2回目 小説家の超略歴と、彼の持つ能力
(なんで書いてんだろ)
道中、何度もそんな事を考える。
好きでやってる事ではあるが。
なのだが最近はそこに悩みを抱いてしまっている。
いや、小説そのものは好きである。
子供の頃から本を読み続け。
それが高じて色々書き始め。
それを読んでくれた近所の女の子から、
「おもしろい!」
と好評価を得て。
それで更に色々書くようになって、有名出版社の小説大賞に投稿した。
おかげで小説家になれたのだが。
(なんだけどなあ……)
なってみると、どうにも楽しくない。
小説を書くのは、お話を作るのは相変わらず楽しいのだが。
どうしてもそこから先は気が進まない。
それはエドマンドの能力や才能とは無縁の。
もっと別の要因によるものだった。
エドマンドはそのあたりに疑問をもちはじめてしまっているが。
無能という事は無い。
本当に創作能力がないなら、小説大賞に入選する事もないのだから。
幸いにも、こうした仕事に適した能力も発現している。
魔術の時代は遠くなりにけり…………ではあるが。
それでもそれらが消えたわけではない。
産業革命により、魔術に頼る必要は大幅に減ってはいるが。
魔術に関わる様々な要素も当然ながら残ってる。
その一つが、能力や特技、スキルに才能などと呼ばれるものだ。
全ての者が発現するわけではない。
だが、それを得た者は、特定の分野では超絶的な力を発揮する。
遙か遠くを見通す『千里眼』。
触れただけで怪我や病気を治す『癒しの手』
水の中で呼吸したり、壁などの障害物を透視するというのもある。
エドマンドが発現したのは『速筆』と呼ばれるものだった。
執筆速度が異様に速い。
地味と言えば地味だが、書く事を生業にする者には適している。
おかげで原稿用紙1000枚ほどなら一日で書き上げる。
単純に書くだけならば、何の苦労もない。
もっとも、文章力や題材などは別である。
その為、研鑽そのものは欠かす事が出来ない。
この研鑽の部分がエドマンドを悩ませている。
幾ら執筆速度があっても、書きたい事を上手に書くのとは別。
売り物の小説を書き上げるには、言葉をおぼえ表現力を身につけねばならない。
それ自体を厭ってるわけではない。
むしろ、より面白い話を書くために、今よりもっと向上したいと思っている。
だが、そんな思いすら打ち砕くほど現実は辛い。
その現実は出版社の中でエドマンドを襲う。
「なんですかこれは」
容赦のない叱責がエドマンドを叩いた。