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席替え

「1学期からずっとこの席だったが、そろそろ席替えをしようと思う!」


 それは、マッキー先生から垂らされた蜘蛛の糸。

 もしかすると、もはや変態と化した蓮見さんから離れられるかもしれない。

 いや、蓮見さんは美人さんだし、見てて面白いからいいんだよ。

 いいんだけど……急にき、キスとかしてくるからその……困る!


「これで蓮見さんとのお隣さんも終わりかな?」

「ふふっ、それはどうかなぁ?」


 ちらりと横をみると、そこには笑顔の蓮見さん。

 なんだ、この圧倒的な自信みなぎる笑顔は……!


「なんとなーくだけど、私はまた、天方くんのお隣さんになる気がするな」

「それはまた、どうして?」

「うーん……それが私と天方くんの運命? みたいな感じ?」

「運命って」


 なにその強制力。

 でもなぁ……俺にだって頭に響く声があるんだよ……運命に逆らえってな……!

 蓮見さんが運命だというのなら……俺は蓮見さんのお隣さんという運命に……抗ってみせる!!


 * * *



 さて。

 このクラスの人数は、全部で35人。

 横6列縦6列、廊下側一番後ろがあまり1席となる。

 これだけの人数がいれば、蓮見さんの隣になる可能性はかなり低い事がわかるだろう。


 蓮見さんの謎の自信は少々怖いが、俺は何の心配もしていない。

 むしろ、一番前のど真ん中なんかにならないか、という方が心配まである。

 あんな所になったら、おちおち転寝もできやしない。


「よーし、それじゃあ、左端の……桜本から順番に前に来て、札を引いていけー」


 俺が狙うのはもちろん、窓際端。

 もしくはその前、それもダメならば出来れば後ろから2列のどこかになりたい。


 ……おい、何チラチラこっち見てんだよ心春。

 そんなに気にしても、近くの席になるなんてまず無理だからな?

 というか、出来ればお前も近くの席に来て欲しくないんだけど。

 俺に平穏な学校生活を送らせてくれ……!



「よーし、全員引いたな……それじゃあ、見ていいぞー!」


 マッキー先生の一言で、一斉に全員が札を確認し、教室内のあちこちで悲喜こもごもな叫びが上がる。

 そして俺が引いたのは……。


「天方くんは席、どこでしたか?」

「ふっふっふっ、引いちゃったよー窓際奥の特等席!」

「やりましたね、おめでとうございます!」

「ありがとう、ありがとう……! これが運命……!」


 やはり……常に最善の札は、俺のところにくるようだぜ……!


「ちなみに私の席は、最後列の窓から2席目でした」

「えっ」

「ふふふっ、またお隣ですね、天方くん♡」

「えっ」

「やっぱり、運命ってあると思うんですよ私」

「えぇ……」


 マジですか蓮見さん。

 まさかまた、隣の席を引き当てるってどんだけ低い確率の持ってきてるんですかなんですかデスティニードローの使い手なんですか!

 ついつい、なんでですかと叫びたくなるがぐっと我慢する。


「また、よろしくお願いしますね天方くん♪」

「あ、はい、よろしくお願いします……」

「後は三枝さんが、どこの席になるかですが……なんとなく、近くになる気がするんですよね」

「やめて! 蓮見さんがそれ言うと、本当になりそうで怖いから!」


 これ以上、俺の席の周りにトラブルメーカーは必要ないんだよ!

 俺は出来れば平穏な学校生活を送りたいの!

 池下くんと松木くんからの突き刺さるような視線はいらないの!


 そんな風に考えていると、心春がとてとて、と足音がしそうな走り方で寄ってきた。

 えらくニコニコとしているが、よっぽどいい席だったんだろうか?

 窓際後ろは俺が押さえたから……あとは廊下側の一番後ろとかかな?


「ハルー! ハルは席、どこだったのー!?」

「ああ、心春……俺は窓際の一番後ろだったよ」

「へーっ! いい席じゃん! あ、私は窓際の、後ろから2席目だったよー!」


 窓際の後ろから2席目。

 それを聞いた俺は、思わず天を仰い、目を瞑ってしまった。


 ――――この世に、神はいない。


 俺はこの時、真理に至ったと思った。

 例えいたとしても、そいつはとんでもない嫌な奴だろう、と。

 きっとこの状況を見て、大笑いしているんだろうな、と!


 俺に何か恨みでもあるんですか神よ……!

 あれですか俺が正月も祝うしクリスマスも祝うしハロウィンだって楽しんじゃうのが悪いんですか!

 既にコスプレ祭りと化したハロウィン、今年も楽しみですね!



「やはり、こうなりましたか……」


 はぁ、と蓮見さんが溜息を零す。

 ほらー……ダメだって蓮見さん、迂闊な事言ったら!

 言ったとおりになってるじゃん!


「へっへーっ、ざーんねーんでしたー! ほらほら、蓮見さんはさっさと自分の席に帰らないとねー!」

「あら残念、私、今回も天方くんのお隣さんなんです」

「へっ?」

「心春、残念かもしれないが現実を見よう……俺も現実を見るから……」

「な、なんで……!?」


 なんでって、そんなの俺が言いたいよ!

 右隣に蓮見さん、目の前に心春……何これ、仕組まれたのかな?


「そうそう、今日も天方くんのためにお弁当を作ってきましたので、一緒に食べましょうね」

「あ! ボクもハルのために作ってきたんだー!」

「あのー、そんな毎日毎日悪いから、いいよ作らなくても」

「ふふっ、天方くんのためならこのくらい、なんともありませんよ?」

「そうそう! ボクは全然気にしないし!」


 いや気にするっつーの。

 ていうか、二つも弁当貰っても食いきれ……はするだろうけど、毎日はマジでキツい!


「三枝さんは遠慮というものを覚えた方がいいのでは? お弁当は私のもの一つで十分でしょう」

「いやいや、何いってるのさ! ハルの好みを一番知ってるのはボクなんだから、ボクが作るべきでしょ?」

「天方くんの好み? お義母様に今日、色々と聞いてきましたが?」

「ぐぎぎ……! おばさんだめだよ……一番教えちゃいけないよ……!」


 そしてまぁ、そんな話をしていると、やはりクラスメイトの視線が突き刺さるのがわかるわけで。

「ハーレム王だ……」「リア充爆発しろ」「天方くん、二人も侍らせてる……」「次は誰を……」

 やめてくれ、俺をそんな目で見ないでくれ……!

 斜め前の席になった哀川さんなんて、この光景にドン引きしてるんですけど!

 だ、大丈夫だよ、そんな怯えた目をしなくても俺は何もしないから!

 俺は!!



 蓮見さんと心春がきゃいきゃいと騒いでいるのを横目に見ながら、これからの学校生活、大変なことになるぞ、と、気を引き締めたのだった。



「とりあえずまずは……蓮見さんからだな……」

「はい? 私がどうかしましたか?」

「いや、なんでもない、こっちのことだから」

「??」


 まずは……蓮見さんの恋愛観を……正す!



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