修羅場じゃなくて、両手に花でした
私は世界一カワイイ女の子だ。
ゆるふわな巻き髪、小さな顔に、ぱっちりお目々、ツヤツヤの唇。
ファンションだって、常に流行を追って、メイクもばっちり。
そんな私に、運命の王子様が一人なんて、あり得ない。
だから、二股しちゃうくらい、しょうがないよね?
て言うか、二人なんて少ないくらいだ。
まぁ、私に相応しいレベルの高いイケメンなんて、そうそう居ないから、それもしょうがない。ホント、世の中、なんちゃってイケメンばかりだ。
そんなわけで、私は、目下浮気中。
レベルの高いイケメン、二人目に出会った彼と、部屋でイチャイチャしてます。
「梨愛。僕の、僕だけのカワイイお姫様」
「そうだよ、奏斗。奏斗も、私の私だけの王子様でしょ?」
「勿論。僕は君だけのモノだ。梨愛以外、目に入らないよ。君もそう思ってくれてる?」
「そんなの聞かなくても、分かるじゃん。ほら、私の目を見て。奏斗しか映ってない」
「ふふっ。ホントだ。何時までも、この時間が続けばイイね」
「えぇー? そんなヤダ。見詰めるだけじゃ、イヤ。だから、ね……?」
早く、キスしてっ!!!
上目遣いで、最上級のイケメンの二人目の彼氏様を、見詰め返しながらも、私は限界だった。
て言うか、アナタしか映らないのは、当然でしょ? アナタ程、レベルの高いイケメンは居ないんだから。
勿論、一人目に出会った、もう一人の最上級のイケメン彼氏様は、別だけど。
イケメンに、甘い視線、甘い囁きを貰うのは、女として、当然、嬉しいのは嬉しい。でも、そろそろ、甘い刺激も欲しいところだ。
だって、ここベッドの上だよっ!? 今、自分の部屋で、彼氏と二人っきりなんだよっ!?
しかも、最上級のイケメンっ! 最上級のイケメンっ! 大事なことなので、二回言いました。
アナタも、男でしょ? さっさと、そんな気になってよっ!!
まぁ、でも、彼氏様らしいと言えば、らしいけどね。
左原 奏斗。
二人目に出会った、最上級のイケメン彼氏様は、私主義で、私をお姫様扱いしてくれて、本当に王子様で、ちょっと、いや、かなり束縛が激しい。
彼は、ヤンデレ系王子様イケメンだった。
奏斗と出会ったのは、男を漁りに、将来有望なエリート大学生との合コンに、参加した時だった。
勿論、一人目の彼氏様には秘密で。
第一印象は、氷の様に冷たく不機嫌そう。
麗しくビスクドールの様に整った顔立ちを、煩わしそうに歪めていた。人形みたいな完璧さが、彼の冷たい雰囲気を助長し、孤高の存在のように感じさせる。
氷のプリンス。
一目見て気に入った私は、密かにそう命名した。
奏斗の不機嫌そうな理由は、合コンの幹事のチャラそうな、なんちゃってイケメンの男に、無理やりここに連れて来られたから。
氷のプリンスは、女嫌いだった。
そんな彼に、振り向いてもらうのは大変だった。相手にされず、蔑んだ目で、毒を吐かれる女の子達を何人も見た。
だけど、私はイケメンの為なら、努力を惜しまない。どんな苦労も、苦労じゃなかった。
結果、今では……。
「大好きだよ。奏斗」
優しく囁いて、ベッドに押し倒せば。
「ふふっ。愛してるよ、梨愛」
と、幸せそうに、頬を緩めて、とろんとした顔で見詰めてくれる。
頑張って良かった、と感じる瞬間の一つだ。
唇が触れるだけの軽いキス。そして、これからと言うところで。
「……お前は、俺だけのモノつったよな? 梨愛?」
奏斗以外のイケメンボイスが聞こえた。その声は、怒りに震えていた。
ガバッと顔を上げて、部屋の入り口に目を向けると、笑っているのに、笑ってない、妖しい微笑みと目が合った。
思わず、体がびくりと震える。
「綾斗……」
そこに立って居たのは、一人目に出会った最上級のイケメン彼氏様だった。
ヤバいっ!! これは、かなり怒ってるっ!!
当然だ。
彼氏様からすれば、今の私は最悪な裏切りでしかない。それも、お前がするのかと言う程の。
右野 綾斗。
一人目に出会った最上級のイケメン彼氏様は、何様俺様綾斗様な暴君で、自分の思い通りにならないものなんてないと、本気で思っていて、ちょっと、いやかなりS。
彼は、ドS系俺様イケメンだった。
綾斗と出会ったのは、大学生になった時だ。
講義を受けに、教室に入ると、そこには何故かハーレムがあった。
第一印象は、王のように絶対で傲慢そう。
華やかに整った顔立ちで、満足げに笑みを浮かべていた。異国の人のような妖艶さが、彼の絶対的な雰囲気を助長し、何処かの国の王族のように感じさせる。
アラブの王子。
一目見て、ビビッと来た私は、密かにそう命名した。
綾斗の周りには、沢山の女の子が居た。それが、彼の上機嫌な理由。
アラブの王子は、女好きだった。
そんな彼の一番の女の子になるのは、大変だった。彼のハーレムの中には直ぐに入れたけど、私だけを見てくれることはなくて。
だけど、私は頑張った。何度も言うけど、私はイケメンの為なら努力を惜しまない。
結果、私は、彼の唯一の彼女になれた。それなのに……。
「この俺のたった一人になったってのに、お前は何が不満なワケ?」
こっ、殺されるかもっ……。
でも、綾斗の怒ってる顔は、キライじゃないんだよね。なんか、危険な感じがイイっ!!
なんて、危機感があるんだか、無いんだか分からない感想を思って、私は奏斗の上に乗ったまま、ぼんやりと綾斗に見惚れていた。
チッと、舌打ちする綾斗。
つかつかと、目の前にやって来て、グッと腕を掴まれて、強引に奏斗から離された。
「……梨愛、お前は俺のモノだ。俺だけを見てろ」
鋭くも、嫉妬の炎を灯した視線は甘かった。その視線とは反対に、荒々しく唇を奪われる。
「んっ……!?」
深く深く唇を重ねて、混乱から徐々に快感へと変わり始める。このまま、甘い刺激に身を委ねようとしたけど出来なかった。
今度は後ろへ体が引っ張られる。
「ダメだよ、梨愛。僕の目の前で、他の男に触られちゃ」
「……奏斗」
気が付けば、私は奏斗の腕の中に居た。
「君は僕しか映らないって言った筈なのに、さっき君の瞳には、別の男が映ってた」
ねぇ、どうして?
黒い微笑みを浮かべる奏斗。
わぁ、これはかなりイッちゃってるな。でも、狂気的な表情もスキっ!
ぽーっと見詰める私に、奏斗は狂気的な光を瞳に宿したまま、嬉しそうに微笑む。
「ふふっ。イイ子だね。そう、そのまま、僕だけを見詰めて、梨愛」
ゆっくりと、奏斗の顔が近付く。
唇が触れるその前に、低い怒気を孕んだ声がした。
「……ぶっ殺す」
またぐいっと引っ張られて、綾斗の腕の中に収まる私。
「……君こそ、消すよ? 邪魔しないでくれる?」
「はっ、やれるもんならやってみろ。お前こそ、この俺のもんに、手を出しやがって、覚悟は出来てるんだろうな?」
瞳を鋭くして、バチバチと睨み合う二人。
不穏な空気を感じて、私は嬉々として、綾斗の腕から抜け出した。
イイっ!! この展開、待ってましたっ!!!
イケメンとイケメンが私を奪い合う。
なんて、ステキなシチュエーション。
あぁ、私の為に、争わないで……。
一度は、言ってみたいと思ってたの。さぁ、思う存分、私を奪い合って!
なんて、思ってたのに、私が妄想している間も睨み合っていた彼氏様達は、今にも殴り合いそうな雰囲気から一転。
何故か、鋭かった瞳を、驚愕で丸くして、じっと見詰め合っていた。
「お前……カナ、なのか?」
「君は、アヤなの……?」
「えっ?」
二人は怒気も狂気も何処へやら、方針気味に呟き、私は間抜けな声を上げた。
カナ? アヤ?
確かに、奏斗はカナって呼ばれてもおかしくないし、綾斗だって、アヤって呼ばれてもおかしくない。だけど。だけど、ね。
「……どういうこと?」
知り合いだったの?
て言うか、このセリフ、私が言われたかったな。
なんて、混乱しながらも、がっくりしている私に、綾斗は自分を落ち着かせる様に、溜息を吐いて、奏斗はまだ放心気味に。
「……コイツは、俺の弟だ」
「彼は、僕の兄だ……」
衝撃的な事実を、私に告げた。
「……えっと、つまり、二人は生き別れた双子の兄弟ってこと?」
そんなことって、あり得るの? いや、あり得るか。
彼氏様達の説明を聞いて、私はそんな感想を抱いた。
綾斗と奏斗は、幼い頃に両親が離婚し、それぞれ別々に引き取られたらしい。兄である綾斗は、母に引き取られ、沖縄へ。弟である奏斗は、父に引き取られ、北海道へ。
そうして、離れ離れになった二人は、大学進学を機に、東京へ来て、一人の超絶可愛い女の子と出会う。その子と付き合ってみれば、彼女は浮気をして、浮気相手として遭遇したのは、なんと生き別れた双子の兄弟。
これだけ聞くと、やっぱりあり得ないと思う。
だけど、彼等が面食い中の面食いである私が、認めるイケメンとなればあり得るんじゃないだろうか。
だって、最上級のイケメンなんだよ? それが二人も居るんだよ?
そうなれば、同じ血が彼等に流れてるなんて納得だ。きっと、二人の家系は、美形揃いに違いない。
奏斗を好きになる筈だよね。綾斗の弟なんだがら。
て言うか、沖縄と北海道って。日本の端と端って。
彼氏様達の両親は、そんなに二人を引き裂きたかったの?
いや、違うか。自分達が離れたかったのかな?
なんて、つらつらと思考する私を置いて、最上級のイケメン双子は、二人の世界に入っていた。
「もう、君に会えないかと思った……会いたかったよ」
「ごめん。会いに行くって約束、守れなくて……」
「良いんだ。今、こうして君に会えたんだから、もう……」
「俺も、お前に会えて嬉しい」
奏斗……っ。
綾斗……っ。
互いに名前を呼び合って、抱き合う二人。その瞳には、美しい涙が浮かんでいる。
「……」
何だ、コレ。
修羅場の殺伐とした雰囲気は、すっかり鳴りを潜め、感動の再会の場と化している。
蚊帳の外になって、ぽかんと、抱き合うイケメンを見詰める、ちょっと間抜けな私。
だから、一体、何なの? アナタ達、私を取り合ってたんじゃないの? って思うんだけど。だけどね……。
もっと、意味不明なのは、この状況を悪くないって思ってしまっている私がいることだ。ぽかんと言うより、うっとりと言う方がしっくりくるくらい、彼氏様達から目が離せない。
彼氏様に見詰められている、触れられているみたいに、胸が高鳴って、体が熱くなる。
いや……。
そんな私にダメ押しとばかりに、不意に、彼氏様達は体を離して。フッと、微笑み合う。
「……っ」
ドキリとする私の前で、互いの涙を拭い合うイケメン双子。
それ以上かも知れないっ!!
思わず、興奮して、見詰める瞳に熱が宿る。その視線が、余りに熱心だった所為か、彼氏様達が二人の世界から、我に返って、私に気付いてくれた。
ぱっちりと目が合う。
「梨愛。そんな物欲しそうな顔すんな。直ぐに、お前も可愛がってやるよ」
「ふふっ。そんな可愛い顔しないで、梨愛。僕を誘惑してるの?」
ニヤッと笑う綾斗と、ニコッと微笑む奏斗に、ほえ? っと、間抜けな顔に戻る私。
「……二人共、怒ってないの?」
私、浮気したんだよ? それを言外に込めて、綾斗と奏斗の顔色を伺うように見詰め直す。
そんな私にイケメン双子彼氏様は、余裕綽々と笑みを浮かべたまま。だから、何なんだよ? と言うように。
「流石、俺の選んだ女だな、梨愛。お前は男を見る目がある。この俺の弟を浮気相手に選ぶんだからな」
「ありがとう、梨愛。君はホントに、僕を幸せにしてくれるね。ずっと会いたかった兄さんと、こんな形で会わせてくれるなんて」
そう言い切る二人はイケメンオーラ全開で、彼女に裏切られた人達とは思えないくらい、自信と幸福感に満ち溢れている。
なんか、浮気がバレた瞬間から思い描いたシナリオと、全然違うものになってる。
正直、不満と言うか、残念だ。
だけど、まぁ、これはこれで良かったのかも知れない。
この展開じゃあ、「別れよう」なんて言われないだろうし。そんなことになったら、元も子もないし。ねぇ?
なんて、身勝手にも安堵していたら、不意に浮遊感が私を襲う。
「きゃあっ!?」
驚いて声を上げた私は、綾斗の腕で、姫抱きにされていて。そう気付いた時には、ポスンっとベッドの上に降ろされていた。
「なっ、な、に?」
綾斗の獲物の前にした獣のような、獰猛な艶やかな視線と、奏斗の幼い子供がお気に入りの人形を前にしたような、無邪気な愛おしそうな視線に見下ろされる。
「……っ」
私はくすぐったい気分になって、ベッドの上で身動ぎした。
「何って、言ったろ? 可愛がってやるって。あぁ、勿論、」
「二人でだから、安心してね?」
このセリフの意味を理解して、さっきとは違う意味で、ドキリとする私。
確かに、二人のイケメンから、同時に愛されるのも、悪くないし、ある意味で夢だ。甘い刺激も欲しいって、思ってたけど。
私、取り合われちゃってるっ!! なんて、テンションが上がったのと比べると、そんなでもないのかも。
と言うか、本音を言うと、今はどうでも良い。私が今、求めて止まないモノは他にある。
あの麗しい光景が、頭から離れない。
女と言う不純物のない、純度の高い、男同士の慈しむ姿。
仄かに、危ない香りのする兄弟の愛。
それも最上級のイケメンが繰り広げているなんてっ! さっきの二人の抱き合う姿を思い出して、ぽーっとする。
そんな私を彼氏様達は、慣れた手付きで、あっという間に引ん剝いて、裸にする。
そして、そのままちょっと上の空で、私は愛された。
二人は私が上の空なのに、気付いていたのか、何時もより激しく愛される。
「……っ」
気が付けば、私は美しい兄弟の愛の形を忘れ、甘い快楽に溺れていた。
彼氏様達が、色気全開で笑う。
「俺とカナ以外の男と、ヤッたらどうなるか分かってるよな?」
「僕とアヤ以外の男に、こんな姿見せるなんてしたら、どうなるか分かってるよね?」
と、甘過ぎて恐ろしい囁きと共に、綾斗と奏斗、代わる代わるに唇を奪われる。蕩けるような心地で、意識が朦朧として、意識を手放してしまいそうだ。
でも、これだけは伝えたい。
「……そんなのっ、する、ワケないでしょっ……?」
だって、アナタ達は、私が見付け出した、最上級のイケメンなんだから。
彼氏様達以外のただの男なんて、目に入らない。
「大好きだよっ……綾斗っ、奏斗っ……」
そう囁き返して、綾斗、奏斗、それぞれの頬にキスをする。
伝えられた満足感と共に、私は今度こそ、意識を手放した。
「……んっ」
ぱちりと目を覚ます。
麗しいお顔が右と左にある。
どうやら、あの後、綾斗と奏斗も眠ってしまったらしい。私を挟んで、向かい合うように、無防備な寝顔を晒していた。
彼氏様達の寝顔を見るのは初めてじゃない。けれど、ここまで隙のないと言うか、穏やかで安心しきった顔は初めて見る。
ずっと会いたかった、離れ離れになっていた兄弟に再会して、幼い子供の頃の感覚を思い出したのかも知れない。
綾斗と奏斗。
二人を失わなくて良かった。裏切っていると思ったのに、まさか幸せにしてしまうなんて思わなかったけれど結果オーライだ。
それにしても、最上級のイケメンに囲まれて眠るなんて、私も凄く幸せ。でも……。
私抜きで、向かい合った彼氏様の寝顔を見たいと思ってしまう私は、何か新しい扉を開いてしまったのだろうか。
取り敢えず、そっとベットから抜け出そう。そして、スマホを取りに行こう。
美しいこの図を永久保存しなければ。