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はすみさんは にげだした!

 

「蓮見さん? なんかちょっと目つきヤバいんだけど、大丈夫?」

「……いいですか、天方くん、大事なことなので、もう一度いいましょう」

「は、はい」


 蓮見さんのあまりのプレッシャーに、思わず正座をしてしまう。


「年頃の男女が同じ部屋にいて……何も起きないわけがないんです! はい復唱!」

「えっ、複勝!?」

「違います! 繰り返してください、はい! 年頃の男女が同じ部屋にいて、何も起きないわけがありません!」

「と、年頃の男女が同じ部屋にいて、何も起きないわけがありません?」


 ……はて、俺は一体何を言わされているんだろう?

 いや、さっきもごもごと言っていたのは知ってるけど、俺にも言わせて何をしたいのか? これがわからない。

 実際、この時間まで二人でいたけど何もなかったじゃないか。

 いやね、胸元がっつり開けてる女教師蓮見さんには、めっちゃドキドキしましたけどね!?


「――――はい、よろしい。 つまり今、この場で! 何が起こってもおかしくはないわけです」

「ものすげー暴論来たな今!?」

「以前、私は言いました……次は天方くんからキスをしてほしい、と」

「あー、うん、そうだね」


 そうそう、動物園デートの時だよね。

 もうあれから1か月近くたってるんだよね、時間が経つのは早いなぁ。

 楽しかったよね動物園、カピパラで大興奮してる蓮見さんは、今思い出しても笑っちゃうくらい可愛かったと思うよ、うん。


「あれからもうすぐ1カ月……いまだにキスしてくれないって、どういうことですか?」

「いやー……はは、まぁ、無理だよね、うん!」


 自分からとかほんと無理! 勘弁してくださいって話だよ!

 だいたい今、蓮見さんのことも、心春のことも、どう思ってるのか自分でもよくわからないのに。

 そんな状態で蓮見さんにキス? はは、無理無理。

 それこそマジで二股男って言われても文句言えなくなっちゃうよ!

 いや、二股男ではないんです、本当なんです信じてください!


「はぁ……いえ、どうせ天方くんのことですから、自分からはしてくれないだろうなーとは思っていました」

「さすが蓮見さん、俺のことをよくわかってくれてるね!」

「はい、天方くんって、基本的にヘタレですよね!」

「ぐうっ!」

「こっちからしてもいいですよーって言ってるのにしないなんて……今だって、天方くんが好きそうな女教師風な格好してるのに!」

「いつから俺が女教師好きになったのか」


 なんかそういう意図が見え隠れしていたのは認めますけども、そんな程度で俺の鋼鉄の意志が揺らぎますかってことですよ。

 その程度じゃ俺は絶対に絆されない!


「そんなことを言いつつ、三枝さんには色々してるとか……ないですよね?」

「ないない、そんなことする勇気があるなら、もっと早くに告白してフラれてたんじゃない?」

「……私の目を見て言えますか?」

「余裕余裕、この前なんて一日モンスレやって終わったしね」


 ふふん、そんなじーっと見ても、俺にやましいことは一つもないからね。

 誓って言える、9月からここまで、心春とそんな空気には一度もならなかった、って!

 なんなら廊下でいきなりキスされて以降、心春とはそういった空気が全くないとまで言える。


 ……なんか悲しくなってきた、あいつほんとに俺のこと好きなの!?


「わかりました、天方くんを信じます……よく考えれば、天方くんがそんなことできるはず、ありませんしね」

「……ほんと、よくおわかりで……」


 悲しい。

 それはそうと……。


「ねぇ蓮見さん、なんでちょっとずつこっちに寄ってきてるのかな?」

「え、なんでって、いつもの定位置に行こうとしてるだけですが?」

「た、確かに蓮見さんといえば、俺の右隣だけど! さっきもそうだったけど、ちょっと距離近くない!?」

「あー、すいません、私の部屋狭いので、これくらいくっつくことになっちゃうんですよー」

「正面に座ればいいんじゃないかな!?」


 しかも全然狭くないし!

 何畳くらいあるのか知らないけど、明らかに俺の部屋より広いんですよね、蓮見さんの部屋。

 これで狭いとか言われたら、俺の部屋なんてマジでウサギ小屋ですよウサギ小屋、うちのウサギ小屋より確実にふたまわりは大きいですからね!


 そうこう言ってるうちについに蓮見さんがぴったりと俺の右腕にくっつき、肩に頭を預けてきた。

 いっつも思うけど、ほんと蓮見さんっていい匂いがするんですよ、シャンプーの匂いなのかなぁ?

 女の子って、ほんと不思議。

 じゃなくて!



「蓮見さん、あの……」

「今日一日、天方くんにたくさん勉強、教えてあげましたよね?」

「はい、ものすごくお世話になりました、ありがとうございます」

「なら、これくらいのご褒美、いいと思いませんか?」


 よくありません。

 なんて言えるはずないと思うんです、でもとりあえず、俺の右腕を離してほしい、なんか異様に柔らかいんで、ほんと、すごいんで。


「すいません蓮見さん、頭を肩に乗せるのはいいんで、腕だけでも離して」

「ちなみに今日は私、つけてません」

「……何を?」

「ふふ、なんだと思います?」


 ねぇ、何を!?

 ちょっと待って、蓮見さんマジで暴走しすぎじゃない?

 あれ、大丈夫? 俺、今日きれいな体で帰れる?


「天方くん天方くん」

「は、はいっ! なんでしょう蓮見さん!?」

「あんまり緊張しなくてもいいんですよ、リラックス、リラックスして……」


 どんどん近づいてくる、蓮見さんの端正なお顔。

 右腕はしっかりつかまれ、力づくでない限り、逃げだすのはもう難しい状況で。

 すいません、蓮見さんのお母さん……俺には蓮見さんを止めることはできませんでした……!


 あと、5センチ……4センチ……3……。


 もう駄目だ! と思った時だった。

 唐突に蓮見さんの部屋の扉が開かれ、そこから――――


「鈴七、そろそろ夕飯の時間ですよ」

「「…………」」


 はすみさんの おかあさんが あらわれた!

 こまんど?


「鈴七、ちょっとこっちへ来なさい」

「お、お母さん! ちがっ、違うんです! これは違うんです~~!」

「問答無用です! まったく! あなたは花七の悪いところばっかり真似してっ!!」

「た、助けてっ! 助けてください天方くんーー!!」


 そのまま襟首を掴まれ、ずるずると引っ張っていかれる蓮見さんを茫然と見つめる俺……ってヤバかった! 今のは本気で危なかった!

 蓮見さんのお母さんのインターセプトがなかったら、絶対行きつくところまで行く流れだっただろ今……蓮見さんガチだったし!


 遠くから聞こえてくる、蓮見さんの『違うんですー!』という叫びと、お母さんの『何が違うんですか、破廉恥な格好をして!』というお怒りの言葉を聞きながら、思った。


 俺は二度と……二度と! 蓮見家には来ないぞ、と……!!

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