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さて、今回で何回目でしょう?


「お、お恥ずかしい所をお見せしました……」

「ううん、大丈夫だよ、蓮見さんにもこんな一面があるんだなって知れて、嬉しかった」

「…い、いえ……あんなに興奮して……ほ、ほんとすいませんでした……!」

「本当なんだけどなぁ……」


 しゅん、と小さくなる蓮見さんを前に、思わず笑ってしまう。


 ……あの後。

 蓮見さんがふれあいパークで大興奮、大はしゃぎし。

 ……それはもう、大はしゃぎし……。

 周りの家族連れがドン引きしていた気がするのは気のせいだろうか?

 心なしか、カピバラも引いていた気がするが……うん、気のせいだろう。


 そんなわけで、流石にはしゃぎ疲れた蓮見さんを休ませるため、園内のカフェテリアでコーヒーを飲んで休憩することになり、今に至る。



 ところでここのコーヒー、カップに鳥の意匠? がくっついているんだけど、カップを持ち上げると、微妙に目線が合って、非常に飲みづらい。

 その目は、『何か』を語りかけているようで……。


「おう兄ちゃん、俺の中身を飲むのか? そうか……飲むのか……それを飲まれると……俺が死ぬかもしれなくても? ……そこまでの覚悟があるなら仕方ねぇ……構わず飲んでくれ……なぁに気にするな、俺が死んでも代わりはいる……じゃあな兄ちゃん……」

「えっと……何してるんですか、天方くん?」

「えっと、ハシビロくんごっこ?」

「ぷふっ! なんですかそれ」


 ハシビロくん。

 それは、人類にコーヒーを飲ませるだけの哀しき鳥生を送る、哀しき鳥類……。

 そんな彼らが人類に叛旗を翻す日がくる日も近い。


「って感じの設定で……いやほんとなんとなく?」

「天方くんって……ふふっ、いつもそんな事考えてるんですか?」

「たまに?」

「ふふふっ! そうだったんですね! 隣にいるだけじゃわからないことって、たくさんあるんですね!」

「そりゃそうだよ、俺なんて蓮見さんについて、知らないところだらけだし」


 ほんと、この一週間でどんどん蓮見さんの印象が変わっていくのが凄い。

 クールな読書美少女からただの変態になり、眼鏡の似合う美人女教師から今や動物好きの普通の女の子までクラスアップだ。

 クラスアップ、してるんだよな?


「じゃあ、この調子でお互い、どんどん知らないところを知っていけるといいですね?」

「俺はともかく、蓮見さんについては知らないことだらけだから楽しみだなぁ」

「じゃあ、まずは一つ、私、動物が好きなんです」

「うん、そうだね」

「中でもネコちゃんと……あと、柴犬が好きなんです」

「へぇ、柴犬」


 柴犬かぁ、確かに可愛いよね、柴犬。

 あのくるんと巻いた尻尾といい、絶妙な長さのマズルといい、やけに懐っこい性格といい、いいところしか思いつかないくらいだ。


 でも知ってる?

 柴犬って、狼に最も近い遺伝子を持ってるんだぜ……柴犬なのに!


「お婆ちゃんの家に、犬志郎っていう柴犬がいるんですけど……」

「胸に七つの傷を持ってそうな犬だね!?」


 世紀末救世主かよ。

 近所に羅王とかいないだろうな、お婆ちゃんち。


「もうね、その犬志郎が可愛くて可愛くて仕方ないんですよ! お婆ちゃんの家に帰ると、大喜びで飛びかかってくるんです!」

「あー、わかる……なんか柴犬って、そういう事しそうだよね」

「ふふっ、もうお腹見せて、撫でて撫でて! って……思えば私の動物好きのルーツは、犬志郎なのかもしれません」

「自分では飼おうと思わないの?」

「うちはお母さんが許してくれないんですよね……絶対ダメ! って……」


 動物飼うのって大変だもんね。

 カブトムシすらろくに飼えなかった俺には、ほんとなんとも言えない。

 カブトムシの卵なんて見た事ないよ……!


「だから、今日はすっごい楽しいんです! ついてきてくれてありがとう、天方くん!」

「ありがとうなんて……俺だって楽しんでるからね!」

「えー、ほんとですかー? 私に振り回されて、なんだよこいつーって思ってません?」

「……ちょっとだけ?」

「もうっ」


 ほっぺたをぷくっ、と膨らませたかと思えば、目を細めてくすくすと笑い出した。

 そんな蓮見さんに釣られて、俺も笑ってしまい……なんだこれ。


 おかしい、待て、ちょっと待て。

 なんで蓮見さんとこんなに普通に「いい感じ」になってんだ俺!

 待て慌てるなこれは蓮見さんの罠だ。

 きっとこの後、また叔母さん仕込みの変態的な行為が俺を襲うはず……!



「私、やっぱり天方くんのこと、好きだなぁ……」

「えっ」

「ふふっ、天方くん、顔、赤くなってますよ?」

「っ!」


 思わず、蓮見さんから顔を背けてしまったが、そんな俺の態度も可笑しかったのか、また笑い声が聞こえてくる。

 か、からかわれてるだけ! これはからかわれてるだけだから……!


「さて、そろそろ次に行きましょうか天方くん」

「えっ、あ、う、うん、そうだね」


 くそっ、教室で突然キスされた時だってここまで動揺しなかっただろ俺!

 なんで好きって言われただけでこんなに動揺してんだよ! クールになれ、天方日葵!!

 クールに……Kool……あれ、coolだっけ?


 そんな風に別のことに気を取られていたせいで、またしても……またしてもっ!!

 蓮見さんの接近に気がつく事ができず……っ!


「んっ!」

「!!」


 またしても、あっさりくちびるを奪われる俺……学習しろよ、マジで!


「だ、だから蓮見さんっ!!」

「ふふっ、花七お姉さん戦法No.2『相手が隙を見せたら攻撃しろ』ですよ?」

「仮面の奇行子みたいなこと言うのやめなさい!」


 ほんと油断も隙もない人だな!?

 くそっ、これで……何回目だ?

 何回目だってなるのがまずおかしいだろ蓮見さん!


「うーん、珈琲の味」

「そりゃ、今まで飲んでたからね」

「ふふっ、でも……そろそろ、次は天方くんからしてくださいね?」


 そう言いながら振り返り、自分のくちびるをトントン、と人差し指で指す仕種……反則だと思います……っ!


「天方くんからのキス、楽しみにしてますね♡」

正解者の中から抽選で一名様に、「蓮見さんの天方くんコレクション」から使いさしの消しゴムを進呈いたします。


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