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格ゲー世界の大きな組織、大抵悪いことしがち

小足見て余裕なので初投稿です

この世界がどういう世界かなんとなく分かったこと、残穢さんとなんか契約をしたこと。

立て続けに衝撃の出来事に見舞われたが、その中でも最も懸念材料だったメカニカルな彼女も撤退していって一段落....と言いたい所だったが...。


「もう一度質問します。...貴方は一体何者なんですか?ただの一般人だと私は思っていたのですが....どのようにして魔書と適応を?貴方の狙いは一体.....。」


まだ電撃の影響でまともに動けないであろう身体を押してフラフラと立ち上がり、こちらに警戒の意を示す色物シスター。

そう一段落もなにも、現状はメカニカルな彼女がこの場所から消えただけで場には取り合っていた魔書と適合?した俺とズタボロにやられていた色物シスター、そして穴が開いたこの場所が残っているのだから。


多分さっきの口ぶりから察するに、この場所は普通は俺みたいなのは入ってこれない場所なんだろう。

そんな場所に迷い込んだ挙句に、何の戦闘力もないと思っていた一般人が自分が守ろうとしていた魔書と適合?したんだからそりゃ心中穏やかじゃないだろう。

古典的に言えば内心ブルータスお前もか状態。

彼女からしてみれば、俺も敵である可能性があるってわけだ。


....そもそもこの世界における勢力図とか分からないから何一つ具体的に分からないのだが。

つーか、そもそもこんな事態になっているのも残穢さんが俺と誰かを勘違いしてあの空間に招いたことがそもそもの発端な気がする。

そう考えると今自分がこうして困っているのがなんとなく釈然としない。


彼女の質問に対して答えることは簡単だ。

俺に狙いなんてものはないし、そもそも俺が適応したというより残穢さんに契約を持ちかけられた感じだし、ましてや俺が何者かと問われれば異世界から来た以外の答えは持ち合わせていない。

しかし、その答えが問題なのだ。


残穢さんは元々この世界には厳密には違うが俺みたいな転生する人が居るということを知っていたの納得してもらえたが、彼女がそうとは限らない。

それでいて残り二つの質問に関しての答えも色々言ってはいるものの、簡潔に言ってしまえば「分からない、俺知らない」だ。

こんなこと言っても煙に巻こうとしていると思われないだろうか?


「....言えないような、やましいことなのですか?...であれば、私は執行官として貴方を拘束しないといけなくなって...っぅ..!」


「ちょっ、流石にそれはまだ無茶っすよ!応急処置だってしてないんっすよ!?」


こちらに銃を構えようとするも、手から零れ落ちる銃に膝から崩れ落ちそうになる身体。

咄嗟に駆け寄って支える。

....いや、俺の事警戒してる人支えちゃったよ。

この距離だったら大して力出なくても、銃俺に撃てちゃうかもだよなぁ....。

....やっべぇ、冷や汗出てきたわ。


なんていうかさっきまで戦ってたのが嘘みたいになんか身体やわらかいね。

なんか良い匂いもした気がする。

...いや、俺きもっちわる!

でもしょうがなくないか?

服がよ....服がよぉ!!


「っ...そんな風にされても、答えが分からない以上は私の姿勢は変わりませんよ...!」


「え、え~と...言えないことには言えないんすけど、やましいってわけじゃなくて....その、信じてもらえるかっていう.....。」


支えた彼女に睨みつけられる。

もうその時点で、なんか言い訳って言うかうまいことこの場をやり過ごすみたいなことを考えるのは止めた。

だってほら俺何も知らないから言い訳のしようがないし、かといってこの距離でだんまり決めようとしたらなんかされるかもしれないし....。

もうそれなら正直に言う以外、選択肢なくね....?


「信じるか信じないかは聞いてみて決めます!...ただ、こちらとしては答えて欲しい。...報告書を書く際に貴方に関して協力的な姿勢を見せたと書けますから...。」


「な、なるほどぉ....。」


どうやら彼女も彼女なりにただ闇雲に俺を敵だと断定するわけではないらしい。

であれば、言うしかあるまい。

確かにもうこの状況は言わないと動きようもないしな...。

...早速で悪いけど、いざとなったら残穢さんを頼りにさせてもらおう。

魔書の使い方とか知らんけど。


「あの...俺はめちゃ真面目ですからね?...その、俺は...別の世界からこの世界に転移させられてきたんです。...だから狙いなんてないし、魔書となんで適応したのかもわかりません。そもそもこの場所にも気づいたら居たって感じで....。」


言った。

言ってやった。

今の自分の状況や境遇。

到底まともな神経では信じてもらえないであろう異世界転移についても言った。

もう、あと俺に出来ることは事態がどう転ぶのか黙して待つのみである。


「別の世界から...転移?それに、その答え...何も分かってないじゃないですか!!」


「そ、そうっす....俺、なんもわかんないし...ひいては俺金も家もないし、この世界でどう暮らしていけばいいかも皆目見当が....。」


考えてみれば俺は宿無し及びにこの世界における貨幣を持っていない。

いやあるか分からないが、あるとすれば金もないのだ。

強くてニューゲームの真逆、何も持たぬまま転生しちまった...!

このまま待つのは最悪野垂れ死にである。

なんか考えてる風だった残穢さんもまさか契約を交わした相手が野垂れ死ぬとは思うまい。


すると俺の答えを聞いた色物シスターが顎に手を当てて考え込む。

出来れば信じるかどうかを考えていて欲しいものだ。

どう料理してやろうかみたいなことじゃなくてさ。


「むぅ~...むぅ~~~~。」


なんだろう、考え方可愛いな。

あざといな、うん。


「...はぁ。分かりました。」


「えっ!?分かってくれたんすかぁ!?」


考え込んでいたとはいえ、この短時間で!?

さっき会ったばかりなのに分かってくれるなんて....やけに物分かりが良いな。

理解のある彼か??


そんな訳の分からないことを考えているのが伝わったのか、彼女は俺に対してジト目を向けた。


「勘違いしないでください。...別の世界がどうとかは後で管理機関のデータベースで貴方を調べてみればわかる話です。該当人物がいなければ貴方の発言は本当で、居るのであれば貴方の発言は嘘。だけど今は調べられない。...なので、現状調べが付くまではその話を信じておくってだけです。それは魔書に関しても同義。どちらにせよ、管理していた魔書と結びついてしまった以上は私と一緒に来ていただきます。」


「あぁ...そういう....。」


まぁ、そこまで話は甘くないよな。

言うならば彼女は今はエビデンスを取る手段はないので、一旦保留ということにして俺の言うことに一定の理解は示しているだけに過ぎないからだ。

まぁ簡単に言えば話半分に信じてるってだけ。

確実にデータベースとやらには俺は載っていないことは確定的だが、それでも不安な物は不安なのだ。


そんでもって更に不安なのは....足元の影。

残穢さんと契約して適合とやらをしてから俺を中心に足元に広がっている大きな影。

それが一瞬ザワっとまるで波が微かにさざめくように蠢いた。

多分なんとなくだけど、残穢さんによるものだと分かる。

確か一緒に来てもらうと言った時に影が騒めいたはず。

なんだ....管理局がなんだっていうんだ....?


「そ、それに...どうやら、悪い人ではないみたいですし...本当に悪い人だったら、今の私に対してこうして話すことなく攻撃してるはずでしょうし....。」


なにやら不穏な物を感じている俺を他所に彼女は視線をどこか照れくさそうに逸らす。

なんだキミ....ちょっとちょろすぎないか?

そうは思った物の、考えてみれば確かにちゃんとまともに話が出来てそれでいて咄嗟に彼女を支えたりと敵対的な行動はとってない...寧ろ友好的とも取れる行動を取っているのでそう思われても不思議じゃないだろう。

あんな機械な感じの子と話していたなら猶更だ。

いや、でも俺がまだ彼女を騙そうとしてるとかは微塵も考えなかったのか....?


すると、俺がそう考える間もなく彼女は答えを口にする。


「...それに、今の私じゃまともに戦うこと自体、出来ないでしょうしね....。」


彼女はそう言って肩を落とす。

なるほど、どうやら彼女も俺と状況は同じ様だ。

俺の安全性を確定させることは今暫くは出来ない。

かといって割と俺は友好的な姿勢を見せている。

そしてもし俺が悪い奴で彼女を騙していたとしても彼女の基準では現在自分は到底戦える状態ではないと判断したのだろう。

...まぁ喧嘩なんかしたことない俺なんて、そんな状態の彼女にも勝てるか分からないのだが。

どちらにせよ、俺と同じで取れる手段が限られてしまっているのだろう。


それにそもそも彼女自身言動においてなんていうか争いを望んでないというか、進んで荒事へと走るような性格ではないということは分かる。

さっき銃を向けたのだって、執政官としてって言ってたからあくまで仕事としてって感じだろうし。


...まぁもしかしたら格ゲーにありがちな善人かとおもったらやべー奴でしたー!って感じかもしれない。

いや、でもこういう真面目な感じの女の子ってそういう展開にはならないよなぁ。

そういうのは大抵なんか男キャラで飄々としてる奴だし。


....いや、でも言動真面目っぽいキャラが背中ガッパー腋丸出し、ミニスカスリットとかいう性癖権化改造シスター服着てるってマ?

やっぱりなんかエッチじゃん....。

シスターって貞淑なんじゃなかったっけ?

既存の価値観への反逆か??


「ってことは、俺の事は一応今のところは無害認定...ってことで?」


「ただ連れていくまでの間、話を置いておくだけです。少しでも怪しい素振りを見せたら容赦はしません...身体が治ったら。」


ばつの悪そうにそう付け加える彼女。

まぁ、俺も今の所は逃げ出したりするつもりはない。

だってそんなことしたら何もまだ分かってないのに敵を作ってしまうことになるし。


「そうと決まれば...帰投するとしますか...。」


「教会?ってところに帰るんすか?それとも管理機関?」


傷の処置って言ったけど電撃受けた人にそんな施す処置とかあるのだろうか?

俺が尋ねると、彼女は納得したようなそれでいて残念な物を見るような生暖かい目で微笑を浮かべた。


「...ここから教会まで行くと境界を越える必要があるので最低二日はかかります。それに管理機関はそれ以上。なんていうかその...貴方の言葉、ちょっとだけ本当なんじゃないかなって思えてきました!」


しょうがないだろ異世界転移者なんだから。

この世界においては赤ちゃんと同義なんだから。

図らずも自分の言動の信頼性を補強していたってことか。

...意図してやったわけじゃないので、なんていうか少し複雑な気分だった。


「それじゃ、どこに行くんすか?」


「貴方は私についてくればいいですから.....。」


そう平然と言うと、彼女は...フラフラとまるで生まれたての小鹿のような足取りでなんとか立っていた。

しかし、今度は横に力が抜けたのか傾く身体。

それを受け止めた。


「.....。」


「.....。」


彼女の表情は笑顔のままで硬直している。

しかし、どことなく頬が紅潮していた。

...わかるよ、そういう時あるよね。

俺も外に出るときに鍵をバッグに入れたのに、何故か探し回ったことあるもん。

メガネの人がメガネかけてんのにメガネ探してるのと同じ現象だよね....。

ああいう現象ってなんていうんだろ....名称とかあるのかな....?


「あの~~、色々言った手前申し訳ないんですけど....運んでもらっても....。」


「あぁ....はい...。」


申し訳なさげに俯きながら言葉を紡ぐ。

俺は特には追及せずに了承した。

この話はここで終わりにした方が良い、お互いの為にも。

俺もどんな顔して話して良いか分からなくなるし。

...少しも面白いと思わなかったのかと問われれば嘘になるし。


「えーと、それじゃ背負う感じでいいっすか?...えーと、いろも....シスター。」


「今色物って言おうとしましたね?誰が色物ですか誰が!れっきとしたシスターでしょう!?」


俺が彼女を色物呼ばわりしたのを思い出してか、プンプンと憤慨する。

やべ...内心で色物色物呼びしてたから言いそうになっちゃったわ。


....もしかして、この世界のシスターってみんなこの業の深そうな服着てるってこと?

こんなのがずらずら並んでる場所があるってマ?

イメクラかよ。


「はぁ...すんません。」


「...まぁ、ここまで言えば分かったことでしょう!私の事はマリーと呼んでください。そっちの方が自分としても分かりやすいです。」


頭を下げると、急に彼女が名前呼びをするように言ってきた。

距離詰めるの早いなぁ....。

アケコンガチャガチャお兄さんの俺には出来ない芸当だった。


そして、女の子の名前を呼ぶという行為自体も俺にはきついものがあった。

呼び捨てなんてもってのほかだ。


「あ...そっすか...えーと、マリーさん。」


結局さん付けである。

こういうところで初っ端から『マリーちゃん!ウェイウェイ!ウェ~~~イ!!腋丸出しとかえぐいって!!』みたいな感じで話広げられるオラオラ系は得だなって思う。


「....?はい。なんですか?」


...しくじったわ。

名前呼んでみたけど、特に用などなかった。

聞き返されると中々きついものがある。

二の句が....出てこない....。

空気が死んでいく気がする....あぁ~...死にてぇ....。

試しに呼んでみたとか今考えてみたらキモすぎるってぇ.....!


「え、えーと...そ、そう!俺の名前は七井円って言います!七つの井戸に円周の円って書くんすよ!!」


俺は慌てて言葉をひねり出す。

即座に自己紹介に移ったのは自分でもファインプレーだと感じたが、俺の口は何故だか絶対要らないであろう名前の補足を始めていた。

蛇足にも程がある。


「ナナツ...イドさん?」


ほら見ろ!

変な感じで勘違いされたじゃないか!!

補足が却って分かりにくくなってるよコレ!!


「あ...いやナナイマドカって言うんすけど...。」


「あ、すいません...それじゃ、よろしくお願いしますナナイさん。」


「うす...。」


俺は手を広げる彼女に背を向けるとしゃがむ。

そして彼女をおんぶすることになる。


実は、彼女と会話していて無意識下に思っていたことがある。

彼女自身、腋とか背中とか見えてたりスリットから太もも見えたりして見るに危うい有様をしていた。

...ある一部を除いて。


俺は魔書の中で残穢さんと会った。

今思えば、結構ご立派なモノを持っていた。

そう考えると、目の前のマリーさんはないわけじゃなくて確かにあるけど少し慎ましいって感じだ。


その点では、俺は彼女をある種の脅威として見てはいなかったのだが。

しかし、今この瞬間その考えは変わった。

密着した今....慎ましやかでも確かな柔らかさを感じる。

胸骨の上に脂肪が乗ったような...そう背中とそれの間で脂肪が押しつぶされるような感じ。


やはり俺も男、抱きかかえるのはマズイかと背負う方を選んだのだがそれが却って仇になっていた。

見えていない分、背後に感じる感覚に鋭敏になってしまっていたか....。

慎ましやかでも胸は胸。

侮ってはいけなかったか.....。


なんていうか、やっぱりこの世界はヤバイ。

女の子に関して、誰か別の存在の癖を確かに感じていた。

...まぁ格ゲーの子って往々にしてそうだし、今更なんだけど。.







「え.....ここで寝泊まりしてるんすか?」


俺は呆然と呟いた。

それは、目の前の少女に導かれた場所がここであると考えたくなかったのもある。


「え...?ここ以外ないですけど....。何かおかしいですか?」


しかし残酷なことにキョトンとした顔で返してくる。

マジかよ....。

唖然とした顔で彼女を見つめる以外ない。


当然だ。

だって今目の前に広がっているのは、明らかに礼拝堂の“廃墟”なのだから。

一瞬、あれ....?教会には行かないって言ってたけどそれっぽい建物はあるんだなって思ったが、多分ここを宗教施設と断定したら宗教施設という概念に失礼だと確信する。


目の前には頽れた木の長椅子やくすんで中折れした十字架。

そして氾濫しているのはガラス片や塵。

この建物に何が起きたかなどは知ったこっちゃないが、それでも明確に廃墟であると分かった。

少なくとも人間が生きていく環境ではない。


嘘だろお前....。

おぶっていた時とは違う意味で言葉が出てこない。


「えーと、どうやって寝てたんですか?」


「ん?この椅子に普通に横になるんだけど...。」


そう言うと彼女は目の前で長椅子に横になる。

いや、流石にそれは無理があるでしょ!


「いや、それって寝返り打ったら落ちちゃうでしょ!それにこんなところで寝てたら治るものも治りませんよ!」


「私、寝返り...打ったことないんです!それに礼拝堂なんですよ?神の御膝元...ふふ、これ以上に休息できる場所なんてありません!」


「普通に宿泊施設に泊まりましょうよ!!!?」


どや顔で寝返りを打ったこともないことを自慢するも、俺は叫ぶ。

その礼拝堂への謎の信頼は何なんだろう。

神の御膝元がこんな有様で良いのか逆に....。


「それじゃ、さっきの話を続けますけど私達管理機関は秩序を守る為にも強力な力を持っている魔書が徒に人の手に渡ることがないように所蔵すること、そして秩序乱す者を取り締まることを職務としているのです。」


「はぁ....そうですか。」


さっきからずっとそういう話を聞かされてる。

まぁこの世界にそういう組織があるってことは分かるんだけど。

この人、ちょっと話長いな....。


『.....。』


足元の影がざわつきっぱなしなんだよなぁ...。

なんすか...言いたい事あるなら言ってくださいよ....。


まぁ残穢さんはさておきマリーさんが所属している教会とやらはなんでもその管理機関の嘱託組織らしく、こういう辺境の方に派遣されたりするらしい。

ここが辺境だということを初めて知ったし、そもそも嘱託だのも悪い言い方をすれば下請けである。


「だからこそ、その残穢もどうにかして所蔵しなおさないといけない...。まぁ私は機関所属の前に教会の人間なので...。魔書を管理していくというのは教会としても管理機関の勅命よりも最優先すべきですし...。」


どうやら教会とやらも下請けではあるものの、完全に機関とやらに従っているわけではないようだ。

なんでも機関は秩序の維持を目的としているが、教会は魔書自体の管理を目的としているようだ。

なんていうか中世時代に知識の貯蔵の場となっていた修道院みたいだなって思った。

教会繋がりだし。


「一応、このまま手負いの私だけじゃ心許ないですし、応援を呼びました。多分近くに居る人員が誰かこちらに来ると思います...まぁ辺境なので断言できませんけど。とにかく!もう夜遅いですし、このまま休んでしまいましょう。」


そう言って彼女は目を瞑る。

狭い長椅子で眠る姿はあたかも棺で眠る遺体。

嫌な物を思い起こさせる有様である。


「....あっ、もし変な事しようものなら容赦しませんよ!人もこの後来ますし、それに私だってこんな状態でも出来ることがあるんですっ!....本当ですよっ!!」


こちらを睨みつけて俺に対して指を突き付けるマリーさん。

まぁ、一つ屋根の下に男女。

しかも女の方が手負いだと心配するも当然か。


...しかし、その心配は無用である。

寧ろ俺の方があることを心配していた。


「いや、そんなことしないけど....それより聞きたい事が一つある。」


「...?なんですか。」


「...トイレってどこですればいいんすか?」


こんなモロ廃墟、一番の懸念がそこだった。

めっちゃうんこしたくなったのだ。

そりゃあんな戦闘の張り詰めた空気から抜け出して暫しの安息地...安息地?なのだから気が緩んだのだ。

しかし、こんな人が生活する場所とは思えないような場所。

あるのか....なかったら地獄なんだが....。

つーかなかったら困るのは目の前のシスターも同じだろ!?


すると、彼女はムッとした表情を見せる。


「もぉ~、ここのこと馬鹿にしていますね?トイレくらいちゃんとあります!私だって一時的ではありますがちゃんと住んでるんですよ!!ここを出て右手に建ってます!」


「そ、そうっすよねぇ~~!いくらなんでもトイレないなんてことないですよねぇ~!!」


そりゃそうだ。

だって女の子が住んでるんだぜ?

明らかに水道通ってるかとか不安だけどそういう最低限のラインは守ってるはず!

そう、きっとここら辺が散らかっているのはきっと直近で何かあったからなんだ。

だからしょうがなく寝てるんだろう!

一瞬彼女の普段の暮らしが人間的な文化的で豊かな最低限の暮らしから逸脱しているから価値観もおかしいのではないかと疑ったけど、きっとそんなことあるわけない!

だってそうだったらこの見た目とか維持できないだろ....うん、きっとそうだ!


「...行くのは良いですけど、私は貴方が戻ってくるのを起きて待っていますからね。貴方は一応連行されてる身です。10分以上かかって戻ってこない場合は覚悟しておきなさい。....話している間に、グーパー出来るくらいには手が動くようになったんです!銃くらい、撃てるんですからね!!」


必死に逃げたら碌なことにならないぞとアピールする彼女。

そして、そんなことより便意がヤバイ俺。

返答は勿論一つだけである。


「逃げませんって!分かりましたから!!それじゃ、行かせてもらいます!!」


おざなりに返事すると、俺は出口へと小走りで向かう。

外を出れば、辺りは真っ暗。

礼拝堂のステンドグラス(一部割れてる)から微かに内部の光が漏れており、かろうじて周りが見渡せる。


ここから出て右手。

言われた通りの方向に目を向けると、倉庫くらいの大きさの小屋が一つ。

ランプの中には紙のような物が入っていて燃えて光をぼんやりと放っている。

....なんだろう、嫌な予感がしてきたぞ。




背後で水の流れる音。

流れるということに安堵しつつも、ドアに背中を付ける。

視界の端では隅っこの方でジッと何を思っているのか佇んでいるゴキブリに、天井で巣を作っている蜘蛛。

そしてランプ目掛けて飛んでいく蛾であろう生き物。


「...木造なんだが。」


外装が木造だったから嫌な予感がしたが、内装はもはや少し人気のない山間部のサービスエリアの便所みたいだった。

ほら、虫とか普通に居たりする奴。


「...和式だったんだが。」


そして次に思い浮かべるのは先ほどまで自分が向き合っていた物が和式だったということ。

俺の家は言わずもがな洋式で、学校も洋式だった。

バリバリ現代人都会っ子な俺には、和式は辛かったのだ。

...つーかそもそもこの環境がきつかった。


「はぁ~....まぁあんな廃墟然とした所でトイレがあるだけマシなのか。」


溜息を吐きながら蛇口をひねって水を受け止める。

水道はちゃんと通っているみたいだから、もしかしたらあそこは廃墟というよりは滅茶苦茶になった状態で放置されているのかもしれない。

...いや、片付けろよって話だけど。

つーか男女分かれてないのか....いや、そもそも個室しかない時点で女しか使用が想定されてないのか?

この施設で使用が想定されているのはシスターだけなのか、大の時だけ男女兼用なのか。

今や神のみぞ知るって感じかもしれないな、あの教会の有様じゃ人なんてほとんど来ないだろうし。


『なんじゃ四苦八苦しとったなぁ!生まれたての小鹿のような足取りだったぜよ。』


そんな下らないことを考えていると、影から残穢さんが半笑いで嘯く。

....なんていうかあんま見られたくないところを見られたっぽい。


「...見てたんすか。影に居るから見えるのはしょうがないのかもしれないけど、ちょっとデリカシーとかないんすかぁ?自分だって他人に見られてたって思ったら嫌でしょ。排泄の時なんて。」


『鉄火場では都合よく厠があることなんて稀ぜよ。もう今更見られることになろうと別段気にせん。』


「...どんな経験してきたんすか、アンタ...。」


少しだけ引いていると、影の中からくっくっと愉快そうな笑い声が聞こえる。

何がおかしいんだよ。

ちょっとだけムッとしてしまう。

しょうがないじゃん、こんな話し始めじゃ。


『何を膨れておるのじゃ、すまんすまん。儂がそのでりかしー?とやらが足りなかったのは謝る。そういう細かいのは不得手なんじゃ。許せ。』


許せって....。

まぁ、でもそんな感じは口ぶりから感じ取れていた。

なんか凄い大雑把そう。

よく言えば竹を割ったような感じはする。

まぁそれにしても傍若無人な物言いだとは思うけどな!


「つーか、それよりここに来るまでなんか影でゴポゴポしてませんでした?なんか言いたい事あるんだったら言ってくださいよ。」


それより、思い出すのはマリーさんが話している間にゴポゴポしていた自分の影だ。

俺はなんとなく直感だが残穢さんが原因だと思っている。

それならなぜそのようなことをしたのか気になるし、違うのであればまるでスクリーンセーバーみたいに時たま自分の影が蠢くなんてちょっと嫌だなって思わずにはいられなかった。


『ほぉ、やはり気づいておったか....。そうじゃのう....もし、儂が鼻の下を伸ばしているおまんを諫める為だとしたら?あからさまにあの小娘の体に視線を這わせておったものなぁ....?ああいうのが好みなのかマドカ?』


「....俺の居た世界ではあんな恰好でそこらへん何食わぬ顔で歩き回っている奴、居なかったんだよ。だから驚きと珍しさと..少しのドン引きも兼ねて見ていただけだ。人聞きの悪いこと、言わないで欲しいっすね。」


嘘ではない。

でも、エッチだなとか思ってたのは事実なので少し肝が冷えた。

すると、ククッと詰まったような笑い声をあげる残穢さん。

なんだよ...何がおかしい。


『そうか、だとしたら安心ぜよ。この後の話がしやすくなるからのう。...ここからは真面目な話じゃ、心して聞くように。』


「真面目な話....なんすか?」


こちらを揶揄うような声音だったのが、真剣な色を帯びた。

その声を聞くと、おのずと身が引き締まったような思いだった。

こちらも聞く体勢は整っていると示すと残穢さんは話を切り出した。


『単刀直入に言わせてもらうんじゃが....タイミングは儂も見定める。...だからあの小娘の目からなんとしても逃れよ。でなければ、儂らは終わりじゃ。』


「はぁっ!?いや....確かに今怪我してますけど、あの人なんか秩序守る人とか言ってたし、そんな人から逃げたら俺あたかもやましいところホントはあった人みたいになっちゃいますよ!流石にそんな大きそうな組織を敵に回したくないですよ!」


とんでもないことを言い出した。

彼女から逃れる。

そんなことをすれば別段悪いことしてないのに相手側にアイツは悪いことをしていたから逃げたのだと思われるだろう。

しかも魔書と適合?した以上はなんか指名手配とかされるんじゃね?

...いや、まぁ手配するにしても俺この世界の人間じゃないから難しいとは思うが。


慌てる俺に対して、残穢さんは平坦に続ける。


『...確かにおまんの言う通りぜよ。けれど、追われる身となるリスクと機関に連行されてしまうことを天秤にかけた上で儂は言っている。...あそこに連れていかれたら終わりじゃ。儂もおまんも。』


「...なんかあるんすか?その、管理機関って組織。」


なんとなく、残穢さんの反応で“読めて”きた。

こういう格ゲーってなんか権威っぽい組織が本当は悪いことしてて、根無し草である主人公が正しいことをしているってのがストーリーにおけるテンプレである。

まぁ、例外はなくはないが大体そんな感じだ。


そしてマリーさんの言葉を思い起こしてみれば、魔書の管理と秩序の維持が管理機関の職務だと言っていた。

つまりはこの世界における警察と武器庫を同時にやっているってこと。

そんでもって魔書を管理している。

...これ、絶対に大きい組織だよ。

そんでもってバックに悪い奴が居て暗躍してるパターンでしょ。


『...あぁ。あの小娘の口ぶりから機関は秩序の守り人で、魔書の管理者のような大層な口ぶりをしておったが、実態は魔書を独占して自身に反逆する人物を消しているに過ぎない。そんな連中の下に魔書と適合できた身元も知れないおまんが連れていかれたらどうなるか。...最悪、機械に固定されて書庫の内部で半植物状態で過ごすことになるな。儂も奴らの手に落ちて終わりってわけじゃ。』


「マジっすか....!?めちゃ真っ黒じゃん....。」


なんていうか口ぶり的に俺の予想は的中しているっぽい。

つーか機械の中で半ば意識不明の状態にされるとか、人権とかっていうのはこの世界にはない感じなのか?

そりゃ確かに連れていかれたら終わりではある。


「でも、魔書を独占してどうする気なんすかね?というか、そもそもなんでそんな機関の実態について断言できるんですか?」


いつからかは分からないが、残穢さんはこの魔書の中に居る。

それなのに、なんで外の機関について知っているのだろうか?

俺が尋ねると、彼女は答える。


『今言えることは魔書を集めて連中は秩序を乱す、下っ端はどうかは分からんが、掲げた名目とは正反対な連中だということぜよ。そして...儂があの組織の実態を知っている理由としては,,,まだ儂がこの魔書に切り離される前に、機関の原型となる組織とそこに居た人間を知っているから...そして魔書からでも、見えるものがあるということじゃ。』


「...なんか煙に巻かれてる気がするっすね....。」


口ぶりからはぐらかされている気がする。

それにそんな大きな組織の前身を知っているっていったいこの人は何歳なのか...いや、逆に魔書に居るのが長いのか?


『ハッハッハ、確かにそう聞こえても無理ないなぁ!...でも、確かなのは儂はおまんを害するつもりはないということじゃ。ただ、おまんに隠しておきたい事があるから明確に示さないということではない。..、儂とおまんは今日会ったばかり。儂から契約を持ちかけたとはいえ、おまんの人となりをまだ分かっていない。そんな間柄に無警戒に話せる程、軽い話題ではないんぜよ。...信じてとは言わんが、理解はしてほしい。』


さっきまでのざっくばらんな語り口とは違う、伺うような話し方。

そして、残穢さんの話もまぁうなずけるものがある。

組織に連行されるのは俺だけじゃなくて、自分にとっても避けたいこと。

それに関することを、彼女の口から話してもらうにはまだ関係性が浅いだろう。

だってさっき会ったばかりなのだから。

加えて、俺は異世界人。

そして、俺の状況を鑑みるともちろん答えは決まっていた。


「...結局俺からしてみれば、一番信憑性があるのが実質残穢さんですからね。それに俺の経験上、正義~とか秩序~みたいなの掲げるとこって碌なところな試しがないし。...理解はしますし、今のところは信じてあげます。」


『そうか...ふぅ、良かったぜよ。あまりにも信じてもらえなければ最早実力行使しかないと....』


「何する気だったんすか....!」


『冗談じゃ、冗談!若人というものは見ていて弄りたくなってしまうもの、いちいち真に受けられてもおかしいだけぜよ。』


めんどくさいおじさんみたいなこと言いやがって....。

害するつもりはないんじゃないのかよ。

彼女の言動に溜息を吐きながら、トイレから出る。

10分経っていないか心配である。


...正直、逃げるとしたら彼女の目がない今この時かもしれない。

でも応援が来るとも言ってたしな。

そう思ったのも束の間、夜の闇を照らす礼拝堂。

その前に一人の人影が立っているのが見えた。


「...?何者でありますか?」


その人物は俺に気づくと、俺を見る。

あからさまに警戒した様子でジト目を向けてきた。


軍帽を被ってなんかタンクトップの上にアーミージャケットっぽいの奴を羽織り、ホットパンツを身に纏った褐色肌の女。

その頭にはオレンジ色の毛並みの犬耳が生えていて、背後の外套を持ち上げるように尻尾がピンっと立っていた。

露出度は羽織っているもので少ないが、その肉感的な足を周囲に惜しげもなく晒していた。

...正直、一番最初に足に目が行っちゃったのは事実である。

残穢さんにバレたらまた揶揄われる羽目になるな...。


ははぁ....格ゲーにありがちなケモ耳系の少女か。

どうやら種類は犬系の模様。

しかし、こんなところで何をしているのだろう。

そう思っていると、足元の影から小さな声で残穢さんが呟いた。


『あの印、管理機関....っ!!』


「は....?マジっすか!?」


確かに軍帽と羽織ってる奴には何か特徴的なマークが付けられている。

もしかして、彼女がマリーさんが呼んだっていう応援か....?

でもまさか管理機関の話をした矢先に来るなんて....!


光もなく、星も見えない夜。

この世界一日目の夜で、よりにもよって俺は相まみえてしまったのだ。

この世界でめちゃヤバイ組織に属した人間、その人に。

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