おねーちゃんは何でも知っている!
「おはよう! 今日は心春おねーちゃんと学校行く日だよハル!」
「わかってるよ……てか誰がお姉ちゃんだ、ちびっこ」
「ふっふっふー! ハルの誕生日は1月! ボクは12月! ボクのほうがお姉ちゃんなのは、確定的に明らか!」
「たった一ヶ月の差で偉そうなロリっ子だな」
「ロリっ子言うなし!」
「はいはい、さっさと学校行くぞー」
「あっ! 待ってよハル!」
むくれる心春を置いて、さっさと学校へ行こうとすると、小走りで追いかけてきた。
隣に並び、へらっと笑う心春が……う……相変わらず可愛いなぁ畜生!
さて、ここ数日のところ、いつも隣にいた蓮見さんが、今日はいない事にお気づきだろうか?
いや、話してないだけで実は隣にいます、なんて事はないです、はい。
昨日、蓮見さんと心春の間で、あるルールが制定された。
俺にも関わる、俺たち三人のルール……いや、三人というか、俺は全く意見聞かれなかったんだけど。
俺の意思、全く確認されなかったんだけども!!
あれ、俺当事者じゃないの……?
うん、まぁ、それはそれとして。
決められたルールは、
1.朝と夕方の登下校は、朝心春、夕蓮見さん、朝蓮見さん、夕心春、と交互になるようにする。
2.お弁当は、朝担当の方が作る。
3.休日のデートは土日のどちらか1日、必ず日葵が一日は休めるようにすること。
4.最終的にどちらが選ばれても恨みっこなし。
以上の4点となる。
なお、下校時の寄り道は可とする。
はい、俺の自由な時間が一日しかありません、本当にありがとうございます。
いや、1日休みがあるしまだマシか……?
そもそも夏休み前は、休日も心春と遊びに行ってたし、あんまり変わんないか。
そこに蓮見さんが加わっただけだな! うん!
「どったのハル?」
「いやー……なんかワケわかんないことになったなーって」
「まーそれはボクらも思ってることだし……なんでこーなったのかなーって」
「全部心春のせいだ……!」
「は、ハルだって悪いんだし! ボクだけのせいじゃないし!」
えー、俺なんも悪くなくない?
俺が悪いところがあるとすれば……ん? 俺、悪いところあるか?
「ね、ね、ハル、手つないでもいい? いいよね?」
「……聞きながら手ぇ握るの、やめてくんない? それもう、聞いた意味ないよね?」
「へへっ、ハルの手は大っきいなー!」
「人の話聞いてねーな!? はぁ……まぁ、別にいいけど……」
こいつが突拍子もなく手をつなごー! なんて言うのは、いつものことだ。
中学校の時だってそうだったし、なんなら高校に入ってからも、休日はそんな感じで遊びに出かけていた。
だからこそ、勘違いして告白なんてしてしまったわけで……!
「ぬおおお……!!」
「ど、どしたのハル!?」
「いや、自分の過去を思い出して、悶絶してた……どうしてあんな事を……」
「ふむふむ? 恥の多い生涯を送って来ましたってやつだね」
「そうだねだいたいは心春のせいだね」
「なにをー!」
俺が恥ずかしい思いをするのは、だいたいいつも心春がらみだからだよ!
忘れてないからな、
最近では、そこに蓮見さんも入ったけど。
どんどん恥が積み上がっていく……!
「……へへっ」
「なんだよ」
「んーん! ハルと一緒に歩くの、楽しいなって!」
「さよかー」
「さよだよー」
心春が握った手をにぎにぎ、と揉んでくるので、俺も同じように心春の手を軽くにぎにぎとしてやると、心春がくすぐったそうに目を細めた。
珍しい反応だなぁ……と思ってよく見ると、心春が少し頬を染めているのがわかった。
これは、なかなか珍しい反応だ……というか、こんな心春は初めて見たかもしれない。
「なんだよ心春、顔赤いぞ」
「ハルだって、顔赤くなってるじゃん」
「なってねーし、適当言うなよ」
「ボクだってなってねーし、適当言うなよ」
「真似すんな」
「真似してないしー!」
なにが楽しいのか、穏やかな笑みでくすくすと笑う心春の表情が、なんとなくくすぐったい。
「ボクさ、多分、ハルと恋人ってやつになったら何かが変わっちゃいそう、ってビビってたんだよね」
「……だからって、いつまでもずっと同じ関係……なんていられないだろ?」
「うん、蓮見さんがハルに告白するまで、そんな事にも気付かなかった」
いつかは心春も、他に好きな男ができるかもしれないし、俺にもそんな時が来るかもしれない。
そうなると、幼馴染なんて二の次になってしまうのはわかっている。
だからこそ、俺は心春との関係を、一歩進めたい、と思ったんだから。
「あーあ、まさか蓮見さんなんて強力なライバルが現れるなんてなー」
「ほぼ勝ち確だったところから落ちていくのは、いっそ芸術的でもあるな」
「もー! ハルがそんな事言う!?」
「悪い、悪い」
……俺は、心春が好きだ。
正直、今でも好き……だと思う。
でも、そうするとどうしても蓮見さんの横顔が浮かんでは消えて……俺は今、どうなってるんだろう?
本当に心春だけが好きなのか?
「大丈夫だよ、ハル!」
「ん?」
「おねーちゃんはわかってる、わかってるからね、ハルの気持ち!」
「……そか」
「うん! おねーちゃんとちゅーしたいんでしょ! わかってる! わかってるから!」
「違うわ全然わかってねーわ! お前も蓮見さんもわざとやってんの!?」
蓮見さんも心春も、ほんっとダメだこいつら!
てか心春、お前そんなキャラだったか!? なんかタガが外れてんぞ!!
心春の頭を押さえて一定距離以上に接近できないようにしつつ、学校まで行くのは重労働だった、と言う事はここに記しておきたい……。
え、これから隔日でこれと登校するの!?
か、勘弁してくれ……!




