22回目 近くにいるから押し寄せてくる
そんなあれこれが起こりはしたが。
世の中はそんな事を無視して動いていく。
エドマンドにとっては大きな出来事であり。
日常の中ではささやかな喜劇。
それは約一名以外を概ね幸せにした。
ただ、言ってしまえばそれだけの事でしかない。
世の中はそんな当事者達の思惑などを無視していく。
無事にささやかな事業拡張を果たしたナロー出版社。
従業員の拡大に伴い、雑誌や単行本の刊行数も増やしていく。
とはいえ、それはいまだに予定段階。
まずは拡大した従業員を育てなければならない。
頭数が増えただけでは、仕事は出来ない。
加えて、新たな作家の確保にも動いていく。
出版社の人間を増やしても、お話を書ける人がいなければどうしようもない。
新たな作家を確保し、今後に備えていかねばならない。
特にナロー出版はまだまだ小さな会社。
恒常的にやりとりのある作家は少ない。
力のある作家は特に。
この先の発展を考え、ナロー出版は動いていく。
急成長を遂げてる有望株ではあるが、まだまだ弱小零細。
先を考えれば、更に大きくなる必要があった。
とはいえ、ノベールは拡大や拡張だけを望んでるわけではない。
大きくなりすぎれば、その維持の為に能力を費やす事になる。
それも理解しているので、無駄な拡大は考えてなかった。
順調に雑誌や単行本を刊行できるだけの規模。
それを保てれば良いと。
それもかなり難しい事だが。
何はともあれ、作家がいなければ始まらない。
お話を書ける人がいなければ、刊行も何もない。
とはいえ、刊行するにもそれが出来る能力のある人間がいないといけない。
校正や印刷を受け持てる人間がいなければ商業出版には至らない。
それを担うべく、エドマンドやエステェアは頑張っていく。
幸い、まだエドマンドの人気は続いている。
当分は売れ行きを心配する必要がない。
エステェアも仕事をおぼえていっている。
掃除やお茶くみから始まり、編集の仕事も身につけつつある。
細々とした問題はあれども、ほぼほぼ順調に物事は進んでいった。
「おまけに、こうして新作が読めるし」
仕事上がり。
エドマンドの居室に乗り込んだエステェアは、笑顔を浮かべて原稿を読む。
出版社近くの5階建て賃貸マンションの一室の中。
それはエステェアが就職してからの日常になりつつある。
「いやー、やっぱり近くにいないと駄目だね。
原稿段階で読めなくなるから」
「あのなあ……」
「おかげで結構ストレスたまってたんだよ。
なんで遠くに行っちゃうのかな」
「なんで毎日来るんだよ」
「生原稿読むため」
「…………」
だいたいこんな調子である。
年頃の娘が野郎の所に足繁く通う。
それはいかがなものかというものだ。
おまけに最近は、
「ここの説明がちょっと足りないかな」
「はあ……」
「あと、ここは繰り返しになっちゃってる。
強調するならこの方がいいけど」
「はあ……」
などと自宅で改善要求が出される始末。
実際、言われた通りなので文句はないが。
「それとこのヒロイン。
ちょっと設定が漏りすぎな気がする。
こういう女が好みなんだろうけど」
「うるさい!」
暴かれたくない性癖や傾向まで知られてしまっていた。
そんな調子でエステェアが入り浸る日々が続いていく。
おかげで、夜遅くまでいると家まで送る事になり。
果てはそのまま寝泊まりする事も増えていった。
さすがにこれはまずいと思うのだが。
「うーん、別にいいんじゃないかな?」
エステェアは特に気にしない。
「私は兄ちゃんを信じてるし。
もし襲ったら責任とってくれるだろうし」
「…………」
信頼なのか脅迫なのか。
そのどちらでもあるだろう言い方に、エドマンドは肩を落とすしかなかった。
そして夜道を送る日々が続き。
だんだんと寝泊まりする回数が増えていく。




