朝の通学風景:蓮見鈴七の場合 (前)
朝、カーテンの隙間から射し込む光で目が覚めた。
今日もいい天気だ、朝は少し気温も下がってきて少し肌寒いね。
はー、でもこのくらいの気温が、一番気持ちよく寝られるんだよなぁ……目覚ましが鳴るまでもう少しあるから、二度寝と洒落込みましょうかね……。
「おはようございます天方くん、今日は私と学校へ行く日ですよ?」
あれ、おかしいな。
蓮見さんの声が聞こえるぞ……って!
「……なんで俺の部屋に蓮見さんがいるの?」
「え? なんでって……天方くんを起こしに来たから、ですかね?」
「なんかもうほんとナチュラルに俺の部屋に来るようになったね!?」
あれ、おかしいなぁ。
蓮見さんの日のときは、途中で待ち合わせしてから学校へ行こう!
って話になってたはずなのに、どうして待ち合わせ場所じゃなくて俺の部屋にいるのかな?
「ふふふ、どうしても早く天方くんに会いたくなって、少し早めに出てしまいました!」
「早すぎるって問題じゃねーぞ!」
「まぁまぁ、些細な問題ですよ」
「些細を辞典で調べてきて下さいお願いします」
ささい【些細】
(取るに足りないほど)細かい、またはわずかなこと。
さて、1時間は些細かな?
「細かい男の子は女子にモテませんよ? あ、でも私は天方くんが好きですから、問題ないですね! 解決!!」
「問題しかない……!」
「さて、それではおはようのキスを……」
「しないよ!? なんでナチュラルにキスしようとしてるの!?」
「ロスじゃ日常茶飯事だぜ!」
「ここ日本ですから!」
「ふふふ、よいではないかよいではないか……」
近い近い近い! 蓮見さんの顔が近い! あっ、蓮見さんって睫毛すげー長い……って違う!
このままじゃ、なし崩しでまた蓮見さんに唇を奪われてしまう……!
「だめ……だって!」
「きゃっ……!」
無理な体勢から逃れようとしたのが悪かったのか、それとも、これも狙っていたのか。
今となっては、蓮見さん以外には誰もわからない。
ただ、確実に言えるのは……
「あ……っ」
「天方くん……」
俺の下に、押し倒されるような格好の蓮見さんが、ベッドに横たわっている光景で。
まるで、側から見たら俺が蓮見さんに襲いかかっているようにしか見えないわけで……。
キラキラと輝く蓮見さんの瞳が余りにも綺麗で、思わず見惚れてしまったのも仕方ないと思うんだ。
瞳は宝石のように輝いて、薔薇色に染まる頬も、艶やかな唇も、つい吸い付きたく……。
「いいですよ、天方くん……」
「は、蓮見さん……」
すっと瞳を閉じた蓮見さんに、無意識に顔を寄せて……
「ちょっとおにぃ! 朝からうるさいん……だけど……」
「えっ」
「あっ」
あれー? なんかこんな光景、最近も見た気がするぞ?
確か、数日ほど前に……
「お、お母さーーん!! おにぃが! おにぃが朝から女の子とえっちなことしてるーー!!」
「ひ、ひま! 違うんだひま! ひまーー!!」
何このテンプレ展開!
こんなお約束求めてないんですけど!?
「天方くんのおうちって、朝からほんと賑やかですね!」
「誰のせいだと思ってんの!?」
「賑やかなおうちって、私いいと思います!」
「ああ、そうね……ってそれよりひまー! 違うんだひまーー!!」
ひまーーー!!
* * *
「おにぃの不純異性交遊が酷すぎる件について」
「誤解だって! ほんと、俺何にもやってないから!!」
「とか言いつつ、鈴七ちゃんを押し倒していたじゃん!」
「事故です! 本当なんです信じてください!!」
実際、本当に事故だったんだから俺は何も悪くないし!
蓮見さんだってあれは事故だってわかってるんだからきっと俺の味方をしてくれるはずだし!
そう願いを込めて目線をやると、「わかってる」といわんばかりに首を縦に振ってくれた。
信じてる……信じてるよ蓮見さん!
今回ばっかりは、俺が何を考えてるかわかってくれる、って!
「鈴七ちゃんはどう思う?」
「押し倒されてキスされそうになりました♡」
「蓮見さん!?」
「ギルティ!」
「ひまー!?」
やっぱりダメだったーー!?
ていうか、この状態でも俺の考えてることがわからないってダメじゃんっ!
えっ、始業式の日のあれはなんだったの? まぐれ?
なんで心春にフラれたのがすぐわかったのにこっちがわからないかなぁ!?
「おにぃのバカ! すけべ! 最低の下半身脳男ー!」
うわーんと泣きながら、ひまが走っていく。
しっかり通学用の鞄を持っていくあたり、ちゃっかりしてるよ……。
「さて、そろそろ俺たちも行こうか」
「えっ、あれっ? 日向咲ちゃんはいいの?」
「だってあいつ、学校行っちゃったしなぁ」
「ええ……そんなんでいいんだ……」
いいのいいの、どうせあいつは、帰ってきたらもうコロッと忘れて機嫌治してるし。
下手したら、三歩くらい歩いたら忘れてるんじゃないだろうか?
ひまは鳥頭なところがあるからな……。
そんなところも愛すべき妹ではあるんだけども。
まぁ、なんだ。
帰りに、アイスでも買って帰ってやるか……。
「ところで蓮見さん」
「はい、なんでしょうか?」
「朝、俺の部屋に忍び込むのは禁止!」
「な、なんでですか!?」
「なんでもだよ!」
俺の爽やかな朝を返して……!




