彼氏彼女って何するの?
「で、昨日は蓮見さんとどこまで行ったの、ハル」
「どこまでって……海沿いのどうぶつ王国までだけど」
「違うし! そういう意味じゃ……あーもー!」
「なんだよ……今日はもうほんと眠いんだから……」
「!? ね、眠いって……まさかハル! 泊まりとか……!」
「するわけないだろ、帰りの電車で寝てたら終点まで行っちゃって、帰りが遅くなっただけだよ」
はぁ、昨日は本当にビックリした。
まさか、駅を通りすぎるどころか県を跨いで向こうまで行ってしまうなんて!
そこから折り返しの電車じゃなければ、そのまま西日本から東日本へ足を踏み入れているところだ。
そして何が一番びっくりしたかって、蓮見さんがいつの間にか俺の膝で寝ていたことだ。
俺たち二人を起こしに来た駅員さんが苦い笑いを浮かべていたのが、本当にいたたまれない。
蓮見さんは蓮見さんで
『えっ!? しゅ、終点ですか!? つまり……お泊り……?』
なんていいだすし。
家に電話して父さんに話をつけて、ヤバそうなら迎えに来てもらう、って算段をつけ。
なんとか最寄り駅まで帰れた時は、心底ほっとしたよ……。
駅に近づくにつれ、蓮見さんの顔色が青くなっていったのは不思議だったけど。
帰り際にお母さんがなんとかって言ってたけど……大丈夫だったのかな?
もしかして、厳しいお母さんなんだろうか。
そんなんでよくお泊りとか言えたな!?
「心春ちゃんキック!」
「いてっ! な、なんだよ心春!」
「ふんだ、今どうせ、蓮見さんの事考えてたんでしょ、ボクがいるのに!」
「考えてないし」
「ふーん、どうだかー。 あ、来週のボクとのデート、忘れないでよね!」
心春とデート、ねぇ……。
正直、こいつとどっか行くってのも今更思いつかないというか、たいていのところはもう行っちゃってるんだよね。
遊園地もいった、動物園も水族館も、カラオケだって一時心春がハマってたから、毎日のように行っていた時期があった。
お互い財布が空になって、途方にくれたほどだ。
一緒に行っていないのは……お城みたいなホテルくらいじゃないだろうか? いやマジで。
「なんか、こんなこと言うのもなんだけどさ」
「うん?」
「お前とそういう風に遊びに行くってのが、なんか想像できない」
「えっ、今更!? ボクに告白までしたくせに!?」
「まー確かにその通りなんだが……」
心春の事は好きだったよ?
これは間違いない。
ただ、好きの先にある「幼馴染の心春ちゃん」が、「恋人の心春」になるまでの具体的なところを想像していなかったというか、なんというか……うーん。
「これ、どうすればいいんだろうな?」
「ど、どうすればいいとか言われても、ボクもわかんないよ!?」
「え、心春って俺の事、好きなんだよな!?」
「好きは好きだけど! ボクも、幼馴染のハルが恋人のハルにクラスチェンジするって想像、なんかしてなかった……かも」
――――心春よ、お前もか。
「普通の彼氏彼女って、何やってるんだろうなぁ……」
「何やってるんだろうねぇ……」
「お前ら、二人して頭傾げて何やってんの……?」
「これはこれは、年上お姉さんを捕まえたリア充の柾人くんじゃないか」
「あらあら、年上お姉さんを捕まえて一時期ハシャぎまわってた、柾人さんじゃありませんの」
「お前ら、ほんと仲いいね……」
がっくりと項垂れるのは、俺の友人でもあるリア充・柾人だ。
……って、そうだよこいつがいたじゃないか! こいつに世の恋人同士が何をしているか聞けば……!
「ハル、だが待って欲しい」
「心春?」
「ここでこいつに『恋人になると何をすればいいの?』なんて聞いて、爛れた性生活なんて語られたらボクら二人とも困るから、やめたほうが……」
「なるほど、心春の言うことには一理ある」
「ねぇ、君らは俺のこと、なんだと思ってるの?」
「「変態大人」」
「おーけーわかった、話し合いが必要なようだな」
「ていうか、いつもハルの部屋にえっちな本置いていってるの、知ってるんだかんね!」
「なんか、三枝さんがえっちなーとか言うと、凄いアレだな……ぐっとくるな……!」
「やっぱ変態じゃねーか!」
「ぐえー!」
とはいえ、まぁ柾人以外に相談できそうな友人もいない……というか。
彼女、というものがいる友人がこいつ以外にいないので、誰にも相談できないわけで。
池下くんと松木くんは全国クラスの有名なバスケ選手らしいのに、なぜか全くモテないし……。やはり色の名前が入ってないからですかそうなんですか!
というわけで、しかたなく柾人に「恋人とはなんぞや」と聞いてみた所。
「お前らが普段やってることはまんま恋人のやることだよ、このバカップルめ」
とのありがたいお言葉をいただき……うーん、謎、さらに深まる。
「つまり、俺と心春は今週末、どこに行けばいいんだ?」
「わかんない……」
こうして、俺たちは二人で途方にくれるのであった……。




