蓮見さんの恋愛観はちょっとおかしい
「おはよう……」
教室に入ると、俺へと一斉に視線が集まった。
うう、居心地が悪い……。
「昨日は蓮見さんで今日は三枝さんって……天方くんって節操ないよね……」
「さすが二股男よねー!」
「夏休み明けに三枝さんが元気なかったのって、天方くんに襲われたかららしいよ!」
「きゃー! 私たちも気をつけないとねー!」
聞こえてるんです……全部聞こえてるんですからね?
俺も、傷つかないわけじゃないんです、勘弁してくださいマジで泣きそう。
登校拒否する時はみんなのせいにするからな!!
あと池下くんと松木くんは、俺を睨まないで下さい、君たちがバスケエリートなのにモテないのは俺のせいじゃありません。
そして先に登校した蓮見さんは……いつも通り、自分の席で静かに本を読んでいた。
その光景はいっそ神々しくもあり、そこだけ神聖な空気が流れている気すらする、の、だが……。
(今日はなんの本を読んでるんだろうなぁ……)
昨日聞いた、頭がおかしくなりそうな本のタイトルを聞いた後では、その光景も色あせると言うものである。
見えるようだ……蓮見さんの煩悩のオーラが……!
あまり近寄りたくないなぁと思うものの、俺の席は蓮見さんの隣だ。
そっと自分の席へ鞄を置くと、蓮見さんが顔を上げた。
「おはようございます天方くん、さっきぶりですね」
「おはよう蓮見さん、今日はなんの本を読んでるの?」
どうせまた、ロクでもない本なんだろうなぁ……。
「今、どうせロクでもない本読んでるんだろうなぁ、って思ったでしょ」
「うっ……な、なんでわかったの?」
「ふふふ、言ったじゃないですか、天方くんの考えてる事はお見通しって」
くすくすと綺麗な笑顔を見せてくれる蓮見さんに見蕩れ……るわけもなく。
嘘付け、全然見当違いなこと言う方が多いだろ、という想いをこめてジトーっとした目を向けてみるも、さすが蓮見さん、俺の考えは全く届いていないようだ……。
「今日読んでる本はこれです、『ヘタレ男子をその気にさせる10の方法』」
「何それそんな本あるの!?」
「あるんですよこれが……『キスをしてもダメ! 同衾もダメ! そんな彼を落す10の方法、教えます!』 さて、思うところはありますか?」
「ありません」
というか、そんなピンポイントな本誰が読むんだよ。
需要がなさすぎるわ。
「はぁ……まぁ、今日は私もヘタれたので、天方くんの事をとやかく言えないんですよね」
「あれでヘタれてるんだ……」
「花七お姉さんは、毎朝全裸で同衾していたらしいんですけど、私にはまだ無理でした……!」
「毎朝!?」
頭おかしいんじゃないのか叔母さん!
蓮見さんも、そんなの真似しなくてもいいよ! やられても困るから!
「蓮見さん、これは大事なことだから先に言っておこうと思うんだ」
「はい、なんでしょう? 私たちの将来に関わることですか? 結婚式はこじんまりとした教会で、親族だけで行いたいですね」
「うん、それは蓮見さんの人生設計として、心のうちにとどめておいてもらえるかな?」
「ふふっ、はぁい」
うーん、さすが蓮見さん。
この分だと、子どもは何人欲しいとかいいそうで怖い。
そして怖いと言えば。
「それでね蓮見さん、お願いなんだけど……」
「なんでしょう? あっ! 次の休日なら、予定はありませんよ!」
「うん、そうじゃなくて今日の朝の事なんだけど」
「朝」
「そう、お願いだから俺のベッドに潜り込むの、やめてくれないかな!?」
「どうしてそんなに小声なんですか?」
「小声にもなるわい!」
同級生の女の子、しかも美少女と言えるレベルの蓮見さんが、朝起きたら一緒に寝てました! しかも下着姿で!!
なんて今誰かに聞かれたら、もう変態間違いなしです本当にありがとうございます。
いやその、蓮見さんはすっごく柔らかくていい匂いがして、とにかく凄かったけど!
とっても幸せでしたありがとうございます!!
「じゃあ、私もパジャマならいいですか?」
「そういう問題じゃありません!」
「そ、そんな……なら代わりに、一緒にお風呂とか……」
「なんでそれが許されると思っちゃったのかな?」
「花七お姉さんは、好きな人を籠絡するために毎日やってたらしいですよ?」
「参考にする人間違えてるよ! あとその本も捨てちまえ!!」
どうして蓮見さんはこうなんだろう。
せっかくこんなにステキな女性なのに……見た目は。
もしかすると。
俺が蓮見さんと出会ったのは、この間違えまくった彼女の恋愛観をまともにするためなのかもしれない……。
どう考えても、普通じゃない蓮見さん。
見た目は綺麗だし、頭もいい、ちょっと冷たく見えるけど本当はお茶目で可愛い蓮見さん。
唯一捻じ曲がっておかしくなっている彼女の恋愛観を、俺は正すことができるのだろうか……?
「あ、天方くん……そんなに情熱的に見つめられると……その……」
「あっ! ご、ごめ……んぐっ!?」
思わず目を逸らした俺の頭が蓮見さんの両手に固定され、またも唇を奪われ……って舌! 何その動き!? い、いやぁぁぁ!!!
「んー……っ……はぁっ、我慢、できなくなってしまいます♡」
「な、なんで、なんでそんなに簡単にキスするんですかー!!」
「なんでって……好きな人とのキスって気持ちいいですよね♡」
「もうやだこの人……」
頬を薔薇色に染め、全く悪びれる様子のない蓮見さん。
もちろん教室内からは注目の的になっており……。
「は、蓮見さん! なにうらやま……いやいや! ボクのハルに何してんの!?」
「何、といわれましても……大人のキス?」
「ぐぎぎ……ボクだってまだそんなえっちぃのしてないのに……!」
「ふっ、三枝さんは相変わらず、圧倒的に速さが足りませんね」
「なにをー!」
「なんですか」
「うーーっ! ハル! ボクとも! ボクとも大人のキスー!」
「やらねぇ! ていうか落ち着けここ教室ー!!」
はぁ……ほんともうやだ……。




