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正面から殴り倒します!


 駅前から少し奥まったところにある、静かな雰囲気の喫茶店。

の、さらに奥まった、わざわざ見に行かなければなかなか人から見えない席。


そこで、俺と蓮見さんは向かい合っていた。


「なかなかいい喫茶店を知ってるんだね、天方くん」

「あー、うん。この辺のいい感じのお店は、だいたいチェックしてあるんだ」

「ふふっ、三枝さんと来ようと思ってたんだ?」

「うぐっ……」


 い、言いにくい事をズバッと言う人だな! 普通、もうちょっと躊躇わないか?

こっちは幼馴染にフラれて傷心中なんだぞ……!



「はぁ……まぁ、いいや……それで? 話って言うのは?」

「その前に天方くん、先に私に聞きたいことがあるんじゃないかな?」

「そりゃ、あるにはあるけど……よくわかったね?」

「ふふ、朝も言ったように、私、天方くんが何を考えてるか、なんとなくわかるの」

「ふぅん?」

「それに、天方くんの聞きたい事と私の話したい事は、多分同じだから」


なるほど、朝も見事に俺と心春のことも言い当てられたし、本当に分かるのかもしれない。

ていうか俺、そんなにわかりやすい顔してるかなぁ? いや、柾人にもなんかあったってバレてたし、してたか?

まぁ、いいや。


ここは、蓮見さんの言う通りにしてみよう。



「じゃあ、俺の聞きたい事を教えてくれる?」

「うん、いいよ……まずは3サイズが、上から88、ごじゅ「待った」」


思わず頭を抱えてしまった俺を、誰が批判できるだろう?

こいつ……全くわかってねぇ!

何が考えてることがわかるだ! 何もわかってねぇよ!!


「どうしたの天方くん? あっ……ご、ごめんなさい……そうだよね、服の上からじゃわからないよね」

「脱ぐなよ?」

「えっ……天方くんも私の考えてること、わかるの?」


マジで脱ごうとしてたのかよ。

あれっ、もしかして蓮見さんって痴女……いやいや待て、まだ結論を出すには早すぎる。

そんなことよりも、だ!


「そうじゃなくて! 朝のあれは何!?」

「あれって……どれのこと?」

「あ、あれっていったらあれだよ! ほら……あれ!」

「えー、はっきり言ってもらわないと、どれかわっかんないなぁー」


 ……うぜぇ。

ニヤニヤと笑いながら、トボける蓮見さんが死ぬほどウザい!

あれっおかしいな? 俺の知ってる蓮見さんってもっとこう……クールで……いつも本を読んでて物静かな……。


「くっ……あ、朝、蓮見さんにされたき……き……キス……のことだよ!」

「や、やだ……こんなところでキスなんていわれたら恥ずかしいよ……」

「あんたもっと恥ずかしいことを学校でしてるからな!?」

「もうっ、天方くんのえっち……こんな奥まった席に連れてきたのは、また私とキスしようって事だったんだね? ……いいよ、キス、しよっか?」

「ごめん、頭痛くなってきたからちょっと待ってくれる?」


もうやだこの人……。

学校とキャラが違いすぎて、全然掴みきれないよ!

なんなの普段は猫かぶってたの?


「そっかー、残念。 それで、朝なんでいきなりキスしたかってことだったっけ?」

「……うん、そう……ああ、やっと本来の話に入れる……」


おかしいな、なんで俺、もうこんなに疲労困憊なんだろう?

はぁ、早く帰りたい……。


「そのことについては、私が天方くんを好きだから、って言ったと思うけど?」

「そこだよ、わからないのは」

「? どこ?」

「俺が好き、ってところ……はっきり言って、全く信用できない」

「えぇ……そんな事言われても証明のしようが……あ、脱ごうか?」

「何かあったらすぐ脱ごうとするの、やめてくれる?」


なんでこの人すぐに脱ごうとするの? やっぱ痴女なの?

まぁ、それはいいとして……いやよくないけど。


 珈琲を一口飲んで、口を湿らせる。

ふぅ、落ち着くねぇ……。



「で、俺が好きって話だけど、そもそもこれまで、俺と蓮見さんってほとんど関わりなかったよね?」

「うん、そうだねぇ……あんまり話しかけなかったかも」

「そんなんでいきなり好きとか言われても、やっぱ信用できないし、裏がありそうに聞こえちゃうんだよね」

「わ、私って信用ないね……」

「そりゃあね」


信用があると思うほうがおかしいと思います。

まぁ、その元々なかった信用も、今ガンガン削られてますけどね!


「うーん、信じてもらえないだろうけど、私が天方くんを好きなのはほんとだよ?」

「俺のどこがいいの? 俺ってほら……」

「うん、天方くん、ずっと三枝さんが好きだったもんね」


ほとんど付き合いのない蓮見さんにもバレバレだったとか、恥ずかしい……!

しかもこれでフラれたってのも知られてるのもバレてて二重で恥ずかしくて死にたい!

あ、でも多分クラスの連中にもなんかあったって知られてるよね! ははっ!


もうマジ無理死にたい……。


「でも、天方くんは三枝さんにフラれたって言うじゃないですか」

「うん」

「じゃあ、告白するしかないじゃないですか」

「うん?」

「一撃で最高のインパクトを残すには、大人のキスしかないじゃないですか」

「その発想はおかしい」


いや、物凄いインパクトだったけど!

一生忘れられない思い出になったけど!!

あ、ダメだ思い出すだけで顔に血が集まる……!


「ていうか、そこでじゃあいくか! って言って行動できる思い切りのよさがヤバいよ!」

「へへへ、照れちゃいますね」

「照れるとこなのそれ?」

「私の叔母さん……おっと、花七お姉さんが常々言ってました……『男の子相手は先手必滅よ!』って!」

「必滅!?」


なんだその物騒な叔母さん! 怖いよ!?


「ふふっ、天方くんのファーストキス、ご馳走さまでした」

「は、初めてじゃないし……」


初めてだったけど!


「あら残念、でも私はファーストキスだったので安心してくださいね?」

「そんな軽く……!」

「天方くんに消えない思い出を刻み込んで、三枝さん相手の先制パンチにもなった完璧なファーストキスでした……」

「最悪の思い出として、消えそうにないねぇ……」

「ふふっ、アルバムを見るたび思い出せ!」

「最低だ! この人ほんと最低だ!! ……って、なんで心春?」


これには思わず首を傾げてしまった。

え、ここで心春が出てくる意味がよくわかんないんだけど。

あいつは今回の件もなんとも思わないでしょ、だって俺を男として見てないから!

だって俺フラれたもんな! ははは……は……はぁ。


辛い。


「ふふふ……今頃きっと、三枝さんの胸中は大荒れでしょうね」

「そうかなぁ……」

「とは言え、三枝さんもまだ、自分のことがよくわかっていないようですけど」


確かに今日の心春はちょっと様子がおかしかったけど……。

うーん、わからん! あいつの考えてることがさっぱりわからん!!


「まぁ、これで三枝さんが向かってくるならそれもいいでしょう、正面から殴り倒して天方くんは頂きます」

「めちゃくちゃ凶暴だこの人!」



蓮見さんはクラスで見る蓮見さんとは全然違って、戸惑う所も多かった……いや、戸惑う所しかなかったけど!

今まで猫被ってたのかよって思ったけど!!

でもなかなか楽しそうな人だな、と。


そう、思った一日だった……。



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