最初からやり直そう
「ん? どうしたのハル? なんでそんな哀しい顔してんの?」
「哀しい顔をしたくもなるわい……お、俺は別にちっちゃい子が好きとかそういうのはないの!」
「えー? ほんとにござるかー?」
くっそ、こいつ!
にやにやしながら俺を見るんじゃない! ちょっと嬉しそうにしやがって……可愛いなぁ畜生!
「で、ハルはちっちゃい子が好きなの? どうなのさー?」
「……たまたま、好きな子がちっちゃかっただけで……他意はございません……!」
「ふーん、そんな本、持ってたのに?」
「これは……! 柾人が知らない間に、カバンに入れてたんだよ!」
『お前、こういうの好きなんだろ? わかってる、わかってるって!』
と言われ、気がつくとカバンの中にあったのだ。
そしてこのような危険物を学校に持っていくわけにも行かず、仕方なく。
仕方なく!!
自分で保管していただけなんです信じてください……!
「まー、それを捨てずに持った時点でアレだよねー」
「ぐぅ……!」
「でも……ふーん、そっかそっか、ハルはちっちゃい子が好きなのかー」
「……なんだよ」
「んーん、なんでもなーい、さ、ゲームしよっか、ハル!」
そうにっこり笑うと、鞄からゲームを取り出した。
このままこの話題を終わらせてくれるならありがたい、俺もテレビとゲーム機の電源を入れ、プレイする体勢に……。
「何やってんの、心春?」
「え、ゲームだけど?」
「いやそれはわかってんだけど……どこ座ってんの?」
「ハルの膝の上だけど?」
「なんかおかしくない?」
「おかしくなくない?」
え? おかしくなくなくなくない?
ん? 今何回言った?
「って! おかしいでしょやっぱこの体勢! 今までこんな体勢でゲームしてなかったよね!?」
「えー……細かいなぁハルは……いいじゃんちょっとくらい」
「よくないよ!」
だってお前……この体勢!
俺の胸に背中を預けるみたいなこの体勢はその……困る、色々と。
いくら心春が色々と足りないとはいえ、女の子とくっつくのって恥ずかしいじゃないですか!
「ふふーん、なーにハル、照れてんのー? 顔赤くしちゃってー!」
「お前だって顔、赤くなってんじゃん」
「えっ」
後ろからだから顔は見えないけど、心春の耳が赤く染まっているのがこの位置からでもわかるんだからな!
こういうのって、自分では気がつかないものなんだろうか? 気付かないんだろうなぁ。
だって俺も今、顔赤いって言われてもわかんないもん。
……
このまま、後ろからぎゅーっとハグしてやったら、心春はどんな顔をするんだろう?
俺の中でむくむくと悪戯心が育っていくのがわかる。
やってみようか……いやでも後を考えると怖いよなぁ……いやいや。
「ほ、ほら、それよりハル、早くやろーよ!」
「あー……うん、そうだな……ってなんだよお前、ほとんど初期装備じゃん!」
「夏休みに遊んでくれなかった、ハルが悪いと思いまーす」
「なんでだよ! しかもそれ、俺だけのせいじゃないし……!」
だいたいお前もうち来なかっただろ、一回も!
「ふーんだ、ほら、ハルも新キャラ作ってイチからボクと遊ぶんだー!」
「えっ」
えー、またイチからやんの?
さくっと心春を引き上げたら、素材回収で周回したかったのに。
欲しい素材、結構あるんだけどなぁ……。
「夏休み前に一緒にやろって約束してたんだから、最初から遊ぶのは当然だと思いまーす!」
「くそっ、確かに言ったけど……いいじゃん、一気にキークエ終わらせようぜ!」
そしてハムスターのように、くるくると同じクエを回ろうぜ……飽きても回ろうぜ……!
「えー、やだ」
「やだってお前……」
「やーだー! ボクはハルと一緒に、イチからやりたいの!」
「小学生か!」
てか人の膝の上で暴れるんじゃないよ!
小学生どころか幼稚園にまで幼児退行するつもりか!?
「あ、小学生ならハルの好みばっちりじゃない、ボク!?」
「ガチの小学生はちょっとさすがに……」
「なーんだ、そっかー」
そうなの。
「はぁ、しゃーない! キャラメイクするから待ってろ!」
「にひひ! さすがハル、男前だねー! そのまま前のデータは削除」
「しませんよ!?」
「ちぇー」
全く、ほんとこいつは……!
こうして、俺と心春の長い長い休日は幕を開けたのだった。
まだ、一日は始まったばかりである……。
「あ、お昼はボクオムライスが食べたい!」
「ほんと遠慮ないね、心春……」
買いたての辞書とかについてる、型紙のカバーに隠してました。




