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睡眠瓶は計画的に?

 

「ハルー、そろそろ尻尾切れる……あ、切れた」

「おっけー、次で睡眠入るから、攻撃しすぎんなよ」

「了解了解……あ」

「心春!?」

「うそうそ、ちゃんと攻撃止めてるって……ごめん止まってなかった!」

「お前ー!!」


 心春の攻撃で、せっかく眠ったモンスターが目を覚ましてしまった。

 しかもショボい攻撃で! ぐぬぬ……大ダメージのチャンスが……!


「ま、そういうこともあるよねー」

「はぁ、まぁいいけどさぁ……!」


 ケラケラと笑う心春をジロリと睨みつけると、その視線を感じた心春が、少し首をすくめた。

 先程までとは違い、心春は今、俺の膝に頭を預けて寝転がった状態だ。

「ハルに体を預けるのもいいけど、ゲームしてたら疲れる」らしい。

 こっちとしてもさっきの体勢には色々と思うところがあったので、否やはない。



「はー……ぶっ通しで上位ラストまで来て疲れちゃったねー」

「そうだなぁ、てか装備そろそろ作んないとキツくないか?」

「うーん、かもかも。 一旦素材集めしたほうがいい?」

「そうだなー……それより、ちょっと休憩しようぜ、休憩」


 そう言ってコントローラーを置いてぐっと背伸びをすると、ぺきぺき、と骨がなった。

 あー、体が凝ってばっきばきだわ、ちょっとストレッチして体伸ばさないとダメだな、これ。


「心春、心春、ちょっと頭どけてくれ」

「んー、なんでぇ?」

「ストレッチしたい、体が凝って痛い」

「ふーん、あ、ボクがマッサージしてあげようか?」

「できんのかよ」

「にしし! とーぜん! お父さんの肩揉んだり、昔からしてたからねっ!」


 そう言いながら、手をわきわきとする心春は……若干怖い。

 しかし昔からしていた、というなら任せてもいいものか?


「まーま! ほら、ベッドに横になって!」

「そこまで言うなら……んじゃー、頼んでみるかなぁ」

「はいはい、任されましたー!」


 俺が寝転んだベッドの上に、心春がベッドを軋ませながら登って来る。

 うっ、今更だけど、なんかこのシチュエーション、ぐっとくるな……!


「はーい、それじゃーいくよー! まずは肩からもみもみーっと」

「お? おお……?」


 心春の小さな手が、凝った肩の筋肉を揉み解していく。

 これは……思っていたよりも、ずっと気持ちいい!

 強すぎず弱すぎずな力加減は、さすが自分で得意というだけのことはある。


「大丈夫? 重くない?」

「全然重くない、っていうか軽すぎるんだよ、心春は……ちゃんと食ってんのか?」

「いやまー、まだ高校1年生だし? これから成長するから余裕、余裕!」

「見える……俺には見えるぞ……大して成長しない、お前の未来が!」


 女の子って確か、成長期が男子より早いんだよね?

 だから早いうちにほとんど身長が決まっちゃう、とかなんとか。

 その理屈でいうと、心春はもう……。


「来年の今頃は、マジで心春後輩になってるかもなぁ……」


 学力的にも、身長的にも。


「なんだとー! そんないけずな事言うハルには、こうだ!」

「痛い痛い痛い!? くっそお前、今のはマジで痛かったぞ!」

「ふーんだ、肩はもういいでしょ? 次は腰もやったげるね」

「おお、頼むわ……腰は結構力いるんじゃね? 大丈夫か?」

「うーん、お父さんなら、腰踏んでくれーって言うんだけど、流石にハルを踏むのはなぁ」


 え、踏まれるだけでそんな楽になんの、腰?

 別に踏まれるくらいたいしたことないし、そのくらいで楽になるならむしろ歓迎したいくらいだ。


「いいぞ踏んでくれても、むしろ踏んでくれ!」

「えっ、でも、女の子に踏まれるのって嫌じゃない?」

「何を言ってるんだ、俺を踏んで気持ちよくしてくれ、さぁさぁ!」

「なんか言ってる事が変態っぽくてヤなんだけど!?」

「気のせいだ、むしろマッサージで変な風に考える心春のほうが変態まである」

「うー……じゃあ、踏むからね!?」


 そう言って、心春が俺の腰の上に立つ。

 程よい重みが腰にかかり……おお、これはこれは……悪くない。


「心春、もうちょい真ん中の右……そう、その当たり、そこをかかとでぐりぐりっとしてくれ」

「うわぁ、なんかハルを踏んでると、不思議な気分……大丈夫? 痛くない?」

「うん、めっちゃ気持ちいい……あっ、そこ! そこもうちょっと強く!」

「……にしし、なんか楽しくなってきた! ここらへんはどう? 気持ちいい?」

「いい感じ……」


 はー、こりゃいいや。

 ふみふみ、と口ずさみながら一定のリズムで腰を踏む心春の声で、だんだんうとうととしてくる。

 だめだめ、このリズムはヤバイって……モンスレで疲れた頭が睡眠を欲して……。


「あれ? ハル、寝ちゃった?」

「寝てない……起きてる……」

「んー、なんか眠そうだねぇ……ちょっと寝る? お姉ちゃんが添い寝してあげよっか?」

「誰がお姉ちゃんだ……でも、ちょっとだけ、10分したら起こして……」

「にしし! りょーかい!」


 なぜかとても安心する、いい匂いに包まれた気がしたけども……眠気にはどうしても勝てず、そのまま、夢の世界へと落ちていった……。


 * * *



「ありゃ、ほんとに寝ちゃった?」


 もー、今日はボクとデートの日だったってのに、酷くない!?

 蓮見さんは動物園行ったーってあんなに喜んでたのに、ボクはおうちデートだよ、おうちデート!

 そんなもん、夏休み前からよくしてたじゃん! いつも通りじゃん!!


 ……と言いたいところだけど、案外ボクらにはこれがあってたのかもね。

 まぁ、どっか行きたかったなー、ってのはあるけどね。

 次はお弁当でも作って、近くの公園に遊びにいくとか、そんなのもいいかも。

 へへっあとでハルに言ってみよっと!


「それにしても……にししっ、口ぽかーんと開けちゃって……よだれたらしてもしらないぞーハルー?」


 妙にねこっ毛なさらさらの髪を撫でると、ハルがくすぐったそうな声を上げた。

 おお、寝てるハルってこんなに可愛かったっけ……お姉ちゃん、ちょっとドキドキしてきちゃいましたよ?

 昔から何度もハルの寝顔なんて見てきたはずなのに、なんでこんなに新鮮な気がするんだろうね? 不思議だね?


 ……ほんとはこういうとき、膝枕でもしてあげたら男の子は喜ぶんだろうなぁ。

 蓮見さんだったら……うん、あの女なら膝枕どころか、間違いなく添い寝とかする、多分ボクの予想はあたってるはず。



 負けたく、ないなぁ。

 そう思うと、蓮見さんにデレデレしてるハルの顔がふっと浮かんで、ちょっとイラっとしてしまい……。


「ほらハルっ! もう10分経ったんだから、起きて!」


 ぎゅぅー! っと、ハルのほっぺたをつねり上げてしまった。


「いたっ!? な、何何何!!?」

「にししっ! ほらもう起きて! 続きやるよー続き!」


 せっかくの一日デートの日なんだから、このまま寝て過ごすなんてないない!

 今日は一日、みっちり付き合ってもらわないとね!

 ほっぺたをさすってちょっと涙目になってるハルに無理矢理コントローラーを持たせて、ボクたちの休日は過ぎていった……。

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