表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/54

コアラモード

 


「はー! これで全教科テスト終わりだぁ……」


 つ、疲れた……今回は過去にないほどに疲れた!


 ぐーっと背筋を伸ばすと、ぱきぱき、と骨が鳴る音が聞こえる。

 この解放感は何とも言えないものがあるな!


「ふふ、お疲れ様です天方くん、三枝さん……は、だめみたいですね」

「まぁ、なんとなく予想はついたし」


 目線を前に向けると、机に突っ伏して半ば魂を飛ばしている心春がいた。

 テストの後にこうなるのはいつものことなので、よくある光景ともいえる。

 ただ今回は、事前に詰め込み授業を行っていたので、余計に疲れているんじゃないかな? 頭のてっぺんから煙吹いてるもん、心春。



「おーい心春、大丈夫か? 生きてるか?」

「だいじょばない……ボクもう無理かも……」

「そうか、今日はもう帰るか?」

「どうしよっかなぁ……せっかくテスト終わったのに、このまま帰るのももったいない気もする……」


 うーん、と悩みだした心春はまぁ置いておきまして。


「蓮見さんはこの後って予定とかあるの?」

「いえ、特にはないですね……あとは帰ってテスト内容の見直しと、不安箇所のチェックくらいでしょうか」

「テスト終わったところなのにもう勉強とかマジメか!」

「勉強は学生の本分ですから」


 えへん、と胸を張る蓮見さんがまぶしい!

 これが……学生のあるべき姿だとでも言うのか!

 あ、でも胸を張るのはやめてください、何でとは言いませんけどマジで。

 凄いんで。


「まぁそれはそうと、天方くんは何か予定、あるんですか?」

「俺はなんもないよ、いつもならこの後はテストお疲れーってお疲れ会やるんだけど」

「ああ、三枝さんがこれなんで、どうなるかわからないってところですね」

「そうなんだよねぇ……おーい心春、そろそろどうだ? 動けるか?」

「…………」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ。


「だめだこりゃ。ごめん蓮見さん、心春が回復するまで、ちょっと様子見るよ」

「わかりました、じゃあ私も付き合いますね」

「いいの? せっかくテスト終わったところなのに」

「ふふっ、いいんですよ、それじゃあ、テストの見直しをしましょうか?」

「ぐえぇ……」

「あ、そうそう、そういえばお母さんが『お話がありますから、今度また天方さんをお誘いしなさい』って言ってましたよ?」

「何それ、死刑宣告かな?」


 絶対行きたくないすぎるんですけど。

 なんだよお話って、絶対そんなにいい話じゃないでしょ、今からもう怖すぎるわ。

 あ、俺の頭の上に、死へのカウントダウンがついた気がする。

 はー、死者蘇生持ってる仲間、いたかなぁ……。


 そうして2人で心春の再起動を待つ事、およそ20分。

 ようやく動けるほどに体力を回復させたのか、キョロキョロ、と周囲を見渡し……俺の姿を見つけると、もそもそと動き出し。


「ハルー、もうボク、我慢できないよぉ……」


 そう言って、俺にぎゅう、っとしがみついてきた。

 はー、始まったか……。


「な、な、何を……学校の教室で! 何をしてるんですか三枝さん!?」

「蓮見さんがそれ言っても、なんの説得力もないからな!?」

「それはそれ! これはこれです!」


 蓮見さんめ、随分と都合のいい事を……!

 膝の上に横座りになり、しがみついてくる心春の背中をぽんぽんと叩きながら、溜息を零す。


 心春は、昔からこうなのだ。


 小さい頃はそれこそ、毎日のようにべったりとくっついていた。

 それでも大きくなるにつれ毎日べったり、なんてことはなくなっていき……。

 今では心身ともに限界まで追い込んで追い込んで追い込んで……最後の最後まで追い込むと、甘えたモード……俺や心春のおばさん命名、通称「コアラモード」へと入ってしまうようになった。

 つまり今は、本当に限界なんだろう。


 前回これになったのは……高校受験が終わった直後だったから、半年以上前だな。


 それでも、これまで学校ではならなかったんだけど、今回はよっぽど疲れたらしい。


「大丈夫か心春、疲れた? 牛乳飲むか?」

「飲む……」

「ぐぬぬ……なんですかそのうらやまけしからん……っ!」

「ごめん蓮見さん、心春がこうなったら多分、あと1時間は動かない……ほら心春、帰ってからにしよ? な?」


 ほら、と膝から降りるように促すと、いやいやと首を振った。

 やめろ、顔を制服に押し付けたままそれやると皺になるから!


「天方くん、私も甘えたモードを発動してもいいでしょうか?」

「この状況でそれやられると収集つかなくなるからやめてもらえます?」


 そもそもあなた、そんなものありませんよね?


「ハルー……頭撫でてほしい……」

「はいはい」

「わ、私も! 私も頭撫でてほしいです天方くん!」

「ステイ! 蓮見さんステイ!! あと近いです!!」


 テスト後で誰もいないとはいえ、放課後の教室だ、誰が来るかわかったもんじゃない!

 心春を膝に抱いて、蓮見さんが右腕にしがみついて……こんなところ、誰かに見られたらもうハーレムだの二股だの言われても言い訳出来ないよな……はは……。



「はー、あたしとした事が、まさかバッシュを忘れるとは……あ」

「あ」


 そんな時に限って、誰かに見つかるのはなんなんでしょうね?

 しかも、勢いよく教室の扉を開いたのがなぜあなたなんですか哀川さん……ポニーテールが似合ってますね哀川さん……!


「あ、哀川さん、落ち着いてくれ! こ、これは違う、違うんだ!」

「……不純異性交遊……」


 そうぼそっと言い残し、哀川さんはそっと扉を閉めた……。


「あ、哀川さーーーーん!?」

「天方くん、それよりも私も頭を……」

「ハル、手が止まってる」

「君らちょっと黙ってくれない!?」


 もうやだ……おうちかえる……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 間違ってたらごめんなさい、オナ地さん?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ