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蓮見先生のドキドキ個人授業

 

「んー……天方くん、ここ、間違えてますよ?」

「え、どこ?」

「ふふ、ほらここです、この途中の計算で……」

「あ、ほんとだ……」

「天方くん、ちょっと注意力が散漫になってますけど、どうしました? 何か他に、気になることでもあるんですか?」


 いつものように右隣に座った蓮見さんが、くすくすと笑いながら俺に問いかけてくる。

 さらさらの髪を耳にかける仕草が妙に色っぽくて、視線が蓮見さんに吸い寄せられてしまい……ええそうですよ! 注意力散漫なのは蓮見さんのせいですが、何か!


 だってね、すっごい近いんですよ蓮見さん、そんな近くで勉強する必要ありますかってくらい近いんです。

 もう肩と肩がくっつきそうな距離から俺のノートを覗き込まれたらもうね、そりゃもうね! 俺も健全な男子高校生なんで、ドキドキするなって方が無理なんですよ……。

 すいません蓮見さんのお母さん、俺にはやっぱり、この人を更正させるのは無理かもしれません……っ!



「うーん、天方くんは、基本的な公式の使い方とかはちゃんと理解できてるんですけど、ケアレスミスが多いですね?」

「そうですね、今日は特に酷いデスネ……」


 蓮見さんのせいでね!


「本当にちょっとしたことなんですけど、途中の簡単な計算も暗算ですまさないようにするとか、どこでミスしたか意識して記録をつけるとか……」

「うんうん」

「そういうところから習慣づけて、ケアレスミスをなくしていきましょうね?」


 習慣づけて気がついたら、公式みると蓮見先生を思い出すようになるんですねわかります。

 ダメだ、試験中にケアレスミス連発する自信があるよ、俺!

 それくらい……それくらい!

 女教師コスプレの蓮見さんは魅力的なんだよ……!



「? どうしました、じーっと私を見て……あ、キスしたくなっちゃいました?」

「違うそうじゃない」

「ふふふっ、いけない生徒さんですねぇ、先生にそんなことしたくなるなんて!」

「もうだめだ蓮見さんのお母さん呼ばなきゃ……!」

「すいません調子に乗りましたお願いですから呼ばないで下さい」


 素直にぺこりと頭を下げる蓮見さん……てかどんだけお母さん怖いの!?


「正直、今の格好もお母さんにバレたらまずいなと思ってます」

「そんなに」

「でも……天方くんを誘惑する女教師、という甘美な響きには抗えず……!」

「いやそこは抗っておこうよ! なんで抗わずに負けちゃったの!?」


 そこはもう普通の勉強会でいいじゃん! テストも近いんだよ!?


 まぁでも、蓮見先生のおかげで、大分数学もマシになってきてるんだけどさ。

 理数の理のほうも結構厳しいけど、こっちまではなかなか手が回らないよね。

 中間以降、じっくり勉強すればまぁ問題ないとは思うんだけど。



「それにしても、結構頑張りましたねぇ……そろそろ一旦、休憩しましょうか?」

「そうだねぇ……あー、気付いてなかったけど結構時間経ってる……」


 骨をぽきぽきと鳴らしながら、ぐーっと伸びをすると、隣で蓮見さんも同じようにぐーっと伸びをした。

 伸びをした時に裾が上がり、チラッと見えるおへそから、なんとか目をそらす。

 はぁ、ほんと目に毒……。


「? どうかしましたか?」

「いえ、ナンデモナイデス」


 可愛いおへそが見えてますよ、なんて言ったらまた暴走しそうだもんね蓮見さんは。

 そのままお互い何も言わず、遠くから聞こえる三味線っぽい音をBGMに、静かな時間が……三味線?


「なんか、三味線? の音が聞こえるんだけど……珍しいね」

「ああ、今お弟子さんが来て、お稽古してる時間ですからね」


 へぇ、お稽古。

 ということは、蓮見さんのお母さんは三味線を弾くんだろうか?

 珍しいなぁ。


「うちのお母さん、日舞の先生してるんです」

「そうなんだ! あ、じゃあ蓮見さんもやってるの?」


 蓮見さんが綺麗な衣装を着て舞っているのは、凄く綺麗なんだろうなぁ。

 うん、一回、見てみたいかも。


「あー、ダメです、私はもう全然ダメダメで」

「やってはいたんだ?」

「うちはお婆ちゃんも日舞の先生やってましたから、やっぱり小さい頃に……」


 小さい蓮見さん!

 何それめっちゃ見てみたいんだけど!

 アルバムとか見たいなぁ、見せてって言ったら見せてくれるかなぁ。


「……アルバムは見せませんよ? 恥ずかしいですし……」

「なぜわかった」

「天方くんの事ですから」


 あれっ、蓮見さんに心春絡み以外で心を読まれたのは初めてじゃない?

 それとも、そんなにわかりやすい顔をしていたんだろうか?

 顔をぺたぺたと触ってみるも、自分では全くわからない。


「それで、小学校の5年生までは私もやってたんですけど、お婆ちゃんに鈴七はあんまり向いてないね、って言われてー」

「それでやめちゃったんだ?」

「ええ、自分でも向いてないのはわかってたので」

「そっかー……でも残念だなぁ、舞ってる蓮見さん見てみたかったのに……」

「ふふっ、お母さんが舞ってるのを見て我慢してください、よく似てるって言われますし」

「いや、やめておくよ」

「? どうしてですか?」

「よく似てるって言っても、やっぱりそれは蓮見鈴七さんではないしね」


 確かに、蓮見さんとお母さんはそっくりだし、きっと蓮見さんのお母さんを見れば蓮見さんが舞ってるように見えるのかもしれない。

 でも、俺が見たいと思ったのは蓮見千華さんじゃなく、蓮見鈴七さんが舞ってる所だからね。

 そこはハッキリとさせておかないと。


「そんなこと言われたの、初めてかもしれません……」

「そうなんだ? あ、でも一回、お稽古ってどんなのか見てみたいかも」

「……ふふっ! そうですね、今度見学出来るように、お母さんにも言っておきますね!」


 そう言って浮かべた蓮見さんの笑顔は、これまでにないくらいに嬉しそうな笑顔で。

 会うたびに違う表情を見せてくれる蓮見さんに、胸の高鳴りを押さえる事が難しくなっている自分に、かつてないほどの戸惑いを覚えた……。


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