隣の席の蓮見さんと幼馴染の心春ちゃん
あの日から、一週間ほどが経った。
俺と蓮見さんは彼氏彼女の関係になったわけだが、だからと言って心春を含めた3人の関係は、見た目上、そこまで大きく変わることはなかった。
ただ、朝に心春と登校する事が減ったことと、夕方、下校することが減ったくらいだろうか?
まぁ、蓮見さんと心春の仲がいいので、なんやかんやと言いつつ、登下校も三人でいることは多いんだけど……。
「スズちゃんおはよー!」
「おはようございます心春さん、今朝も元気ですねぇ……」
「もー! 心春でいいって言ってんのに、いつまでさん付けするかなぁ?」
「ふふっ、しばらくはこれで許して下さい」
……ほんと、仲いいねぇ君たち……。
ていうか、いつの間に呼び方が苗字から名前呼びに変わったんです?
しかもお前、スズちゃんて……!
「ハルもおはよ! 相変わらず眠そうな顔してんねぇ」
「実際眠いんだよ、誰かさんにモンスレ付き合わされたせいでな」
「にししっ! 文明の利器ってすごいねぇ、今はネットがあれば離れててもゲームできるんだしっ」
「ほんとにな」
「あっ! アイカーさんおはよー!」
結局、心春と俺の関係は夏休み前……いや、もっと前だろうか?
それこそ、小さい頃からの「幼馴染」の関係にまで戻っていた。
心春がそれでいい、と思うなら、俺には何も言えないし、何も言うつもりはない。
……正直、今回の件で心春が俺から離れていく覚悟もしていたので、どちらかというとほっとした……かな?
これから心春と俺、蓮見さん、三人がどうなるかはわからないけど、それでも出来る限り、仲良くしていければいい、と思っている。
「……心春さんは、本当にいい子ですねぇ」
「蓮見さんがそのセリフ言うと、なんか母親みたいにしか見えないんだけど」
「それは私が年をとって見える、ってことでしょうか?」
「いやー、そういうわけじゃないんだけど……包容力?」
「ふーん……まぁ、そういう事で今回は許してあげます」
ゆ、許された……。
なんか心春と蓮見さんって、姉妹、というより保護者と子供にたまに見えちゃうんだよね。
頑張ってお姉さんぶろうとする心春がまた……。
そんな事を考えていると、蓮見さんが俺の隣に来た。
いつもの右隣の席じゃなく、本当の意味で、俺の右隣に。
「ど、どうしたの、蓮見さん?」
「んー、なんとなく、天方くんの隣に行きたくなりまして?」
「ここ、教室なんだけど……」
「ふふふっ! よいではないか、よいではないか」
これだ。
あの日から、蓮見さんの距離感はさらにおかしくなってしまい………今では教室内ですら、人目を憚らずくっついてくるようになってしまった。
なんでも、『一度捕まえても油断するな、敵の影はどこから出てくるかわからない』
らしい……どうせまた、花七お姉さんが何か言ったんだろう、すいません蓮見さんのお母さん、俺には蓮見さんの矯正は無理そうです……!
だって、こんな風に甘えてくる蓮見さんって可愛いからね、仕方ないね。
「天方くん天方くん」
「はいなんでしょう?」
「私、出来れば子供は男の子と女の子一人ずつがいいです」
「なんの話してるの!? ねぇ今なんの話してたの!?」
子供の数!?
「お母さんが、女の子には日本舞踊を教えるのよって今から楽しみにしてまして」
「あまりにも気が早すぎると思うんですが!」
ダメだ、実は蓮見さんのお母さんも常識がちょっと怪しかった!
待って、俺の周りちょっとアレな人が多くない? 大丈夫? もしかして常識人は俺だけなのでは……?
「ところで、天方くんはいつになったら、『蓮見さん』から『鈴七』に呼び方を変えてくれるのですか?」
「蓮見さんだって、まだ天方くんのままだし」
「では、私が変えたら変えてくれるんですね……日葵くん?」
「……ま、またそのうちね、そのうち」
「ふふ、楽しみにしてます」
俺にとって蓮見さんは、なんだろう……なんていうか、やっぱり蓮見さんなわけで。
いきなり名前を呼んでくれと言われても難しいと言うか……わかるかな? わかってほしい。
「ハル! スズちゃん! アイカーさんがなんか凄い美味しいケーキ屋さん見つけたんだって! みんなで行こうよ!」
「行こうよ、って哀川さんまだバスケ忙しいだろ?」
「ですね、ここからまた練習が大変になるのでは……」
「なんか本戦までにまだ時間あるし、リフレッシュして打ち込むからいいんだってー」
哀川さんがいいって言うならいいけど……ていうか、俺がいてもいいのかな?
明らかに警戒されてたんだけど、俺。
あれ、もしかして俺抜きでって話に俺を巻き込もうとしてる? どうなんだよ心春!
「どうする、蓮見さん?」
「うーん、いいんじゃないですか? いっても」
「やった! じゃあ、アイカーさんと予定詰めてくるねー! 多分今日だけど!」
「今日行くの!?」
早速かよ!
てか今日は、蓮見さんと本屋さんにでも寄ろうかって話をしてたところなんですけど!
「……今日とか言ってるけど、本当に良かったの?」
「いいんじゃないですか? 心春さんも楽しそうですし……それに」
「それに?」
そこで会話を止めると、蓮見さんがそっと顔を寄せてきた。
なんだなんだ、もしやまたキスでもするつもりか!? と、警戒していると、耳元に口を寄せ……。
「日葵くんとは、いつでも二人きりになれますからね?」
そう、囁かれた。
まさかの耳への攻撃に、思わず飛び上がるほど驚いてしまった俺を、誰も責められはしまい。
だめだって耳はほんと……ほんとにだめなんだって!!
非難の目を向けよう……としたところ、目に飛び込んできたのは凄くいい笑顔の蓮見さんなわけで。
その笑顔を見ただけで、もう何も言えなくなるわけで。
全く、蓮見さんには敵わないなぁ……。
「あ、ところで日葵くんは婿入り、ってどう思いますか?」
「だからなんの話それ!?」
これからもきっと、俺は蓮見さんには振り回される毎日が続くんだろう……と思うと……いやまぁ蓮見さんどころか、心春もいるんだけど。
でも、この数ヶ月のような日々がこれからも続くのなら、それもいいかなと思ってしまうんだから、本当に不思議だと思う。
「好きだよ、蓮見さん」
「どうしたんです、突然? あ、もしかして早速浮気したのを誤魔化そうとか……」
「違うし! いやまぁ、なんか言わないといけない気がして……」
「ふふっ、そうですか……私も好きですよ、日葵くん?」
「あ、でも今ここでキスとかはやめてね」
「ここでなければいいんですねわかります」
後は少しずつ、少しずつ、蓮見さんの間違った常識を正していければいいなぁ……。
花七さんの半端ない影響力に立ち向かうのは、きっと辛い戦いになるだろう。
もしかしたら無理かもしれないし、逆に俺が影響されて酷いことになるかもしれない。
それでも、きっとなんとかなる……はず。
「蓮見さん、これから二人で頑張ろう」
「? はい、頑張りましょう?」
これからは、蓮見さんと二人で。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
誤字報告、いつもありがとうございます!
毎回酷い量で本当に申し訳ありません……。
というわけで本作はここまでになります。
隣の席の蓮見さんが隣の席にいる恋人の蓮見さんになったからね、仕方ないね。
ここまでお付き合いいただきまして、ありがとうございましたー。
よろしければ前作
凄くモテる後輩が毎日愛を囁いてくるけど、怖いので俺は絶対に絆されない!
https://ncode.syosetu.com/n6202fp/
も、よろしくお願いいたします!
また、9/13の活動報告にて、蓮見さんの個人的なイメージイラストを掲載いたしました。
今後、読んでいただくに当たり、イメージの参考にしていただければと思います。