勉強会を、開催します!
そんな3人の関係が続き、あっという間に9月も終わり、10月。
流石にクラスのみんなも俺たち3人の奇行に慣れたのか、当初のように奇異の目で見られることも少なくなってきたように感じる。
斜め前の哀川さんも、最近ではたどたどしくも、少しずつ話すようになってくれたし。
……若干、椅子が遠い気がするのは、俺の気のせいだと思う、うん。
「それで……その後、勉強は捗ってますか、三枝さん?」
「うーん、わかんないことがわかった、ってところが多いね!」
「つまり、何も改善してないってことですね?」
「えっへっへー」
「笑い事じゃねーぞ心春、お前マジで留年しても知らないからな?」
この1ヶ月、出来るだけ心春の面倒を見よう、と蓮見さんと二人で色々と頑張ってはみたが、心春の成績の方はなかなか向上の兆しを見せず。
いや、向上はしてるんだよ、向上は。
なんと今では、中学2年生のテキストに突入しているのだ!
今、高校一年生なんですけどね、はっはっはっ。
……正直、俺は心春に数学はもう無理だろうと匙を投げていたのだが、さすが蓮見先生、メガネの似合うデキる女は俺なんかとは格が違った。
これはそのうち、蓮見さんに何かお礼をしないといけないよなぁ。
心春が。
「とはいえ、まだ数学だけです、三枝さんは他の教科もダメダメですからね」
「保健体育なら任せろー!」
「わかりました、では今日は古典を勉強しましょうか」
「ぐえーっ……もう勉強したくない……字を読みたくない……」
「はいはい、留年しないように、一緒に頑張りましょうね」
「蓮見先生……私、バスケがしたいです……!」
「中間テストが終わったら、みんなでやりましょうね」
そう言って、心春の頭を撫でる蓮見さんはなんかもう、心春のお姉さんのような貫禄だ。
よく俺にお姉ちゃん、お姉ちゃんと言ってくるが心春よ、これが本当のお姉ちゃんキャラだ……所詮お前のお姉ちゃんなど、ばったもんだよ、このロリキャラめ!
そう思っていると、蓮見さんがそっと俺に近づいてきて……。
「天方くんは、今度じっくり、二人っきりで個人授業しましょうね♡」
そっと、小さな声で耳に囁きかけてきた蓮見さんに驚き、思わず耳を押さえて後ずさってしまう。
心春が「どしたの?」と言いたげな顔でこっちを見てくるが、何があったかなんていえるわけがない。
ほんと、蓮見さんの前では一瞬たりとも隙が見せられないなぁ……何をされるかわかったもんじゃない。
改めて。
改めて、蓮見さんは危険な人だと、心に深く刻んだのだった……。
* * *
「というわけで、次のデートは、天方くんと二人で勉強をしたいんです」
そんな日の帰り道。
蓮見さんが唐突に、今後の予定を語り始めた。
「え、それでいいの? どこか行きたい、とか……」
「行きたいのはやまやまですけど、もうすぐ中間テストがあるじゃないですか」
ふぅ、と溜息をつきながら、蓮見さんが取り出した手帳を二人で見ると、確かに中間テストが迫っていた。
いや、迫っていたというか、このスケジュール……。
「気付かなかった……もうテストまで、1週間とちょっとしかないんだけど……!」
「やっぱり気付いてなかったんですね、天方くん……三枝さんもですけど、危機感が足りませんよ、危機感が!」
ぱしぱし、とボールペンで叩くのは中間テスト初日の日付け。
ハッキリ言って、自信はまったく……ない!
というのもこの1ヶ月、ほとんど授業に身が入ってなかったからね、仕方ないね。
「というわけで、今週は一緒に勉強をしましょうね?」
「了解しました蓮見先生!」
「ふふ、よろしい! それで、場所なんですけど……」
「あー、どうしようか? いつもの図書館? それとも、うち来る? 母さんに言っておけば、多分夜も出してくれると思うよ」
今や2日に1回は朝、我が家に尋ねてくる蓮見さんだ。
いつの間にか母さんとも仲良くなっているようだし、今更うちに来ないでほしいなんて気持ちも特にない。
「そのことなんですけど……よかったら、なんですけどね?」
「あ、どこかアテがあるんだったらそこでもいいよ?」
「じゃ、じゃあ……ウチに、来ませんか?」
「……はい?」
「私の部屋で、一緒に勉強しましょう!」
「……え、マジで言ってる?」
「マジです! ……ふふっ、楽しみですね!」
こうして、俺の蓮見家への訪問が決まってしまった……。
え、蓮見さんの家って……あの叔母さんの、お姉さんがいるんだよね?
大丈夫か、俺……!?




