中間テスト前夜
明日から、ついに中間テストだ。
蓮見さんに教えてもらったおかげで、俺の準備は万全!
今回のテストは今までにないほどにいい結果を納められそうだ……。
さて! 今日は早く寝て明日に備えないとな!
いやーテスト前日に早く寝れるなんて、事前に頑張るって大事なんだなー!
「そう思っていた時期が、俺にもありました」
「ん? なんか言った、ハル?」
「いや、なんでもない……」
どうして前日の、しかも夜の23時過ぎに心春が我が家にいるのか、これがわからない。
いや、わかってるんだよ? 勉強教えてくれって押しかけてきたんだもん。
それはわかってるんだけど!
「なー心春、そろそろ帰らないとおばさん、心配するんじゃね?」
「んー、大丈夫、おかーさんには今日、ハルんとこ泊るって言ってきたから」
「はぁ!? 聞いてないんだけど!?」
「おばさんには言ったよ? さっき」
さっきかよ。
さっきじゃ仕方ないな、俺が知らなくても……ってそうじゃない。
「なー心春、俺もう寝ようと思ってたんだけど」
「ははは何を言ってるのかわっかんないなー! 夜はこれからだよ★」
「明日テストなの、わかってる?」
「わかってるから来たんだよぉ……」
そう言って涙目になる心春の目の前には、物理の教科書とノート。
まぁ、要するにだ。
こいつはわからないから教えろこのやろー! と押しかけてきたわけで!!
ああ、貴重な睡眠時間が削られていく……。
「そもそも俺、理数は得意じゃないんだってば……」
「それはわかってるけど、今はハル以外に頼れる人がいないのです……!」
「蓮見さんに教えてもらえばよかったのに」
「数学だけで精いっぱいで……へへへ……」
へへへじゃないよ。
「このままだと、マジで補習に引っかんの! ハルだけが頼りなんだよぉー!」
「って言われても……ほんと、そんなに教えられないぞ俺だと」
「いいよいいよそれでも! 一人で教科書の前で固まってるより全然いい!」
「貸し、一つだからな?」
「駅前の回転焼きでいい?」
「2個な、あとあれは大判焼きだから」
まったく、黄金焼きだの今川焼だの……そもそも今川ってなんだよ今川って。
今川義元となんか関係があるのか? 桶狭間で食ってたとか。
いやまぁ、それはいいとして。
「今回もまた、そこに座るのね心春さん」
「座っちゃうんですよ日葵さん」
前回に引き続き、今回も心春が座るのは俺の膝の上である。
「そこに座られると、心春で教科書が見えないんだけど?」
「それは致し方ない犠牲、コラテラルダメージってやつだね」
「勉強しに来たのに、それを犠牲にしちゃダメだと思うなぁ」
「大丈夫、教科書がなくても勉強はできるよ!」
「……お前、最初から勉強する気なんてなかったな?」
なんやかんやといいながら膝の上からどこうとしない心春にじとっとした目を向けると、露骨に目をそらしやがった……こいつ……!
そうとわかれば心春の自由にさせておく必要はない。
膝の上からぺいっと放り投げると、何も言わずにベッドの中へと潜り込んだ。
「あー! ちょっと、何寝ようとしてるんだよー!」
「勉強する気のない子のことは知りません!」
「冗談! じょーだんですからー!」
知らん。
心春に背を向け、寝る体勢に入る。
ねーねー、とゆさゆさと肩を揺さぶられるが俺はもう絶対に起きない! 寝るったら寝るのだ、おやすみなさい!!
「ねーハルー、本気で寝るのー?」
「…………」
「ふーん、そういうつもりなんだ、じゃあボクにも考えがあるし?」
そういうと、心春の気配がすっと離れた。
ようやく諦めてくれたか……なんならそのまま帰ってくれないかなぁ、補習は可哀想だけどまぁ頑張れ、応援してるぞ心春……出来れば、枕元の教科書は持って帰って欲しかったな、邪魔だから。
などと考えながら改めて寝る体勢を整えると、足元がごそごそと……あ、まさかこいつ!
「お、おい心春! おま、何やってんだよ……!」
「えー、何って……見たまんま添い寝?」
「添い寝? じゃねーよ!」
「まーまー、昔はよくこうやって寝たじゃん、ボクら!」
「そうだな、幼稚園とか、小学校低学年のころな!」
少なくとも心春を異性として意識しだしてからは一回もない。
それをお前……こんな……しかも夜中に!
「はー、最近夜は急に寒くなったけど……こうやってると、あったかいねぇ」
「暑苦しいから離れろ、離れてくださいお願いします」
「にしし、やでーす、離れて欲しかったら物理教えろー♩」
「あ、おいお前……!」
心春の手が背中に回り、全身で密着してくる。
小さい子ってあれですね、なんでこんなにポカポカ暖かいんでしょうね?
それはそうと、何がとは言わないけど、蓮見さんと本当に同い年ですかあなた。
何がとは言わないけど。
「あーヤバい、なんか眠くなって来たかも……」
「ほんと、何しに来たんだよお前……」
このまま寝たら、ただ泊まりにきただけじゃん。
「へへ、いやー予想外に布団の中が気持ちよくて……ね、このまま寝ちゃおっか?」
「あほか、寝かせねーよ」
「え、それは『今夜は寝かせないぜ』っていうよく聞くえっちなあれ?」
「違うわこのおばか! ほら、起きろ起きろ!」
「えー、もう眠いよボク……」
「お前ほんと何しにきたの!?」
寝るなら帰れよ……!
その後、渋る心春を無理矢理起こして、眠気まなこな中、無理矢理物理の知識を詰め込ませたが……。
しっかり心春の中に知識が根付いたのかは、また別の話である。
「どうしようハル、全くわかんなかったんだけど」
「知らん」




