真面目に授業を受けようよ!?
昨日に引き続き心春が一人で登校し。
さらにはその相手である俺が、蓮見さんを伴って登校した件は、少なくない衝撃をクラスに与えていた。
「あいつ、三枝さん狙いじゃなかったのかよ」
「なんかー、昨日聞いたんだけど二股かけようとしてるらしいよ天方くん!」
「うわ、最低だな天方……」
聞こえてますからね?
二股しようなんて事、全く考えてませんからね?
なお、当事者の蓮見さんはそんな噂もどこ吹く風で、いつも通り、席で本を読んでいた。
もう一人の当事者である心春は、女子グループで質問攻めにあいわちゃわちゃしているのに、この差である。
と言うか君ら、本当に同い年なんだよね?
蓮見さん、年齢詐称してませんよね?
いや、心春が年齢詐称しているのか……?
「今、天方くんから大変失礼な考えが伝わってきました」
怖い。
* * *
突然だが、俺の席は後ろから2列目、窓際にある。
そして蓮見さんの席は右隣。
ついでに言うと、心春の席は廊下側最後列と、すこし離れた場所に位置している。
何が言いたいかと言うと、授業中、俺たち3人の席は、寝てる程度のことでは早々気付かれない、ということである。
ここ重要なところなので、きちんとメモするように。
その日の3限目、世界史の時間。
俺は、世界史の授業が好きだ。
特に中世あたりの時代は、本を読んでるだけでわくわくするし、見てるのも楽しい。
百年戦争から薔薇戦争のあたりは特に楽しいと思うので、みんなも是非本を読んで欲しい。
そして今日も、楽しい世界史の授業を……といいたいところだったが、俺の頭の中は心春と蓮見さんのことでいっぱいだった。
特に心春、あいつが何を考えているのかがまったくわからない。
いや、小学生みたいな思考をしているから、もしかすると何も考えていないのかもしれないけど。
少なくとも、あいつがキッカケとなって、俺の生活はもはやめちゃくちゃである。
ちらっと隣を見ると、もう一人のキッカケの蓮見さんと、ばっちり視線があった。
えっ、なんで授業中に目が合うの……怖……。
はぁ、と溜息を零しながら視線を下に向けると、机の中に入れてあったスマホが、ちかちかと光っているのが目に入った。
ん、なんだ……メッセージの通知か? 相手は……
――――三枝 心春。
大丈夫だとは思うが、一応担当教諭の目がこっちを向いていないかを確認し、心春からのメッセージを開く。
『変態キス魔は今日のお昼、なに食べんの?』
……なんだこのメッセージ、ケンカ売ってんのか。
そもそも、俺からキスしたことなんて一回もねぇよ。
『誰が変態だ、あれは蓮見さんからしてきたんだから、俺関係ねぇよ』
『ふんっ、喜んでたくせに!』
『仮に喜んでたとしても、お前には関係ないだろ?』
『幼馴染が変態だと、ボクも色眼鏡で見られるんだけど?』
『バカなこと言ってないでちゃんと授業受けろ、お前バカなんだから』
『またバカって言った! お父さんにも言われたことないのに!!』
そりゃそうだろ……お前の父さん、お前にゲロ甘だからな。
甘やかしすぎの娘好きすぎで、見てるこっちがドン引きするほどだからな?
若干、お前の母さんも引いてるの、気付いてるかお前?
『だいたいキスだって、昔はハルからボクにしてきてたじゃん! やっぱりキス魔じゃん!』
……ん?
『はぁ? なんのことだよ』
『ボクの乙女心を弄んだ罪は重い!』
『しらねぇしっていうか誰が乙女だ』
むしろ、俺を弄んだのはお前だろ……!
返して! 長年育んできた俺の純情を返して!!
『ふんだ、ハルのおばか!』
『小学生か。 いいから授業聞け、もう俺は勉強みてやらんからな』
『え、なんで?』
『なんでじゃねぇよスマホしまえ、もう返事しないから』
はぁ……なんで俺、授業中にアイツとLINEなんかしてるんだろう。
夏休みの間なんて、一回もメッセージのやり取りなんてしなかったのに。
……あー、やめやめ、考えるのはよそう。
学生の本分は勉強だ、色恋なんてもう考えてる暇はないんだ。
さぁ、勉強するぞ、勉強するぞ……
あ、スマホが光った、またメッセージが来たな……。
ちらりと廊下側を見ると、真面目に授業を聞いている……ように見える心春がいる。
ふん、いくらメッセ送ってきてももう見ないからな、そのまま真面目に授業受けろ。
でないとお前、ほんとに留年しても知らないからな?
バカなんだから。
そう思っていると、ちかちか、っと、またスマホが光ったのが見えた。
見ない……俺はもう、スマホは絶対見ないぞ?
そうしているうちに、三度、またもやスマホが光った。
……なんだよ、見ないなら何回も送るってか?
どんだけ必死なんだよお前。
わかったよ、見てやるよ、これが最後だからな!
『ボク』
『ハルのこと』
『 』
「ハルのこと……なんだよ!」
「なんだ天方、質問があるなら手を挙げなさい」
「あっ、いえ、スイマセン……」
くすくす、とあちこちで笑い声が上がり、カッと顔が赤くなったのが自分でもわかった。
くそ、やらかした恥ずかしい……!
てかなんだこれ、私ハルのこと……なんだよ! その先の三通目が空白じゃねーか!
そう思って廊下側に目線をやると……心春のやつ、こっち見てニヤニヤしてやがる、本当にウザい。
『あれー? もう見ないんじゃなかったのー? なんかー既読ついてるんですけどー?』
クソうぜぇ!
『いいから授業に集中しろ、マジで』
『て言われても、全然わかんないし……横文字多すぎるんだよー』
『人名以外は漢字だろ……とりあえずノートだけ取れ、俺はもう貸さないからな』
『えー! なんでなんで!? 勉強おしえてよーノート貸してよー!』
『真面目に授業受けない奴には絶対に教えない』
それ以降、ぴたりと心春からのメッセージはとまった。
最初から、そうやって授業受けてればいいんだよ。
さあ、俺も授業を真面目に……。
「天方くん天方くん」
真面目に……授業を……。
「さっきから、スマホ弄ってたのは三枝さんとお話してたんですか?」
「はぁ……まぁ、そうですが」
「私も天方くんとLINEしたいんですけど?」
「はぁ、そうですか」
「そうなんです」
ニコニコと笑いながら、すっとスマホを差し出してくる蓮見さん。
なぜだ……笑ってるはずなのに、物凄い圧力を感じるのは……!
「三枝さんとは出来るのに、私と出来ないなんてありませんよね?」
「ええ……」
「ほら、ID交換、しましょ?」
怖い。
笑顔の蓮見さんが、ただただ怖い。
「よ、喜んで……お願いします……」
「ふふっ、ありがとうございます! 毎日LINEしましょうね!」
「ソウダネ……」
こうして、俺のスマホに家族以外の女性の連絡先が追加されたのだった。
喜ばしいことのはずなのに全く嬉しくないのって、不思議ですよね……!
ぺかっ。
うん? スマホが光って……蓮見さんからメッセージが……早速かよせめて授業終わるの待てよ。
蓮見鈴七
初めてメッセージ送ります♡
ぺかっ
蓮見鈴七
よければ、待ち受けにしてください♡
なんだ? 画像付き……
「ぶふぅ!!?」
「天方!!!」
「す、すいませんーーー!」
蓮見さん……ダメだってこれは……ダメだってこれは!
だって送られてきた写真、目線を手で隠してるけど!
む、む、む、胸元が……!!
ぺかっ
蓮見鈴七
昨日、準備しておいて正解でした!
ぺかーっ
蓮見鈴七
天方くん一人で楽しんでくださいね♡
わからない……蓮見さんがわからないよ……!!