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隣の席の天方くん



私と天方くんの出会いに、特に特筆すべき様な点は何もありません。

昔どこかで会っていた、ということもありませんし、実は幼馴染だった! なんてこともありません。

もちろん、親同士が昔から仲が良く、実は幼い頃に出会っていた、なんて設定もありません。


高校生になって初めての教室、その中で最初の席で隣に座った男の子、それが天方くんでした。



はっきり言って、最初から天方くんにそんなに興味があったわけではありません。

天方くんはどちらかというと口数が多いわけでもありませんし、他の男子のようにはしゃぐような事もありませんし、余計、印象に残るような事が少なかった……ような気がします。

どこか、ぼーっとした印象があったことだけは覚えています。


そんなぼーっとした天方くんですが、決まって一人の女の子が映るときだけは、違いました。

いつも決まって天方くんが目に映す、その女の子。


三枝 心春さん。


彼女は小さな体でちょこちょこと動き回る、とても可愛らしい女の子でした。

とても明るい性格でクラスのみんなと仲良くしていて、まさに陽キャ代表と言ってもいい、そんな女の子です。

本を読んで静かにしている私とは逆ですね、私はどう考えても陰ですし。

友達……も、まぁいなくはないですが! 三枝さんに比べて少ないだけで!


まぁ、それはいいとして。

隣で話を聞いていると、どうも天方くんと三枝さんは幼馴染らしく、二人が一緒にいるところをよく見かけました。

最初はこの二人、幼馴染兼恋人同士なのかな? と思っていたのですが、どうもそういうわけでもなく。


ただ、天方くんが三枝さんを見る目から、天方くん側が三枝さんの事を幼馴染としてではなく、一人の女の子として好きなんだぁ、というのはすごくよくわかりました。

だって天方くん、ほんとにずーっと三枝さんを見てるんですもん。

しかも、幸せそうに目を細めて笑うんですよ? バレバレですよね。

……正直あの頃、私なんて目に入ってませんでしたよね、天方くん? 隣の席の私の名前、覚えてますか?


そんな三枝さんですが……三枝さんは……あの頃、天方くんのことをどう思ってたんでしょう?

正直、天方くんほどの強い恋慕の感情が見えませんでしたので、三枝さんについてはよくわかりません。

幼馴染以上に思っていたのか、そこまでではなかったのか。

なかなかに興味深い二人です。



そんな面白い二人をいつしか私も目で追うようになり……二人を眺めているうちに、私、こう思うようになっていました。


「三枝さんが、うらやましい」


……と。

天方くんにあんなに一途に想ってもらえていいなぁ……と……。

私も、天方くんにあんな風に好きになってもらえたら……。


そうして気がつくと、私は天方くんと三枝さんではなく、天方くんを目で追うようになっていました。

そうなってくると、それまで気付かなかった天方くんの色んな事に気がつくようになり。

ふふ、天方くん、実はブロッコリーが嫌いなんですよね。すっごい嫌そうな顔で食べているの、結構可愛いんです。

今度知らないフリしてお弁当に入れてみようかな? どんな顔するかな……ふふっ。


でも、今でこそ天方くんと仲良くしていると思いますが、当時の私は天方くんに話しかけるような事は出来ませんでした。

だって天方くん、本当に三枝さん以外に興味なかったんですもん。

天方くんと話すのも、基本的に朝のおはようと、帰りのそれじゃあ、の二言だけ。

天方くんから私に話しかけてくるような事もありませんし、私からも話しかけない。

それが隣の席の天方くん。


私が初めて好きになった……男の子でした。


 *



『鈴七ちゃんは謙虚というか……もうちょっと積極的になってもいいんじゃない?』


なんとなくもやもやしたものを抱えた私は、なんとなく……なんとなく、花七お姉さんと話をしたいと思い、電話をしてみました。

その時の花七さんの言葉がこれです。

謙虚? 謙虚なんでしょうか?


「そうでしょうか……でも、相手の男の子には、好きな女の子がいますし……」

『そこは確かに気になるところかもしれないけどねー』


そうなんです、天方くんは三枝さんが好き、そこは変えられない事実です。

正直、この二人が付き合いだすのも、そう遠くない未来のように見えます。

あ、なんだか哀しくなってきた……。


「それに、天方くんは私に興味は……」

『だめよビビっちゃ! いい鈴七ちゃん、そういう時は一発、キスでもしてやれば』

「む、む、無理です!」


キスって! キスって!!

おはようとばいばいしか言えない関係でキスって!

無理ですありえないです!!


『あはは、鈴七ちゃんにはやっぱり無理かー、私は毎日したのよねー』

「それは花七お姉さんがち……いえなんでもありません」

『ま、本気で好きならそれくらいは出来るもんよ?』


そうなんでしょうか?

でも、天方くんとキス……キスかぁ……魚じゃないキス……。

あ、鼻血出そう。


『なんにしても……鈴七ちゃん、後悔はしないようにね?』

「後悔、ですか?」

『そう、後悔。あの時こうしてればよかった、ああしてればよかった……そんな風に思わないようにね』

「はい、わかりました」

『うふふふふそれにしてもあの鈴七ちゃんにもついに恋の季節到来! 一雪もアレだし面白くなって来たわねー!』

「? 何か面白い事でもあったんですか?」

『今は秘密にしておくわ! お正月にはわかるんじゃないかしら〜』


……何かやらかしたんでしょうか?

まぁ、今聞いても多分花七お姉さんは教えてくれないでしょうし……お正月のお楽しみ、ということにしましょうか。



それよりも後悔、後悔、か……。


「そうですね、確かに今、少しだけ後悔しているかもしれません」


季節は夏。

私が天方くんを見つめ続けて3ヶ月近くが、経ちました。

長期休暇中で天方くんに一度も会えない……というのは寂しいものです。

もっと仲良くなる努力をしていれば、今頃は天方くんと過ごす、違った未来もあったんでしょうか?


「いえ、ないですね……それに今頃、天方くんは、多分三枝さんと一緒でしょうし」


その時ちくり、と胸を刺す痛みが確かにありました。

後悔しないように、か……。



そうして始まった2学期。

久しぶりに天方くんに会える、そう考えるだけで気持ちが沸き立ちます。

まだかな、まだ来ないかな……と思っているうちにギリギリのタイミングで三枝さんが来て……天方くんが来ません。

いつも、一緒に登校していたのに……。


何かあったのかな?

天方くん、どうしたんだろう……と思っても、三枝さんとの付き合いがほとんどない私に聞けるはずもなく。

天方くんに何かあったんだろうか? 事故? でもそれだと、朝に先生から何か説明があっても……!


「よう日葵、始業式からいきなりサボりとかやるなー!」

「うるせー、今日はちょっと体調が悪かったんだよ!」

「という設定ですねわかります」

「設定言うな!」


前の入り口付近から聞こえて来た声に、顔を上げると……天方くんだ。

よかった、何かあって遅れたわけじゃなくて、単に遅刻して来ただけだったんだ。

はぁ、ほっとした……文句の一つも言ってあげたいけど、そんな仲でもないのが悔しい。

どれだけ心配したと思ってるんですか……!


そう思っていると、天方くんが自分の席!つまり私のところに近づいて来ます。

久しぶりに会う天方くんは……あれ、なんだか、元気がない?

それに三枝さんも……こんな状況なら、天方くんの所に飛んで来そうなものなのに来ないなんて、どうしたんだろう?



その時。

ちらりと三枝さんを見た天方くんが、酷く傷ついた顔をしたのがわかりました。

いつもなら三枝さんを見て、優しげに、幸せそうに微笑む天方くんが、です。


……これは、もしかして、もしかするんだろうか?


心臓がバクバクと、音を鳴らします。

緊張で喉はカラカラ、顔もほんのり赤くなってる気がします。

でも、ここで勇気を出さないでどこで出すって言うんですか、蓮見鈴七!


頭の片隅で花七お姉さんがいけいけ、とぐいぐい背中を押してくる絵が浮かんで来ます。

花七お姉さん……力を貸してください! え、キス? キスですか!?

いやぁ、それはちょっと……。

それに、傷ついている天方くんの気持ちにつけ込むような気がして気が引けますし……。



でも、これが私の第一歩。

あとから今日を思い出して、後悔しないように。



「おはよう天方くん、久しぶりだね」


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