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5回目 目に止まった記事、そして向かう新天地

「大丈夫なの?!」

 翌日。

 事の次第を伝えたエステェアの第一声である。

 突然の事に、そして話の内容にたいそう驚いたようだ。



「雰囲気が悪かったから気になってたけど……」

 そうも言われる。

「そんなに悪かったのか?」

「うん、すっごく」

 断言されてエドマンドはため息を吐いた。

「そこまでか……」

 はっきりと言われるほど調子が悪そうに見えていた。

 その事にあらためて驚く。



「でも、おかげで気が晴れたよ」

 相手がこれ以上心配しないようにそう伝える。

 将来の不安は隠して。

 しかし、そこは付き合いの長い読者である。

「本当に?」

 重ねて尋ねられてしまう。

 さすがに言葉に詰まった。



「まあ、ねえ……」

 不安がないわけではない。

 この先どうなるのか。

 そこはさっぱり分からない。

 でも、

「何とかなるよ」

 余計な心配はかけたくなかったからそう言った。

 ただでさえ、色々と心配をさせてしまっていたのだから。

「ならいいけど」

 エステェアもそう言ってそれ以上は聞かなかった。

 聞くのが躊躇われた。



 そんな事がありながらも、とりあえずは絶賛無職中である。

 無駄に時間だけがある。

 この先どうしようかと考えてしまう。

 考えても答えが出るわけもないが。



 ありがたい事に親は、

「暫くゆっくりしろ」

と言って貰えた。

「先の事はそれから考えればいい」

とも。

 父は職場に聞いてみるとも言ってくれた。

「お前の速筆の能力があれば便利だからな」

 そう言ってくれるのがありがたかった。



 ただ、すぐに動き出すだけの気力もわいてこない。

 何をすれば良いのかも分からない。

 なので、暫くは溜まってる雑誌や本に目を通す事にした。

 それはそれで不毛ではある。

 しかし、気持ちが充実していくのは感じられた。



 そうして雑誌や単行本を読み進めていく中で。

 エドマンドはとある記事を目にする。

『作者募集中』

 執筆者の募集記事。

 この手の雑誌でよくあるものだ。

 普段だったら読み飛ばすだろう。

 だが、この時のエドマンドはいつも以上にその小さな記事を目に止めた。

 その雑誌を刊行してる出版社も含めて。



 ナロー出版。

 隣国にある小さな出版社である。

 小さいながらも頭角を現してきた成長株。

 そして、話に聞くその出版社の姿勢。

 それがエドマンドの意識をとらえていく。



 そして。

 寝転んでいたエドマンドは、起き上がるとすぐに机に向かう。

 筆を走らせ、紙に思いついた言葉を書き連ね。

 翌日には郵便局に出向いて、書いた紙を便せんに入れて投函していた。

 つきまとっていた気怠さは、なぜか既に消散していた。



 二週間後。

 返事の手紙がやってきた。

 飛行機もない、蒸気機関が主流の世界である。

 そんな中では異例の早さといえる。

『是非、お話を聞きたい』

 そんな内容を見て、エドマンドはすぐに行動に出る事にした。



「というわけで、行ってくるよ」

「はー」

 目を見開くエステェア。

 展開のあまりの早さと、やろうとしてる事。

 その他諸々を含めて、色々衝撃的だったようだ。

「なんか…………凄いね」

「うん、俺もそう思う」

 急転直下というか、怒濤の展開というか。

 小説家になったが出版社と縁を切り。

 かと思えばすぐに次の出版社に連絡をとり。

 そこにこれから出向こうという。

 動きが急激すぎると言って良い。

 その事にエドマンドは当事者として。

 エステェアは関係者として驚いていた。



「でも、良かったね。

 新しい出版社と仲良くなれて」

「仲良くなれるかどうかはまだ分からないけど。

 でも、すぐに話が出来たのはありがたいね」

 そう言ってエドマンドは笑みを浮かべた。

 エステェアはそんな笑顔を久しぶりに見た。

「がんばってね」

「ああ、頑張ってくる」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」



 旅立ったエドマンドはそのまま隣国へ。

 鉄道を乗り継ぎ、国境を越えていく。

 途中、何泊もしながら目的地であるナロー出版社へと向かった。

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