もうマジ無理学校辞める……
「柾人……俺もうマジ無理学校辞める……」
「何言ってんだよ、今、全1年男子の羨望の的なこの幸せ二股男が!」
「俺から積極的に二股掛けにいった覚えねぇよ……」
授業と授業の合間の休憩時間。
俺は、蓮見さんと心春から逃げ出し、男子トイレへと駆け込んでいた。
もはやこの学校内に俺の安息の地は、ここ、男子トイレしかない。
まさかいじめでもなんでもないのに、男子トイレに篭ることになろうとは……!
「どうして……どうしてこんなことに……」
頭を抱えて項垂れる俺を、柾人が哀れみを含んだ目で見つめてくる。
友人にこんな目をさせていると思うと、辛い。
「それを聞きたいのはこっちだよ、何があったらこうなるんだ?」
「俺は……俺は夏休み前に、心春に告白しただけなんだ本当なんだ信じてくれ!」
「それだけでこんなことになるわけありませんね本当にありがとうございます」
「なったんだよ!」
ああ、頭が痛い。
何が頭痛いって、あの二人が張り合うように俺に構ってくるから、どんどんやることがエスカレートしていっていることだ。
いやまぁ、スタートがべろちゅーだった時点で、もうぶっ飛んでいるわけですが!
「転校とかできないかなぁ……」
「着いて来そうだなあの二人なら……そして新たな学校でもハーレムを」
「怖いから止めて」
「まぁ、せっかくだから楽しめよ現状を! ……三枝さんも蓮見さんも、いい子だと思うぞ?」
「それはわかってるよ……」
わかってるから、頭痛いんだよ。
俺は一人しかいないんだよ、どっちも選べないんだよ!
「辛い……」
「朝から、ハルが休み時間になるとすぐ消える件について」
「そうですね、以前はここまでうろうろとしていなかったはずですが」
教室に帰ると、早速二人に絡まれた。
おちおちトイレにも行ってらんないぜー……。
「生理現象だよ生理現象、こればっかりは仕方ないだろ?」
「そかそか、まぁそれなら仕方ないよねー!」
心春は単純で助かる。
蓮見さんは……ちょっと疑ってるかな?
かといって、男子トイレまで着いてくることはできないし、渋々って感じか。
着いてこないよね?
「お昼休みは逃がしませんよ、天方くん?」
逃げたい。
* * *
「お昼だよーハル! ボクのお弁当食べようね!」
「お昼ですね天方くん、私のお弁当を食べましょうね!」
「ボクのだよね!」
「私のですよね?」
「なにをー!」
「なんですか」
「はいはい、ケンカはやめようねマジで……二つとも食べるからさ……」
今日のお弁当は二人とも、昨日の反省からか通常サイズのものだった。
ただし中に詰まったおかずは昨日と遜色なく……俺の好物ばっかりだ!
……まぁ、それはいいとして。
「なぁ二人とも、これは提案なんだけど」
「うん?」
「なんでしょう」
「お弁当、もし今後も作ってくれる……って言うんだったら、せめて交互にしてもらいたいです……」
毎日お弁当2個も食べてたら、1ヶ月もしたら体重が凄いことになりそうだし。
お弁当を作ってもらえるのは本当に嬉しいんだよ! 本当に!
はぁ、暫くの間は、俺も気をつけて運動しないとやばそうだ……。
「まぁ……そうですよね、男の子とはいえ、お弁当二つは食べ過ぎですよね」
わかってもらえましたか……!
そうなんです食べすぎなんですよ!
カロリー計算してみてください、間違いなくデブまっしぐらですよ!
俺もトレーニングジムで、ムキムキマッチョなお兄さんに指示を仰がなければ……!
「それでは、明日からは私が作ってきますので、三枝さんは作らなくてもいいですよ?」
「ちょっと! ハルはせめて交互に、って言ってたんだけど!」
「いえいえ、やはりここは彼女の私が作ってくるのが妥当かと」
「違うでしょ! まだそんなんじゃないでしょ!?」
「えっ、もう似たようなものかと……」
「ちーーがーーうーーしーー!」
「はいはい二人とも、ケンカはやめようね……3回目はないからな!?」
「「はい、すいません……」」
しゅんとなる蓮見さんと心春……には悪いけど、心を鬼にして対応しなければ!
ごめんなさい哀川さん……うるさくしてごめんなさい……!
「それにしても、交互……交互ですか……」
「蓮見さん?」
「いいかもしれませんね、交互」
「え? どゆこと?」
何に気がついたのか、蓮見さんがうん、うん、と一人で納得してるんだけど、こちらにも説明して欲しい。
「いえ、今後は私と三枝さん、交互にアピールするようにした方がいいのでは、と思いまして」
「ん? なんで??」
「なんだか私と三枝さん……その……言いあいばっかりしてて、天方くんの迷惑になっているのではと」
うん、まぁ、そうですね。
二人が大騒ぎしてくれるせいで、大注目されてますからね、俺たち。
そのうち、不純異性交遊とかで厳重注意とか来そうで怖いですよ俺は。
「このまま、いつまでも二人で言い合いをしていても、不毛だと思いませんか?」
「確かに……! というか、蓮見さんとばっかり話しててハルとあんまり話してない気がする!!」
「はぁ……本末転倒ですよね本当に……一番落とさなければいけない人が、ほったらかしなんですから」
俺としては、そのまま二人が仲良くなって、俺のことを忘れてくれても構わんのだが?
というか多分、それが一番の平和的解決な気がするよ? 本当に。
「私も三枝さんも引く気はない……となると、妥協案を模索するしかありませんよね?」
「蓮見さんがハルを諦めるって選択肢!」
「はぁ……あると思いますか?」
「うーん……ないかな!」
ないんだ……。
心春には一回フラれたとは言え、長い付き合いだから情がわくのはわかるけど、蓮見さんは本当にわからん!
ほんと、俺の何がいいんだろうね?
「というわけで、朝夕とお弁当を交互に担当、休日も交互に、これでどうですか?」
「ボクはいいよ! へへへ、楽しみだねーハル! デートしようね!」
「あの、そこに俺の意思が介在する余地は……」
「それでは早速、明日の割り振りを話し合いましょう」
「おっけー! ってかもうじゃんけんでよくない?」
「あの……」
ああ、俺の予定が俺のいないところで決められていく。
まぁでも……今みたいに、二人で喧嘩されることを考えたらまだマシ……なんだろうか?
どう思う、哀川さん?
「わたしに話しかけないでください天方くんに関わると妊娠してしまいます」
「しねぇよ!!」
やめて! 絶対零度の視線やめて!
俺、そういうので気持ちよくならない人なんです!!
天方が3人目を引っ掛けに行ったぞじゃないよ引っ掛けたつもりなんて微塵もねーよ!
「天方くん……浮気ですか?」
「ハル……ボクたちだけじゃ我慢できないなんて、心春おねーちゃんは哀しいぞ……?」
「誰がお姉ちゃんだロリっ子」
「なんだとー!」
平穏とは程遠い、騒がしい日常。
だけど俺は、そんな日々も悪くないと感じだしていた。
そう、あの日……後に「1-B 血の惨劇事件」と呼ばれる、あの事件が起こるまでは……。
「……哀川さん、変なモノローグ入れるの、やめてもらえます?」
「男女3人の修羅場とか血の匂いしか感じない」
「感じないよ!?」