幼馴染のハルくん
「はー……やっぱりダメだったかー……まぁ、そうだよねぇ……」
ハルを無理矢理追い出した屋上で、ボクは一人、途方に暮れていた。
わかってた。
ハルが、蓮見さんに惹かれてることくらい……見てればわかる。
それに9月以降、ハルとボクの関係が以前の距離に戻ってる、って。
だってボクとハルは、それこそ幼稚園のころから、ずっと一緒にいたんだから……。
膝を抱え、その場に座り込むと、次々と涙が溢れてきた。
ハルの目の前で泣きださなかった自分を自分で褒めてあげたい。
「っ……ふぅっ……!」
なんで、こうなっちゃったんだろう……。
ううん、わかってる、なんでもなにも、全部ボクが悪いんだって。
ボクが、致命的に間違った選択肢を選んじゃったんだって。
もともと、ボクとハルは家が隣同士だったわけでも、親の仲がよかったわけでもない。
幼稚園で、ハルキとコハル、ハルが一緒だね、ということで仲良くなった、それがスタート地点で、それ以外のつながりなんてなんにもなかった。
でもボクはその頃からハルにべったりで、何をするにも、どこに行くのも後ろをついて回っていたみたいで。
『こはるはおおきくなったら、ハルくんのおよめさんになる!』
なーんて言ってたみたいだから、可愛いもんだよね。
ハルも、まんざらじゃなかったみたいだし……。
そんな二人はそのまま同じ小学校に入学して、やっぱりいつもべったりで、その頃のボクは正直、女の子と遊ぶより、男の子……というより、ハルと遊ぶほうが多かったから。
今でも「ボク」って言っちゃうのは、この時のクセなんだよねぇ……そろそろ直しなさいって言われるんだけど、なかなか。
まぁ、それはいいとして。
結局ボクたち二人はそのまま離れることはなくて、なんとなーくなんだけど、多分このままずーっと一緒にいるんだろうなぁ、と思い出していた。
ハルと一緒にいるのは気分も楽だし楽しいし、気を遣わなくていいし……どこか、姉弟、みたいに思っちゃってたんだと思う。
ずっとこのままの関係が続けばいいなぁ、そう思ってた。
ボクにとって、ハルがどんなに特別な存在なのか……その時のボクは、まったく気づいていなかった。
ハルがボクのことをどう思ってたのかも……まったく気がつかなかった。
「俺、心春が好きだ、幼馴染じゃなくて、俺の彼女になってくれ!」
……ハルが、ボクに告白するまでは。
あの日も、ハルが話がある……なんていうから、どうせ夏休みのことだろうなぁくらいにしか考えてなかった。
なんで屋上なんかに呼び出すんだろう、教室で出来ない話なのかな? なんて何も考えてなかったあの時のボクの頭、誰かぺしって叩いてくれないかな?
よくよく考えなくても、特別な理由があるから呼び出されたんだ、なんてわかるもんなのに……。
そして、屋上でハルに告白されたボクは……ものすごく、怖くなった。
今までの居心地のいい関係が変わってしまう、今までのボクたちじゃいられない、そう考えるだけで……膝が笑っちゃうくらい、怖かった……。
だから、こう返したんだ。
「ボクは、ハルの事をそんな風に見たことない」
って……。
ほんと、なんでこんな事言ったんだろうね?
この時は、なんでこれでハルとの関係は変わらないよね、なんて安堵していたの? 馬鹿なボク。
変わらないわけなんて、ないのに……。
「ハル……ボク……ぐすっ、うっ、うぇぇぇぇぇん!」
ボクはやっぱり、馬鹿だった……馬鹿で馬鹿で、どうしようもなく馬鹿で。
手放してしまった、手放しちゃいけなかった、大事で……特別な男の子を。
あとからそれに気づいても遅かった、やり直せるわけなんて……なかった。
ハルは、幼馴染で……ずっと、ボクの特別で、大事な人、だったのに。
「ハルぅ……う、わあああああぁっ……!」
泣くのは今日だけ。
明日からはまた、前と同じ……ううん、前よりもちょっとだけ遠い、「幼馴染の心春」に戻るから。
見上げると、うっすらと星が見えだしていた。
ボクは星を見上げながら一人、泣き続けた……涙が枯れて、出なくなるまで……。




