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7回目 口出ししても良い事にはなりはしない

 ノベールの考えてる通りである。

 批判や抗議に沿う形でエドマンドの文章を変えさせた。

 そのせいで本来の持ち味が消えている。

 しかし、理由はそれだけではない。

 崇高出版という会社の性格もそこに加わる。



 それは崇高出版、ひいてはアイメリア共和国の性格とも言える。

 その文学界の中では、ある種定型化された文章が最高のものとされる。

 アイメリア共和国が培って来た歴史。

 その中で出来上がっていった様式。

 アイメリア文学というべきものが存在する。



 崇高出版はそうしたアイメリア共和国の文学を基準にしている。

 アイメリア文学をひろく世に出すのを社是としている。

 もちろん、事業としてはそれだけではやっていけない。

 なので、売れる本を出版もしていく。



 エドマンドの採用された小説も、本来はそうしたものだった。

 エイメリア文学という様式からは外れてはいる。

 だが、文学という枠組みにとらわれないという強みもある。

 特に娯楽作品は、定型にとらわれないものが多い。



 なのだが、アイメリア共和国の中ではそれもなかなか難しい。

 出版社としては枠組みの外にある作品を出そうとしてもだ。

 それを認めない者達が外にいる。

 エドマンドに批判や抗議を送った者達がこれにあたる。



 それに乗じてカミラのような者がエドマンドを攻撃する。

 アイメリア文学の枠にとらわれない事を目的とした部署であるにも関わらず。

 ただ、会社が文学を基準とした社是を持っている。

 そんな中で、枠に囚われずにいるのも難しい。

 ある意味悲劇だろう。



 文学という基準を、創作の土台にするのではなく。

 文学という定まった形を強要する鋳型、あるいは檻にしてしまった。



 それが作家の可能性をそぎ取ってしまっているのだから。

 エドマンドが良い例である。



「そこら辺、うちは自由ですから」

 苦笑混じりにノベールは告げる。

「もともと、貴族の道楽ですし」

 そこにもまた、歴史や成り立ちが関係していた。



 ナロー出版は隣国のリーベンスリウム帝国にある。

 こちらは皇帝を頂点とした封建体制が長く続いた。

 その為、長年貴族が君臨する事になる。



 その貴族が作った同人誌。

 同好の士による個人活動である。

 文物を愛するこういった者達がナロー出版の原型になる。

 辿っていけば、まだ書籍販売が事業になる前から続く活動だ。

 むしろ、リーベンスリウムにおける書籍事業の原型といえる。



 そこから他の貴族もそういった同人誌を購入し。

 ならばと製本などにも力を入れて。

 そうしてリーベンスリウムにおける文学・文芸は発展していった。



 それが貴族の遊びから、事業へと発展していった。

 産業革命により、一般庶民の識字率なども大幅に向上したからだ。

 それに伴い、趣味の同人誌が大衆の娯楽として読まれるようになった。

 おかげで道楽も産業として成り立つようになった。



 そんな背景があるので、小説などは一人一人の発想が求められる。

 定まった形式や定型的な展開などはあまり重視されない。

 型にはめるという考えが無い。

 最低限、読める文章であるのは当然として。

 作者の発想や考えについては本人の自由である事が前提となっている。



 下手に文句をつけたら、貴族同士の問題になってしまう。

 実際、それが原因による仲違いが何度も起こり。

 それが国政に影響を与える事もあった。

 流血沙汰も起こった。

 それもあって、内容にあれこれケチを付けるという事はなくなった。

 そもそもとして、嫌なら読まなければ良いのだ。



 おかげでリーベンスリウムでは様々な物語が生まれた。

 作者の個性が活きているものが。



 だからといって、新奇なものが求められてるというのでもない。

 奇抜で破天荒なだけのおもしろみのないものは評価されない。

 それよりは、誰もが好む定型的な展開、王道が評価される。

 あくまで娯楽という要素が求められている。



 面白い対比である。

 統治者を選挙で選び、評議員で議会を構成するアイメリア共和国。

 しかし文芸においては、定型的で伝統を重んじ。

 対するリーベンスリウム帝国は皇帝の下、統治者と庶民の線引きがはっきりしてる。

 なのに文芸においては、形式よりも作者の感性が求められている。



「────とまあ、そんなわけでして」

 ノベールは説明をそう結ぶ。

「不思議と好き勝手やってるんですよ、小説とかの内容については」

「凄い……」

 エドマンドからすると別天地である。

 国や文化圏によって考え方などは違うものだが。

 そこまで大きな差があるとは思わなかった。

「だから、アイメリアのようにガチガチに固まってるというのは理解しがたい。

 なんでこんな事してるのか分からないくらいです」

 エドマンドの持ってきた様々な資料。

 それをノベールは不思議そうに見ている。



「なので、僕やナロー出版から内容についてあれこれ言うつもりはありません。

 犯罪を応援したり、社会崩壊を扇動するような内容でない限りは」

 さすがにそれは許されるものではない。

 だが、そうでなければほぼ何でもして良い。

 それだけの自由はある。

 エドマンドにはそれがありがたかった。

「こういう手紙もこちらの方で止めておきますので」

 批判・抗議文を指して言う。

「役に立たないどころか、害にしかなりませんので」

 それもエドマンドからすると意外なものだった。

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