三年生 春・インターミッション
(どう考えてもおかしい)
ガトー様と観劇したその夜。寝る前にもう一人の私が突然何かに異を唱えました。一体、何のことを言っているの?と聞いてみると、それは昼に見た演劇のことだと言うのです。
(内容があまりにも『ゲームのシナリオ』に寄っていたのよ。服のデザイン、話の展開、キャラクター像……これがたまたまの偶然なのかしら。
ラプンツェルも、チェリッシュも、ゲームからは逸脱した人格になっているわ。で、あればあのストーリーは一体何?)
それは――たまたまじゃないのかしら。言ってしまえば、どこにでもある創作物と言ってもいいわ。それが、たまたま『シュガーアワーズ』そっくりだった、という……。
(それだとおかしい部分があるのよね)
どうにも、もう一人の私には引っかかるものがあるようなのです。
恥ずかしながら、ちょっとした推理ミステリーの世界に迷い込んでしまったような気分になり、少しワクワクしながら彼女の話を聞くことにしました。
(まず、ストーリー。事あるごとに「神様のおぼしめし」が起きて、ヒロインのトラブルを解決していったこと)
若干、無理やりな軌道修正で、ヒロインの行動がすべてうまくいくようになっていたアレですね。
例えば、泥棒の嫌疑がかけられて、ヒロインが自分が盗っていないという証拠のため、無くなった物を探すことになったの時。ヒロインが転んで手を伸ばした先に、たまたま隠し扉のレバーがあって、その中に無くした物があったり。
例えば、舞踏会に行くドレスを汚されて当方に暮れていた時。何故か汚れたドレスを身に纏って街を歩いていると、貴族の馬車が通って泥をかぶり、そのお詫びとして新しいドレスを貰ったり。
これらはナレーションで「神を信じる彼女に、神のおぼしめしがあったのでしょう」という解説がされておりました。
(これ、強引な話ではあるけど、そもそもゲームの中でもあるのよね)
『シュガーアワーズ』の中では、『救済処置』というギミックでした。イベントの進行で、キーアイテムを持っていない場合、シナリオの進行上必要なものは、持っていない場合劣化版がイベントでもらえるのです。
(この救済処置のイベントが、全部盛り込まれていたわ。ゲームでは、1回のプレイで1回しか起きないからそこまで気にしてなかったけど、全部一気に遭遇すると、すごいことになるわね)
なるほど。元々は、本当にたまたま一回遭遇する程度の出来事だったのですね。そうであれば、確かに神様のおぼしめし…として見逃すことができたでしょうか。
(それに、シチュエーションね。最初のナレーションを聞く限り、やっぱりパティシ王国の建国記を元にしている話みたいだけど、あの時代に存在しなかった国立学園を舞台にしている事。
これから起こるイベントを考えれば、まるで婚約破棄が、婚約者の女性側に問題があれば、正当に評価される――みたいなイメージを作ろうとしているようにも見えるわ)
流石にそれは穿ちすぎた見方ではないでしょうか。
確かに、これから私たちを待つ運命が『シナリオ』通りのものだったとしても、それを前もって演劇にする理由が?
(それは、"私"が関係するかもね)
"私"が?
(もし、この世界が本当に『シュガーアワーズ』と同じ世界だったとして、今の私たちはどう?『シュガーアワーズ』のチェリッシュ・クラフィティかしら)
……違いますわね。私の中にはもう一人の私が、確かに息づいていて。そのおかげで、私はガトー様と離れずに済んだ。
(それなら、この世界を『シュガーアワーズ』だと思っている人がいたら、どうかしら)
――もう一人の私と、同じような人間がいたとしたら?その人は『シュガーアワーズ』の『シナリオ』を知っている、ということになる。
であれば、それに忠実な話の演劇も作れる、ということ。
(現状の展開に、ご不満かもしれないわ。少なくとも、今のノアの行動に、共感は到底得られないもの。
であれば、今後の展開の免罪符を作ろうとした――っていうのは考えられない?)
なるほど。一理ありますわ。
少なくとも、既に卒業式予行のダンスパーティで、何かが起こるのは間違いないようですし。
ただ、今の段階でノアさん側に共感し得る人間がどれほどいるかと言うと……。
「……杞憂に終わればいいんですが」
(ノアがロボットの時点で、破綻してるからね)
そもそも、なんでノアさんはブリキ人形なんでしょうか。
ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。
ある程度、謎は解決させていくつもりです。