幸せってなんだろう?
「蓮見さんは、恋人って何をするものだと思う?」
「……どうしたんですか、急に?」
今朝の心春との疑問は、結局二人ではどうしても解消する事ができなかった。
恋人とは……彼氏彼女とは一体……! と言うわけで、蓮見さんに意見を求めてみたんだけど……あれなんか、蓮見さん元気ない……?
「どうしたの? なんか今日、元気ないみたいだけど……まだ疲れてる?」
「あ、いえ、大丈夫です! 天方くんとの初めての……♡ でも疲れとかはないです!」
「言い方ァ!!」
哀川さんがぎょっとして振り返ってんぞ!?
なんで初めての……の後空白置いた! なんかもっと言い方あったでしょ! ほら! 二人で初めて出かけた、でいいじゃん! なんでそんな変な言い方したの今!?
「ふふっ、なんとなく?」
「はぁ……で、なんで今日はちょっと元気ないの?」
「あー……流石に昨日のことで、怒られまして……」
なるほど、やっぱり怒られたかぁ。
帰り際、ちょっと顔が青かったもんな、そんなに怖いのか……蓮見さんのお母さん……!
「なんか、ごめんね蓮見さん」
「いえ、昨日は私も悪かったので」
そうして、二人で苦い笑いを交わす。
どうやらしばらく、蓮見さんは門限が厳しくなるようだ。
これまでは連絡さえすれば、多少遅くなるくらいは目をつぶってもらえたらしいけど、流石に昨日のはダメだと判定されたらしい。
ま、女の子だもんね、男と二人で終電ギリギリとか、そりゃ心配になるよねぇ。
「実は、花七お姉さんにも怒られまして」
「へぇ、意外とまともなところもあるんだね、その叔母さんにも」
「どうしてそのままお泊りして既成事実を作って帰らなかったのか、と」
「ほんとブレないよね!?」
あまりのブレなさにビックリだよ!
「仕方ありません、お泊まりは今度、ちゃんと準備して行きましょうね!」
「もう行く前提になってるけど、絶対お泊りなんてしないよ!?」
「えー、絶対楽しいですよ?」
「俺の胃が死んでしまう……!」
ほらもー、哀川さんの目が、どんどん汚物を見るような目になっていくよ!あっ!哀川さんそっと机を離すのやめて! めっちゃ傷つくからそれ!
「それで、なんでしたっけ?」
「恋人とは何をするものか、だよ」
「あー……そうでしたそうでした、恋人、恋人……うーん、そうですねぇ……」
んー、と口に人差し指を当て、考え込む蓮見さん。
時々この仕草やってるけど、すっごい可愛いと思います……!
「うん、恋人だからって特別な事、しなくてもいいんじゃないですか?」
「え?」
柾人に続いてこれまた意外な答え。
蓮見さんならもっと破廉恥な……いやいや、蓮見さんは乙女、蓮見さんは乙女!
「特別なことなんてしなくても、ただ手を繋いで歩いてるだけでも、一緒にお休みをゆったり過ごすだけでも、幸せって感じられますよ?」
「そんなもんなのかなぁ……ていうか、なんかもう、そこまで行くと熟年夫婦的な……」
「ふふっ、それが愛なのです!」
おお……なんだかわからないけど、凄い自信だ!
つーか哀川さんがめっちゃ頷いてる! 俺の時の態度とえらい違いなんだけど!?
えっ、なんなの? 哀川さんってそんなキャラだったっけ!?
「ま、まぁ、ありがとう、参考にさせてもらうよ……うん」
「いいえ、どういたしまして。 大方、三枝さんとどう接すればいいのかわからなくなったんでしょう?」
「よくわかったねぇ……」
「いつも言うように天方くんの考えなんて全部お見通しですから!」
えへん、と胸を張るが、待ってほしい。
今気付いたんだけど、この人心春が関わってる時以外、全く見通せてないよね、と!
蓮見さんは果たして気付いているのかいないのか……うーん。
「それはそうと天方くん、相談にのってあげたお礼がまだですよ?」
「えっ、あれでお礼とか要求するの!?」
そんなの聞いてないんだけど!
「当然ですよ、相談内容が三枝さんとの仲のことなんて、蓮見さんは心に深い傷を負いました! 謝罪と賠償を要求します!!」
「えぇー……蓮見さんの要求とか物凄い怖いんだけど……」
一体何をさせられるんだろう。
もう今から嫌な予感しかしないんだけど! はっきり言って怖いんだけど!
そう思っていると、蓮見さんが少し首を上に向け、目を閉じた。
あー、これは……
「はい、天方くん! 蓮見さんはお礼のキスを所望します♡」
「いやいやいや無理無理無理!」
普通にするのも難易度高いのに、教室でとか無理だから!
「もうっ、昨日はあんなに情熱的なキスをしてくれたのに……」
「してないよね!? なんで嘘つくの!?」
「てへっ」
可愛く言ってもダメだからな!
ほんと、哀川さんの俺への好感度がガリガリ下がっていくのがわかる……というか、このクラスの女子からの評価、もう最低値なんじゃないだろうか?
哀しい……この世は哀しみに満ちている……!
「ま、天方くんにキスなんて無理なのはわかっているわけですが」
「ほんと、冗談キツイよ蓮見さん……」
「ふふっ、言うだけならタダですし、もしかしたらしてくれるかもしれませんし?」
「しないよぉ……少なくとも教室とか無理無理」
「ふむ、教室以外ならいい、と」
しないけどね。
「仕方ありません、今日帰る時、天方くんから手を繋いでくれれば、それで許してあげます」
「えっ、そんなんでいいの?」
意外だ……もっととんでもない事を言われると思ったのに!
いや、もしかしたらここからまた凄い要求が来るのかもしれない。
気を抜くな天方日葵! 蓮見さんはここから斜め上の発想をする人だと、肝に銘じろ!!
「ふふっ、さっきも言いましたけど、好きな人と手を繋いで歩く、それだけで幸せになれるものなんですよ?」
「え……」
……何を言われるのかと身構えていたところにその一言は、色々とずるい。
思わぬ蓮見さんからの攻撃に、俺は絶句してしまうのだった……。




