1回目 小説家と読者第一号
念のために。
主人公であるエドマンド・ハミルトン。
名前のエド「マ」ンドは、間違いではありません。
エド「モ」ンドではなく、エド「マ」ンドです。
誤字脱字報告は必要ありません。
「……出来た」
筆を置いたエドマンド・ハミルトン(17歳 小説家)は、一息吐く。
考えあぐねてなかなか完成しなかった原稿。
それをようやく書き上げた。
それでも不安は大きい。
「上手くいけばいいけど……」
エドマンドが小説家になって2年。
出版社主催の小説大賞に佳作入選。
以来、職業小説家となって原稿を書き続けている。
爆発的な人気はないが、生活が出来るくらいには売れていた。
とはいえ、悩みがないわけではない。
特に小説家になってからはずっと悩み続けている。
それでも小説家を辞めるつもりはないのだが。
続けるのが苦痛になりそうにはなっていた。
それでも書き続けていたいと思う。
その理由の所に書き上げた原稿を持っていく。
今となっては、小説を書くのが楽しいと思える唯一の理由。
文筆業を志すきっかけの所に。
「うん、面白いよ」
そう言って笑顔を浮かべてくれる女の子。
近所に住んでる年下の少女はいつも通りの感想を口にする。
この少女、エステェア・ウェスタ・オーキッツ(13歳 学生)のそんな声が心の支えであった。
「ハミルトン先生の話はいつも面白くて最高です!」
「はいはい」
幾分調子の良い声には苦笑してしまう。
だが、そんな率直な感想がとてもありがたい。
「第一号読者にそういってもらえると、本当にありがたいよ」
「恐縮であります」
おどけて敬礼するのもいつもの事。
こんな他愛のないやりとりが、エドマンドを支えていた。
そんなエドマンドに原稿を返しながら、
「でも、これでも駄目なの?」
エステェアは不思議そうに尋ねてくる。
これで何で駄目なんだろう、という疑問がありありと浮かんでる。
同時に、不満や憤りといったものも少々。
「こんなに面白いのに」
どうしても納得がいかないようだった。
子供の頃からエドマンドのお話を読んできた身としては当然かもしれない。
「編集さん達からすると、まだまだなんだろうね」
「そうかなあ……」
エドマンドの言葉にエステェアは不服そうである。
「他の人の本より面白いけど……」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
その言葉があるから小説家を続けていられる。
だが、そこに甘え続けてるわけにもいかない。
「じゃあ、行ってくる」
書き上げた原稿を返してもらい、あらためて出版社へ。
そんなエドマンドを、
「うん……」
不安げにエステェアは見送った。
しかしエドマンドの足は重い。
赤い髪をかきむしりながら顔をしかめていく。
何度もため息が漏れる。
そうなるくらい気持ちが萎える。
理由は明白、編集部に顔を出したくないからだ。
行けばまた色々言われる。
とはいえ、
「行かないわけにもいかないし……」
職業柄、避けては通れない場所だった。
かくて今日も最寄り駅から汽車で1時間24分。
エドマンドが本を出してる出版社へと向かう。
当然、客車の中でもため息を出しっぱなしにしながら。