隣の席の蓮見さんの様子が……?
「え、えーっと……天方くんは三枝さんが好きで三枝さんは天方くんが好きで天方くんは蓮見さんが……蓮見さん?」
「蓮見さん? 落ち着いて蓮見さん! 蓮見さーん!」
いつも冷静でクールな蓮見さんがものすごい混乱してるんだけど!
なんで!? 今の会話のどこに混乱起こす効果があったの蓮見さん!
しかもこの混乱、全然とけないんですけど! 助けて蓮見さんのお母さん! もしくは花七お姉さん!!
「蓮見さん? 蓮見さんって……え、蓮見さん?」
「そう、蓮見さん! 俺は心春じゃなくて、蓮見さんが好きなの! 好きになっちゃったの!」
「蓮見さんって誰でしたっけ? 鈴七ちゃん? あれ、私……?」
だめだこりゃ。
どうしよう、どうすれば現実に帰ってきてくれるんだろう?
そう思った俺の脳裏に、ふと閃くものがあった。
『ふふっ、でも……そろそろ、次は天方くんからしてくださいね?』
……そうだ、これだ。
混乱する蓮見さんに……というところに引っかかるものがないか、と聞かれればある、大いにある。
俺からするときは、もっとこう、ロマンチックなシチュエーションで、夜景でも見ながら、二人で寄り添って、交わる視線、どちらからともなく近づいて……とかさ! とかさ!!
いや、今も夜景を二人で見ながらだけど、これは違う……違うよ蓮見さん!
とは言え、このまま混乱する蓮見さんをおいてはおけない……ええい!
「蓮見さん、ごめん!」
「えっ……んむっ!?」
混乱する蓮見さんの動きを抑えると、半ば無理矢理に口づけた。
最初は驚いていた蓮見さんも、だんだんと動きがおとなしくなり……。
「ふぐっ!?」
「んー……」
ちょ、ちょっと待って蓮見さん! 蓮見さんちょっと待って!
舌! 舌がちょっと口の中で! 縦横無尽に!
息が続かないです助けてください死んでしまいます……!!
あ、なんか頭がぼーっとしてきた……。
「……ふぅっ、ごちそうさまでした?」
「はぁっ……はぁっ……、な、なんで、疑問形?」
「んー、なんとなく、でしょうか?」
ぺろり、とくちびるを舐める仕草がまた妖艶で……くそぉ、俺からしたのに、何この敗北感。
まぁ、それはそれとして、落ち着きを取り戻したみたいでよかった、のかな?
うう、なんでだろう、ものすごい汚された気分!
「ふふっ、まさか、天方くんからキスしてくれるようになるなんて思いませんでした!」
「うん……俺からしたのはいいけど、そのあといいようにされたけどねってそうじゃなくて!」
「あー、えっと、なんでしたっけ? なんの話してましたっけ、私たち?」
「蓮見さん、大事な事だからよく聞いてね?」
「は、はい」
「俺は、蓮見さんが……蓮見さんが、一人の女の子として、好きだ」
その言葉を聞いた蓮見さんが、ぽかん、と口を開けてこちらを見つめていた。
あー、美人ってのはこんな表情してても可愛いんだなぁ、と遠くで考えている俺と、今度はちゃんと伝わったか!? と心配になっている俺とでいっぱいになる。
どうだろう、さっきは蓮見さんって誰? って言ってたけど、わかってもらえただろうか?
時が止まったように蓮見さんの動きが止まり、二人の間に無言の時間が流れ……。
「え、天方くんが……好き? 私を?」
「うん、俺は蓮見さんが好きだ」
「私のお母さんが好き、ってオチは……」
「ないよ、俺は蓮見鈴七さんが、好きだ」
って、蓮見さんのお母さんが好きってなんですか、ありえませんよ。
み、見た目はものすごい若いし、綺麗な人だなぁと思ったけど、人妻じゃないですか……!
「でも、天方くんはまだ、三枝さんが好きなんじゃ……」
「心春は……実は今日、心春に言ってきたんだ、『俺は蓮見さんが好きだ』って」
それを聞いた蓮見さんが、驚きからか目を大きく見開いた。
よっぽどびっくりしたのか、それとも俺が蓮見さんを好きになってる、なんて気付いてなかったのかな?
今思えば、9月のあの日から、蓮見さんに惹かれ出してたんだと思うんだけど……いや、キスされたから、とかじゃないからね? ほんとだからね!?
「そんな、三枝さんは大丈夫なんですか?」
「わからない……でも、あいつは行ってこい、って背中を押してくれたよ」
わからないわけがない。
心春とは長い付き合いだったんだ、絶対、今頃泣いてる。
あのまま屋上においてくる形になったけど……ちゃんと家には帰っただろうか?
帰り道、危ない目にはあってないだろうか?
正直、心春の事は心配だ。
でもそんな心春が送り出してくれたんだ、ここで頑張らないと、あとで心春に合わせる顔がない。
「蓮見さん、好きです、俺の……俺の恋人になってくださむぐっ!?」
ちょ、ちょっと! 最後まで! 最後まで言わせてくださいよ蓮見さん!
蓮見さんっ~~てまた! また口のなかに~~!!
「むぐぅ~~っ!」
「んーー……はぁっ……はいっ! 不束者ですが、末永く、よろしくお願いいたします!」
「はぁっ、はぁっ……こ、こちらこそ、よろしくお願いします……あと、出来ればもうちょっと、やさしく……」
「ふふっ、つい、喜びを抑え切れませんでした! もう一回してもいいですか?」
「きゅ、休憩! 休憩させむぐぅ~~っ!」
こうして、「隣の席の蓮見さん」は、「隣の席で、恋人の蓮見さん」になった。
ものすごく嬉しいし、やった! って思いは当然あるんだけど……。
今後の生活が、ちょっとだけ不安だなぁ……。




