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蓮見さんの夢破れた時



「見てください天方くん! ペンギンです! ペンギンがいますよ!」

「おお、本当だ……俺、初めて実物見たんだけど」

「はぁ~……あのよちよち歩きがたまりません……」

「あれで、水の中だと機敏に動くんだから、わかんないよねぇ」

「東京には、なんとペンギンがいるBARがあるらしいんですよ」

「えっ、それは生ペンギンってこと?」


 へぇ、東京の人は考える事が違うなぁ。

 いや、これは東京の人じゃなくて、そこの経営者がちょっと違うのかな?


「はい……生ペンギンです……はぁ、一度でいいから行ってみたいですよね……」

「お酒が飲める年までは、まだまだ遠いなぁ」

「ううっ……こんな時は未だ年若い身が辛い!」



 あの後、俺たちは電車を乗り継ぎ、海沿いにあるこのどうぶつ王国までやってきていた。

 そして隣には、生ペンギンを見て、瞳を輝かせる蓮見さん。

 ほんと、動物が好きなんだな……改めて、俺は蓮見さんの事を何も知らないんだと思い知らされる。


 ……うん、最近ほんと変な人だと思ってたから、イメージを修正修正っと。


「知ってますか天方くん、ペンギンって、二足歩行してる相手をみんな仲間と思ってるって話」

「……それは、俺たち人間もってこと?」

「ええ、このケープペンギンもそうかはわかりませんけど、コウテイペンギンなんかは、撮影スタッフに子供を預けてエサを取りにいったりするらしいですよ?」

「それはちょっと、いくらなんでも警戒心なさすぎない……?」

「ですよね! ふふっ、でも、そういうところも可愛い……」


「目をキラキラ輝かせてる蓮見さんも可愛いよ」

 なーんて言ったら、どんな反応するんだろう?

 ちょっと見てみたいような、今試すときじゃないような。


「どうしたんですか、天方くん?」


 そう言って、怪訝そうな顔を向けてくる蓮見さん……むぅ、変な気配に敏感な人だな、ほんと。

 今の一瞬でなんで気がつくのか……。



「ううん、あっちにいるの、アザラシだなって」

「あっ、ゴマフアザラシですね! ゴマちゃんですよ、ゴマちゃん!」

「ゴマちゃんってなんか、聞いたことある気が……」

「ええ、アニメにもなった有名漫画ですね! 作中では白いままでしたが、ベビーファーの間だけが白いんですよね、ゴマフアザラシって」


 ベビーファー。

 なんとももこもことした、気持ちの良さそうな言葉だ。

 ということは、あのアザラシの子供もふわふわもこもこなのだろうか?


「うーん、どうでしょうね? ねこちゃんとかうさちゃんなら、ふわっふわなんですが……」

「見た目通りじゃないかもってこと?」

「昔、まだ小学生の低学年くらいの頃ですが、オーストラリアでコアラを抱っこしたことがあるんですよ」

「コアラ」


 もういきなり可愛いの確定な奴じゃないか。

 いかにもふわふわした手触りがよさそうな、女の子に人気あるわこいつって言える人気者だ。

 そして抱っこするのは小学生の蓮見さん。

 これは確実に可愛い。


 誓って言うが、俺はロリコンではない。

 俺はロリコンではない!



「もちろんその時の私は、ふわふわのもこもこを想像していました、ぬいぐるみもそうでしたし」

「だろうね、俺もふわふわを今、想像してたところだったよ」

「……実際に抱っこしたコアラは、なんか毛も硬くて……あれっ、て……」

「oh……」


 なるほど、少女時代の蓮見さんの夢破れた瞬間だったわけか。


「そのうえ、喧嘩してるコアラはなんか凄い野太い声でギャー! って叫んでまして……ああ、これが本物か、と……」

「裏切られた気分になった、と」

「うう……だ、だって、ぬいぐるみはあんなに可愛いのに! 辛い……っ!

「そりゃ……辛いでしょうよ……」


 その辛い気持ち……ちゃんと言えたじゃないか。


「まぁ、それはそれとしてコアラは可愛いんですけどね」

「切り替え早いなぁ……」

「正直それよりも、一緒に旅行に行っていた、従兄に大笑いされたことの方が屈辱で……っ!」


 わぁ、さっきまですっごい嬉しそうな顔だったのに、従兄さんの話になったら物凄い苦々しい顔に!

 一体どんな人なんだ……蓮見さんをここまで苛立たせるなんて!

 一度会ってみたいような、会ってみたくないような。



「ま、まぁまぁ、それよりもあっち! ふれあいパークの方も行ってみようよ蓮見さん!」

「ふれあい!」

「カピバラに餌がやれるみたいだよ?」

「行きましょう天方くんすぐに行きましょう!!」

「あっ、蓮見さん!?」


 目を輝かせた蓮見さんに、荒々しくもしっかりと手を取られた。

 この前のように、顔を赤くするようなこともない。

 もうすでに、蓮見さんの目にはカピバラの子供しか映っていないのだろう、お可愛らしいことだ。


 はやく、はやくと手を引く蓮見さんの新たな一面に、笑いを堪えることなど出来るだろうかいや出来ない。

 その後、むっとした表情の蓮見さんに、「なんですか」と問い詰められたのは、言うまでもない事である……。

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