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蓮見家の事情

 

 自分は蓮見さんの母だ、と紹介するお姉さん? に思わずぽかーん、としてしまう。

 え、マジでいってんの? まじかる?

 どっからどう見ても一児の母には見えないんですけど!?


「騙されてはいけませんよ天方くん! よーく見てください……ほら、目元に小じわが……」

「鈴七」

「ひゃいっ!?」


 蓮見さんのお母さんの目がすっと細められ……こちらにまで冷気が漂ってくる。

 やっぱ怖い! 怖いってこの人!?

 さっきまで妹じゃない、娘さんの事を心配する、実は凄いいい人じゃん! って思ってたけど印象訂正します、怖いです、蓮見さんのお母さん!


「鈴七、いつまでお客様を玄関に立たせたままにしておくのです?」

「あっ!? ご、ごめんなさい……天方君、どうぞ……」

「あ、はい、ありがとう蓮見さん、お邪魔します」


 蓮見さんに差し出されたスリッパを履き、靴を揃える。

 お母さんがうんうん、と頷いてるんだけど、何を見て頷いてるの、それ?

 蓮見さんのお母さんに、母さんから持っていくようにと言われた手土産を渡すと、さらにうんうん、と頷く。

 だから何に頷いてるの、それ!?


「天方くん、こっちです、こっち」

「あっ!? 蓮見さんちょっと!」

「お母さん、私たち、部屋で勉強してますから……覗かないでくださいね!?」

「……年齢相応の節度あるお付き合いをする分には、何も言いませんよ」


 そういいながら、はぁー、と深い深い溜息をつく蓮見さんのお母さん……え、何その溜息?

 自分が若い頃に何かあったんですか?

 とは流石に聞けず、そのままずるずると蓮見さんの部屋へと引きずられていく俺。

 なんか、引きずられてばっかだな、自分……!



 そうして引っ張り込まれたのは、蓮見さんの部屋……だろうか?

 心春の部屋のように女の子女の子していないすっきりした内装が、いかにも蓮見さんって感じだ。

 本棚に並ぶ「隣の席の男子の落し方」等々の本がまさに蓮見さんで……すげぇなこの会社、このシリーズこんなにいっぱい出してるんだ。


「なんだかすいません、お母さんがあんなので……」

「いやいや、俺めっちゃ覚悟してきたんだけど、思ってたより普通のお母さんでびっくりしたよ」


 怖かったけど。

 怖かったけど!!


「それにしても、さっきものすっごい溜息ついてたけど、あれはなんだったの?」

「あれは……うん、まぁお母さんにも昔、色々あったみたいで」


 蓮見さんのお母さんの昔、かぁ。

 若いころがまんま蓮見さんだったんなら、それはモテたんだろうなぁ。

 その頃に何かあったんだろうか?


「どうも、高校一年生……私たちと同じ年ですね」

「うん」

「高校一年生になったばかりの花七お姉さんが」

「またお前か!!」


 何かあるたびに出てくる花七お姉さん。

 ここでも我々の前に立ちふさがるのか……花七お姉さん……!

 てかどんだけ影響力あるんだ花七お姉さん!

 ここまでくると、逆に一度会って見たいまである。


「花七お姉さんが、私たちと同じ年の頃に、進学と同時に家を出まして」

「へぇ、高校生で一人暮らしとかいいなぁ、俺も一回してみたいよ」

「いえ、一人暮らしではなく、当時好きだった、隣の藤代さんのお家の、当時大学1年生のお兄さんの一人暮らしの部屋に押しかけまして」

「押しかけ!?」

「そのままなし崩し的に同棲を始めて、一気に結婚まで突っ走ったという逸話が」

「花七お姉さんマジ半端ないっスね!?」


 想像してたよりも斜め上で若干引くわ。

 というか行動力が凄い、そりゃそんな人に影響されたら、蓮見さんもこうなるし蓮見さんのお母さんも心配になるわ。


「どうもその時、お母さんも色々と苦労したみたいで、私が当時の花七お姉さんと同じ高校生になったのもあって、ちょっと敏感に……」

「俺、それは高校生になったからってだけじゃないと思うなぁ」


 だって最近の蓮見さん、花七お姉さんを彷彿とさせる動きしてるんだもん。

 多分、当時のトラウマか何かを刺激されてるんだよそれ。

 ……そう考えると、動物園行った帰りにあれだけ遅くなったのは、相当心配かけたんだろうなぁと想像が容易に出来てしまう。



「そうですよ鈴七、まったく……花七といい貴女といい、私に心配ばかりかけるのですから」

「お、お母さん!? の、ノックくらいしてから入ってくださいよ!」

「なんですか、私に見られては困るようなものでもあるのですか? それとも、不純異性交遊でもしているのですか?」

「ないですし、そんなこともしてません! もーお母さん!!」


 ……うわぁ、珍しいものみちゃった。

 いつもおすまし顔の蓮見さんが、こんなに焦った顔をするなんて。

 年相応って感じで、こんな蓮見さんもいいなぁ。


「天方くんも! なんですかその顔!」

「貴女のその態度で、天方さんも呆れているのです、お茶でも飲んで少し落ち着きなさい」

「ん……はぁい……」


 そういうと、手に持っていたお盆から、お茶を蓮見さんに手渡す蓮見さんのお母さん。

 うん、なんだか蓮見さん蓮見さんで蓮見さんでいっぱいになってきたな……。


「本当に、花七の悪いところばかり似るんだから……一雪くんと貴女、本当は逆なんじゃないかしら?」

「ふんだ、一雪の方がおかしいのよ、なんで八一さんと花七さんの子供があんな偏屈になるんだか」


 ん? かずゆき……って誰だろう?

 話の流れ的に多分、花七お姉さんの息子さんなんだろうけど。

 けどなんだろう、名前から漂うそこはかとなき同類の匂い。

 きっと彼は苦労人、間違いない……!


「天方さん」

「あ、はい、なんでしょう?」

「このような至らない娘ですが、よければ今後とも、仲良くしてやって下さいね?」


 そう言いながら俺に微笑みかけるお母さんは、時々とっても怖いけど。

 それでもやっぱり、いいお母さんだなぁ……と、微笑ましい気持ちになりながら、当の蓮見さんを見やると。


「うう、お母さんにこんな風にお願いされるなんて……もうやだおうちかえる……」


 半泣きで俯いていた。

 いやここ、君の家だからね?


 それでも、いつもとは違う、初めて見る蓮見さんで、少し胸が高鳴ったのは、俺の気のせいだと思いたい……。

本話で出てきた蓮見花七さんについては

「幼馴染の妹の方が急に押しかけてきたけど、僕は一体どうすればいいの!?」

https://ncode.syosetu.com/n9272fr/

というか短編をお読みください(宣伝)

前作主人公の両親のお話になります。



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