誠実・不誠実
「なぁ天方、最近蓮見と三枝とはどうなの?」
休み時間。
蓮見さんと心春から逃げるようにお手洗いへと出向いた俺に、柾人が急に問いかけてきた。
「どうなの、ってなんだよ柾人」
「とぼけんなよ! 片やクールな美少女として熱心なファンの多い蓮見、片や陽キャロリとして実はその層から大人気な三枝、二人に言い寄られてる二股男は、結局どっちを取るんだって聞いてるんだよ!」
「心春のことをロリっていうのはやめたってくれんか……あいつ、あれでも同い年なんだぞ……」
まぁ、確かに小学校から身長も伸びてない気がするけど……。
ていうかその層ってなんだその層って、変な層を作るな。
あと、蓮見さんのどこがクールだ、もうクールの欠片もないわ、最近じゃちょっと残念美人感漂ってるわ。
この前なんて、蓮見さんのお母さんにしこたま怒られて、半泣きになってたぞ、あの人。
そんな蓮見さんと蓮見さんのお母さんの三人で囲む食卓は、なんていうか非常に気まずかったです……。
「どうなのって言われるとそうだな……心春とは、夏休み前くらいの関係に戻れた、と思う」
「ふーん、結局進展なしってことかそれ、蓮見のほうはどうなの?」
「蓮見さんか……蓮見さんなぁ……」
正直、蓮見さんは知れば知るほどよくわからない、としか言いようがない。
というか、花七お姉さんの影響がすごすぎて、どこからどこまでを信用してもいいものかよくわからないといいますか!
いや、俺の事を好きだっていってくれるのは凄い嬉しいし、知れば知るほど、ほんとに可愛い人だなあって思うんだけどね?
静かに読書を楽しむクールな蓮見さんも
動物園ではしゃぐ蓮見さんも
お母さんに怒られて半泣きになる蓮見さんも
ふいに照れが来て顔を真っ赤に染める蓮見さんも
どの表情も、凄く可愛くて、正直に言って、どの蓮見さんも凄く魅力的だと思っているのは事実だ。
まぁその、急にえっちぃ蓮見さんになるのは、本気で勘弁してほしいけど……。
かといって、じゃあ蓮見さんが好きなの? って聞かれると、どうなんだろう。
そう自問自答すると、やっぱり俺の頭の中には心春の顔が浮かんでくるわけで。
「で、結局お前はどっちが本命なわけ、三枝? それとも蓮見?」
「どっちがって言われても……どっちなんだろ?」
「お前やっぱ最低な二股男だな……」
「ちっ、違うんだって! ほんと、どうすればいいかわかんないんだよ!」
「最近では、斜め前の女バスエースの哀川さんまでハーレムに取り込もうと狙ってると噂ですが」
「事実無根過ぎる……!」
誰だよ、そんな根も葉もないうわさ流してるの!
こっちは蓮見さんと心春の相手するので精いっぱいで、他に手を伸ばしてる余裕なんてないよ、いっぱいいっぱいだよ!
「わかってるわかってる、流石にアイカーさんまではないよな! ……信じていいんだよな、日葵……?」
「柾人お前、俺の事まったく信じてないだろ」
「ははっ、いつまでも優柔不断なことしてるお前が悪いんだよ! さっさとなんとかしないと、池下と松木に刺されかねないぞ!」
「わーかってるよ」
いつまでもこのまんまでいいわけないなんて、俺が一番わかってるっつーの!
あと、日に日に池下くんと松木くんからの『あいつ爆発すればいいのに』という感情が強まってるのも知ってるから!
そんな話をしながら教室へ帰ると、蓮見さんと心春の二人がまた、何やら言い争っていた。
この9月からよく見るようになったいつもの光景である……そしてそれを仲裁する俺、というのも今やお約束である。
はぁ……ほんと、なんとかしなきゃなぁ……。
「蓮見さん、心春、今度は何でケンカしてんの?」
「あ、ハル! 聞いてよ、酷いんだよ蓮見さん!」
「酷くありませんよ、このままいくと冬休みは補習だらけで、天方くんの時間は全部私のものですね、って言っただけです」
「ま、まだ中間だし! 冬休みまでに、ボクの学力まだまだ上がるし!!」
「「それはない」」
「ハル!? 蓮見さんと声揃えて言うことないじゃん!?」
もー! と怒る心春を、蓮見さんと二人でなんとか宥め、今後の教育方針を……うん、なんか心春が子供みたいになってんなこれ。
「まずは週明けの中間テストですよ三枝さん、とにかく赤点回避です」
「わかってるって! 今のボクならやれるはず! 多分! できるんじゃないかな?」
「目標値が低すぎて泣ける」
「まぁ、9月の時点だと赤点回避も怪しかったですし、成長したほうかと……」
二人揃って思わずため息をついてしまうが、そんな俺たちに気づかず、心春はテストが終わった後の事を楽しげに語りだすが、お前にそんな先の話は早い!
「見えます……今からテスト後を考えるあまり勉強がおろそかになって、補習だらけになる三枝さんが……」
「うー! 絶対! 絶対補習なんて受けないんだから!」
「はいはい、期待しないでおきますから、この問題解いてくださいね」
そう言いながらも、蓮見さんが心春を見る目は凄くやさしい。
なんていうか、面倒見いいんだよな、蓮見さんって……一応心春って、恋敵? になるのに。
「? なんですか、天方くん?」
「んーん、なんでもないよ」
「そうですか?」
きょとんとこちらを見る蓮見さんになんでもないよと手を振ると、また心春の勉強へと戻って行った。
蓮見さんと心春、どちらかしか選べないのはわかるし、いつまでもこんな関係を続けるなんて、二人に対して不誠実だし、絶対に無理なんてのは俺が一番よくわかってる。
でももうちょっとだけ、この三人でいる時間を、大事にしたいなぁ……。




