妹はモンスタースレイヤー
なんやかんやとあった2学期の始業式から、ようやく最初の週末がやってきた。
なんて濃い一週間だったんだろう……っていうか、えっ、まだ一週間しかたってないの!?
嘘だろ……もう3週間くらいたってる気がしてたよ……。
「おにぃ! 休みだからっていつまで寝てんの! お昼食べちゃってってお母さん言ってるよ!?」
「ひまー……俺はもうだめだよ……人生に疲れ果てた……」
「もうっ、またバカな事言って! 今度は何したの! 鈴七ちゃんにもフラれちゃったの!?」
「ちゃ、ちゃうわ! そんなことないし!!」
「ふーん、さっさと飽きられちゃえばいいのに」
「ひまはほんと、お兄ちゃんに対して辛辣だねぇ……」
昔はお兄ちゃんお兄ちゃん、って俺の後ろを追っかけてたのに。
一体いつから、こんなにツンケンした妹になってしまったのか。
お兄ちゃんは悲しいよ……。
「ふんだ! 早く起きないとお昼ご飯片づけちゃうんだから! おにぃのばーか!」
乱暴に部屋のドアを閉め、出て行く日向咲……ほんと、どうしてあんなになっちゃったんだろうなぁ……。
昔を思い出してみるも、仲違いするような決定的なケンカはなかったように思う。
いや、一回だけ……その前後で心春と日向咲が、ケンカしてたようなしてなかったような?
「うーん、わからん……」
まぁ、考えてもわかんないことは、考えるだけ無駄だよね、うん。
* * *
さて、お昼も食べ終わったし、今日はこれから何をしようか……。
休日ともなると普通の高校生なら色々とやる事があるんだろうけど、あいにく今日の俺には予定がまったくなく、仕方なくリビングのソファーでごろ寝をしていた。
明日は蓮見さんと出かける予定なんで、出来れば今日は一日、ごろ寝をしたいところではある。
かといって、一日を無為に過ごしてもいいのかというと、それもどうなんだ……うーん。
あれっ、そもそも俺って、一人のときって何してたんだっけ?
夏休み……の間は……何もしてなかったな、うん。
なにせ、無気力な毎日をすごしてたからね! 思い出すだけでなんと勿体無い時間を過ごしたんだろうと思うよ、まったく。
それ以前は……なんやかんやいいつつ、心春とどっかに行く事が多かったけど……どうだろう?
今は、なんとなく心春を誘いづらい。
どうしても、蓮見さんの顔がチラついてしまうからだ。
さて、どうするべきか……。
「おにぃ、今暇?」
「おう、暇だぞーひま……あ、べつに今のはギャグじゃないからな!?」
「有罪!」
あまりにも理不尽な日向咲の応対に、全俺が泣いた。ところで……。
「なんか用か?」
「んー、別に用って程じゃないんだけど……暇ならちょっと、手伝って欲しいなって」
「珍しいな、お前から声かけてくるなんて……なんの手伝いだ?」
「ん……おにぃ、このゲームやってたでしょ?」
「ああ、これかぁ」
そう言ってひまが持ってきたのは、モンスタースレイヤー、通称モンスレだった。
このシリーズは初代から数えてすでに10年以上の歴史を誇る大人気狩猟ゲームで、俺や心春ももちろん大ハマりし、夜通し遊び倒したほどの大人気ゲームである。
夏休み前に新作が発売され、心春とも遊び倒そう! と思っていたんだが……結局、オンラインでちょっと遊んだくらいでそこまでやれてないんだよなぁ。
「あれ、ひまもやってたっけそれ?」
「んーん、夏休み前にやろっかなって買ったんだけど難しくて」
「へぇ……前は心春と三人でやろうぜ、って言っても買わなかったのに、なんの心境の変化だ?」
「な、なんでもいいでしょ! 友達もやってたから、ちょっとやってみたくなったの!」
「ふーん……ま、いいけど。 ちょっと待ってな、取ってくるから」
「あ、ねぇ、おにぃの部屋でやってもいい?」
「ん? ああ、別にいいけど」
「やったっ、ジュース、持って行くから先行ってておにぃ!」
「おー、さんきゅーひま」
ほんと、なんの心境の変化だ?
なんだかよくわからないけど、妹と遊ぶことに否やはない。
なんやかんや言っても、可愛い妹だしね、ひまも。
「おにぃ! 持ってきたよー! さぁやろうやろう!」
「っていっても、俺もあんまやってないぞ?」
「あ、そうなんだ……今どのへんなの? 」
「上位クエストの最後のボス倒したとこだから、ようやくマスタークラス、ってとこだな」
「え、上位のさらに上があんの!?」
「あるよ、むしろそこからが本当のゲームの始まりだぞ? それまではチュートリアルだぞ?」
「うえー……ひま、もう上位でいっぱいいっぱいなんだけど……」
そういいながら、ものすごーく嫌そうな顔をするが……ふふふ、わかってない、わかってないなひまよ。
装備が揃い出してくると、どんなに楽しくなってくるか!
ちょうどいい、今日は暇だし、ひまにはモンスレの面白さを理解してもらおう!
ひまだけに。
「おにぃ、今しょーもないこと考えたでしょ」
「カンガエテマセンヨ?」
「ひまの目を見て言える?」
「何も考えてない……信じてくれ、ひま」
「おにぃのうそつき! 絶対バカなこと考えてた顔だこれ!」
なぜバレた。
「うそつきおにぃは、罰として今日一日、ひまの相手してよね!」
「おう、いいぞー、今日はとことん付き合ってやる」
「ふふーん、朝まで付き合ってもらっちゃおっかなー!」
「朝までは勘弁してください」
明日、死んでしまいますから!
「……なに、明日、また心春ちゃん?」
「いや、明日は蓮見さん」
「ふーん……ふーーーーーーーーん……」
あれっ、さっきまで機嫌よさそうだったのに、また機嫌が急降下してるぞ?
……なんで?
「ふんだ、おにぃのばーか、ほらさっさとやろうよ」
「お、おう……最初は何狩りにいく? な、なんでもいいぞ?」
「じゃあこいつ、ヤバメジョー狩ってきてよ」
「おーいいぞ……狩って来て?」
「ひま、おにぃが狩ってる間に鉱石とか掘ってくるから」
「ただの寄生じゃねーか!」
「あ、ハチミツちょうだい、500個くらい」
「ねぇよそんなに! まだ増やせてねぇよ!!」
もうやだこの妹……!
「ふーんだ、おにぃはひまのおにぃなんだから……!」
「なんか言ったか、ひまー?」
「何も言ってない! ほら、早く倒してきてよ! 5分以内!」
「理不尽っ!!」
ほんともうやだ、この妹……!
まぁ、結局。
最後の方はひまも機嫌を直して、きゃーきゃー言いながら楽しんでくれたんでよしとしようか。
問題は、ひまがモンスレにドはまりしたことなんだが……。
いや、楽しいのはわかる、わかるんだけどね?
「ひまー、そろそろ寝ないと、明日しんどいぞー?」
「わかってる! わかってるけどあいつの素材あと1個で武器が強化できるの! だからあと一回!」
「それ、レア素材だからあと1回なんかじゃ出ないよ……」
「出なかったらもう一回やればいいでしょー!?」
うう、睡眠時間がどんどん削られていく……辛い……!




