抜かれている。

出来れば、痛くないと助かるなとかそんなことを思っていた。


罪斬(シンザン)・一賊狼刀!!」


彼女の技名を叫ぶ声が響く。

やべぇ、当たる!

なんとか後ろに身を捩ったら傷が浅く成ったりしないか!?

その一心で身体をのけぞらせた。

しかし、どう考えても刃先は浅かろうが俺に当たるのは事実。

迫る白刃、哀れ流れ出る俺の血潮.....。


「....え?」


鋭い痛みが走るものだと思って目を閉じた。

しかし、いつまで経ってもその瞬間は来ない。

眼をゆっくりと開ける。

すると、そこには....俺の身体を避けるかのように刀身が霞みと化して空を切る柄だけになった刀があった。


「....なるほど、やはり。驚かせて申し訳ないであります。でも、これで貴方のことも大体わかったでありますよ。」


すると彼女は柄だけになった刀を降ろすと、鞘に入れる。

...え?なに?何事??


「ハザクラ...はぁ...はぁ....貴方、また斬りかかって、もし本当に斬れてしまったらどうするの!?」


マリーさんは覚束ない足取りでハザクラという犬耳に歩み寄る。

するとハザクラはそんなマリーに対して胸を張った。


「それならその時。罪斬狼が斬ることが出来るということはそれだけの悪であるというだけであります!それに、今回に関しては多分斬れないだろうなって思ったから全力を出したでありますよ!」


「それで斬りかかられる方の身にもなりなさいって言ってるの!!アナタはいつもそうやって昔から.....。」


マリーさんはぷんすかと怒りながら犬耳を叱りつけている。

すると、犬耳の方も耳をシュンとさせて肩身の狭そうにその言葉を甘んじて受けていた。


「...えーと、あの...どういうことです?なんで俺、斬られてないんすかね...?」


正直、事態がまったく掴めなかった。

するとハザクラが俺を見た。


「いや~、ごめんなさいであります。自分の魔書である罪斬狼はその名の通り悪しき罪だけを斬る刀。逆に言えば、善人を斬ることが出来ないのであります。つまり、貴方が本当に信頼に足りるか調べるには誤魔化しの利く言葉よりも、これで斬っちゃうほうが早いし確実であります!」


「それは....人としてどうなんすかね?」


斬った方が話すよりも早いって初めて聞く理屈だぜ。

シリアルキラーが言いそうなセリフである。

まぁでも彼女の罪斬狼の能力がそれだとすれば、確かにそれっぽいことを刀抜く時に言っていた気がする。

いや、納得は出来ないけど。


「それにその魔書もどうやら担い手を守っていて暴走する様子も見せなかったし、問題ないと自分は判断致しますなぁ。普通の人に魔書がくっつくなんてどうなるものかと思ったけど、安定しているようで何よりであります!」


「...なんかやり遂げたみたいな顔しても私は誤魔化されないからね。本当...ごめんなさい!多分、この子その魔書を見て一回戦ってみたくなったんだと思います。士官学校に居た時もこんな感じでしたから....まさかこの子が応援で来るなんて思ってなくて....。」


「なんでありますかその言い草は!これでも自分は管理機関執行官の中でも出世頭でありますよ!」


「色んな悪い人に斬りかかったりしてるからでしょ!貴方の持ってる魔書がそういう性質だからまだ許されてるけど、普通だったら貴方が捕まる側なんだからね!!!?」


どうやら親し気な口調や士官学校からの仲だと聞くし友人の一人なんだろう。

しかし、普通にヤバイ奴だった。

格ゲーにありがちな精神性モロヤバイ奴の発想だもん。

良い人っぽいしどうせ斬れないっぽい、そんでもって魔書が面白そうだから戦おうなんて。

バリバリ戦闘狂じゃん、それ。

つーかその罪を斬るっていうのもどこからどこまでが罪か分からないしな!!

どうにも、マリーさんの語り口から察するに昔からこの犬耳に苦労させられてきたんだなぁ....。


「それにしたって管理機関の出世頭か....。」


ボソリと呟く。

こんなのが出世頭って、やっぱりヤバイ組織なのかな管理機関。


『そんな理由で何度も影を出させられたなんて不快じゃ..これなら律儀に付き合ってやってた儂らが馬鹿みたいぜよ。そんで一番不愉快なのは....昨日今日の契約とはいえあの程度の武芸に不覚を取られたという事実ぜよ。まさかあそこまで影の動作に制限がかかるとは....。』


足元から忌々し気な残穢さんの声が聞こえてくる。

あの大立ち回りでそこまで歯噛みするほど制限がかかっていたのか驚く。

しかし、それでも彼女からしてみれば影を両断されたことは腹に据えかねているらしい。


「それにしても、久方ぶりにとても楽しませてもらったであります!いや~生死の絡まない仕合は中々に良い物でありますなぁ!こちらの身も引き締まる思いであります!」


「いや、生死かかってなかったの貴方だけじゃ...、俺斬られるかと思ってめちゃ怖かったんすけど!」


これ、まさか...自分の中で完結しちゃってる!?


『今更だけど獣耳族は基本合理的な思考の出来ない、本能で生きとる連中ばかりじゃから。問い質しても無駄ぜよ、こちらが疲れるだけ。』


「マジかよ、そんな奴に刀与えたのどこのどいつだよ....。」


残穢さんの言葉に小声で答える。

一番武器与えちゃいけない部類の人間だよね?

脳筋で、しかも思慮が浅いとか。


残穢さんもうんざりした様子で言っていることから経験があるのだろう。

視界の端ではマリーさんが本当すみません...とまるで保護者のように申し訳なさそうにしていた。


「でもこれで良い人だということも分かったし、心も拳を通して交わったでありますな!」


「肉体言語....!?拳っていうか剣なんじゃ.....。」


「自分の名前は、ハザクラ・ザンヤ。管理機関本部所属執行官ハザクラ・ザンヤ第三尉官であります!趣味はお風呂で一番最初に洗うところは泡立つから股と腋!好物はお肉!これで自分たちは友達でありますな!!貴方の名前を教えて欲しいであります!」


「なんで自己紹介を急に始めたの?とか明らかに言う必要ない情報あったよね?とかなんで勝手に友達認定されてるのかとか色々百歩譲って置いておくとして、普通名前聞いてから友達認定じゃない!?すげぇなアンタ!!」


情報量が...話していて情報量が多い...っ!

頭が...疲れるっ....!!

会話のドッジボールっていうか一方的に会話のマシンガンをぶち込まれてる気分だった。


しかし、俺の言葉などどこ吹く風。

待ったをされた犬のようにこちらに一心に視線を送る彼女。

どうにも名前を言わないと話すら進まなそうだ。

なんだよこれ...なんなんだ??


「えーと、名前?...あー、七井円だけど。」


「マドカ=ナナイ君でありますね!!よろしくでありますマドカ君!!!」


何だコイツ、コミュ力レベル100か?

未だかつて経験したことのない早さで距離詰めてきたんだけど。

パーソナルスペースガン詰めなんだけどっ!!


一気に距離を詰めて両手で手を握ってくるハザクラさんに引いていると、その間に入るようにマリーさんが立つ。


「ほらほら自己紹介も済んだことだし、ナナイさんも困っているみたいだし...ね?そんなことより早く礼拝堂の中で食事にしましょう?ほら、せっかく糧食も持ってきてくれたんでしょ?」


「そうそう!言っていることが事実なら右も左もわかっていないようなマドカ君に、お姉さんが食事を振舞ってあげるであります!持ってきたのは管理機関の隔地派遣者用糧食の中でもおいしい部類のCレーション!まずはその前にあの寝食に適さないであろう場所をある程度清掃しないと!」


既に凄いボリュームの胸を更に張って誇らしげにしたり顔をするハザクラさん。

男としての悲しいサガだが、一瞬そちらに目線をやってしまった。

それにしてもレーションとかあるんだ、なんか軍みたいだな。

そしてどうやらあの礼拝堂の廃墟についてはマリーさんとは違って、ハザクラさんは俺と同じで人が過ごせる環境ではないと見なしているようである。


「...寝食に適さない場所?ハザクラ....あの礼拝堂にそんな場所あったかな.....。あの、私が寝てる付近で寝食を行おうって思ってるんだけど....。」


「だーかーらーまさにその場所であります!!あんな場所で人が寝れると本気で思ってるでありますか!?相変わらずそう言うところに無頓着なのはどうかと思うでありますぅ!!!女の子なんだから、少しはそういう所に気を遣えないと将来が思いやられるって!」


「そ、そうかなぁ....マザー・テレジアはありのままが一番って言ってたんだけど....。」


「そういうのは、あ・ま・や・か・しっていうの!!親心に娘代わりにはまだ現実を見せるのは早いかな~とかそういうときの気休め!本気で信じちゃったらマジで手遅れになっちゃうでありますよ!?友達としてそういうヌボッーとした態度が心配なんであります!!!」


...そこら辺は、ハザクラさんの方がまともなのか....。

やいのやいのと説教のような物をマリーさんにしているハザクラさんとそれに対してそうかな~と呑気な態度を崩さないマリーさん。

なんていうか説教している側もヤバイし、マリーさんもあんな場所で夜を明かそうとしたって時点でヤバイ。


とはいえ、ハザクラさんも友好的に接してくれてるわけだし。

それにお腹も事実空いていた。

礼拝堂へと歩みを進める彼女達の後を追おうとした瞬間、足を何かに掴まれた。


「っ....!」


『案ずるな、儂じゃ。』


びっくりして足元を見ると、俺の影から黒い手だけが出て俺の足を持っていた。

なんだ残穢さんか...びっくりしたぁ....。

いやまぁ、絵面だけ見たらホラー映画みたいで正体がわかっていても不気味ではあるんだけど。


「なんすか?...流石にここで立ち往生してると今度こそマジで怪しまれそうなんすけど。」


『なに...一言二言言っておかねばならぬことがある。』


言っておかないといけないこと?

首を傾げると、残穢さんは言葉を続ける。


『随分と馴染んでいるみたいだが....儂らは管理機関にまで連れていかれたら困る身の上じゃ。いくらおまんにとっては気の良い連中で見目麗しく映ったとしても、奴らは管理機関の者じゃ。それはゆめゆめ忘れんようにな。』


「分かってますって。...機を見たら逃げる..でしたよね?それは覚えてますって。...本当、待ちはしますけど話して良いってなったら教えてくださいよ。」


聞こえないように小声で残穢さんに答える。

残穢さんはまだ俺と彼女の間柄では話せないことがあると言っていた。

まぁ、妥当な話ではあると思う。

だって、俺と残穢さんが契約?とやらをしたのは今日一日の出来事なのだから。


でも、いつまでも教えてもらえずに言う通りに動けと言われても気分が悪い。

だからこそ、一応牽制を掛けた。

すると、フフッと残穢さんが小さく笑う声がした。


『なんじゃ?不安か??幼子みたいなこと言いおって...可愛い所もあるのう。』


「残穢さん....。」


『冗談!冗談ぜよ!!...そこら辺はちゃんと言うつもりじゃ。というより、儂も確信さえ出来ればさっさと教えてしまいたいものなんぜよ。その上で協力してもらった方がこちらも安心じゃからな。』


カラカラと笑う彼女。

それなら早く教えてくれよと言いたいものだが、彼女の中で俺が教えても良い人物と見なされないといけない以上はそうはいかないか。

これで好き勝手使われた挙句に大した理由もなくポイッとかだったらめっちゃ嫌だけど。

まぁ、俺も男だ。

信じると言ったのだから、あからさまに怪しいとならない以上はちゃんと信じよう。


「それで、話したい事ってそれで終わりっすか?」


ゆっくりと牛歩しながら、自分の影に小声で声を掛ける。

二人がお互いに話しているからこそ出来ていることだが、傍から見たら自分の影に話しかけるやべー奴だ。

すると、彼女は溜息を吐く。


『一言二言と言ったじゃろ。....もう一言言わせてもらうと、おまん...自分の考えとやらに儂を乗らせたわけじゃから横から小娘が出てきた程度の些末事に気を取られるんじゃない。』


「うぐっ....!!?」


急に痛い所を突かれた。

確かにあの時、影をばら撒くまで残穢さんになんとか持ちこたえるように言っていた。

それで残穢さんは事実辛そうながらも持ちこたえていた。

突如出てきたマリーさんに気を取られてしまった俺に残穢さんが意識を向けてしまうまでは。


『些末な事で気取られていては鉄火場ではすぐにその命、尽きることになっていたぜよ。』


「い、いやでも俺そういう経験ないわけでして...それに確かに不手際ではあったけどちゃんと分かったこともあることですし!」


『問答無用じゃ。...寝る前に反省会じゃからな。それまで十分連中との食事でも楽しんでおくと良い。』


弁解しようとするも、バッサリと二の句を継ぐ暇すら絶たれた。

どうにも、この世界で初めて説教されるのかもしれないな。

あ~...俺、人に怒られるの嫌いなんだよなぁ。

まぁ、好きな人とか居るわけじゃないけど。

...でも、俺も現代人なんだし、あの戦闘時に相手にビビってチビって使い物にならないみたいな事態にならなかっただけマシだと思うんだけど...これは自己評価が高すぎるだろうか?


「ハァ....。」


「....?どうしましたナナイさん。そんな溜息なんか吐いて。」


俺が項垂れると、マリーさんが振り返ってこちらに心配そうな目線を向ける。

すると隣に居るハザクラさんが笑みを浮かべる。


「きっとマドカくんは自分と戦って疲れたのであります!ちょっと待てばすぐおいしいご飯で元気いっぱいでありますよ!!」


「はぁ....、ハザクラ...貴方ねぇ。自分のせいなんだからもっと殊勝な態度を....。」


まるで異国のボディービルダーの如く、両腕を上げて自信満々な表情を浮かべるハザクラさん。

そんな彼女に呆れた視線をマリーさんは向けていた。


「い、いやマジで何にもないっすから!うわぁ~ご飯楽しみだなぁ~」


そんな彼女達に不審がられない為にも敢えて明るく彼女たちの下へと駆けよる。

足元の影は物も言わずに、そんな俺の足元で揺らいでいた。

胸の大きくてタッパのデカい女キャラが寄せた胸の間から抜刀するシーンがむちゃ書きたかったので書けて良かったと思ってます。(小並感)

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