二年生 秋・インターミッション
目が覚めると、そこは私の部屋でした。
(いーや、推しの笑顔ヤバい。ささやきヤバい。あれで詠唱されて念じられたら灰になる)
何をおっしゃっているのでしょうか、私のもう一人の私は。
「ああっ、お嬢様!お目覚めになられたのですね!
少々お待ちください!旦那様ー!お嬢様が――」
そこにちょうど、部屋に入ってきたメイドが、私が体を起こしていることに気付きました。そのまま、慌ててお父様を呼びに走って行ってしまいました。
それにしても、いつ部屋に戻ってきた――いや、誰が運んでくれたのでしょうか。まさか、ガトー様が……?
(絶対そうだよ、間違いないよ)
もう一人の私が力説しています。しかし、本当にそうでしょうか。ガトー様は、ノアさんに好意を抱いているのは間違いなく、私には随分とそっけない態度を取ってらっしゃいます。
この2か月、都度お話の機会を作ろうとしましたが、都合が悪く時間が取れませんでした。更には、先約があると断られ、その日にたまたま街中でガトー様をお見かけした時のことです。執事の方とのお買い物、それもアクセサリーをご購入されていました。
その用途は――聖女へ、とのことだったのです。
私とのお茶会よりも、ノアさんへのプレゼントを買う方が優先された事実に、私はそのまま自室にこもり、1日中涙を流したのです。
(あれは、ノアが成績で1位を取った時に起こるイベントだからね。ひょっとして、とは思ったけれど)
もう一人の私の冷静な言葉がなければ、引きこもっていたのは1日では収まらなかったでしょう。聞きたくない言葉を無理やり聞かされるのが、こんなにもつらいと思いませんでした。
彼女が言うには、ノアさんが成績で1位を取るたびに、王子やガトー様と言った、名だたるご子息の方々からプレゼントをもらえるという話があったそうなのです。
私が、ノアさんの話を聞いた時に、何が何でもノアさんの足を引っ張ろうと思ったのと同様に、何か抗えない、天意のようなものがあるようなのです。
それでは、どうにも勝ち目がないのではないか、とも思うのですが、もう一人の私は言いました。
(言ってしまえば、それはガトーの意思とは別の所にあるってこと。ガトーを振り向かせるんでしょ?
ライバルのことなんて気にしてらんないわよ)
ああ、どうしてこうも無責任に、自分勝手で――なんて心強いのでしょうか。
もう一人の私に励まされ、私は……たとえ、ひょっとしたら、最終的には嫌われてしまうのかもしれないですが、最後まであがこうと思ったのです。
そうしていたら、アレ、です。
ガトー様からの甘いお言葉が、こんなに破壊力があるものだとは。
「チェリッシュ!大丈夫か!?」
考えを巡らせていると、お父様が部屋に飛び込んできました。
「体育祭中に気絶したと聞いて、驚いたぞ」
「ご心配をおかけしてしまい、申し訳ございません、お父様」
聞くところによると、やはりどうも――おそらくは興奮のあまり――失神してしまったとのことです。なんと恥ずかしいことをしてしまったのでしょうか。
となると、気になるのは一点です。
「あの、一体どなたが運んでくださったのでしょうか」
「うむ?ああ。ラーディッシュ公爵家の令嬢だよ。その……逞しい方だな」
もう一人の私が、「図工」と言いながら脱力している感じがしました。何故?
それはともかく、ラプンツェル様でしたか。私をうちまで送ってくださるなんて、なんとお優しいことでしょう。お礼をしなくてはいけませんね。
「ラプンツェル様に、お詫びと、お礼のお手紙をしないといけませんわね」
「ぬ、おお、そうだ」
私がラプンツェル様への対応を口にすると、お父様が思い出したかのように懐から何かを取り出しました。
「チェリッシュ。お前にだ」
「私に?」
それは手紙でした。私が手紙を書く、と言ったから思い出したのでしょう。それにしてもどなたから?
私はその手紙に書いてある名前を見て、息を呑みました。
――親愛なるチェリッシュへ。ガトー・ショコラーテ
「――ひゃん」
「……ああ、こういうことか」
恥ずかしながら、いろいろと思い出すものがあり、私はまたしても失神してしまいました。お父様の、呆れたような、うれしそうな声を最後に。その時の記憶はありません。
しかし、ガトー様から、お手紙をいただいてしまいました。
しかもその内容は、冬の長期休暇の間、一緒にガトー様の領地で過ごさないか、というお誘いです。ああ、ああ!わたくし、どうしましょう!?
ご拝読・ブックマーク・評価ありがとうございます。
チェリッシュは、攻められると弱いです。ゲームでは、そういうシチュエーションが全くなかったので、もう一人のチェリッシュは知りませんでした