もう一回好きになって!
「なんか話せよ、心春」
「あー……うん、そだねー……」
と、話をしようと促しても、心春がなかなか話し出さない。
かといってこちらから話しかけようにも、俺も何を話していいのかわからない。
結果、気まずい沈黙が二人の間に下りるわけで……。
「はー……話すことないんだったら、先行ってもいいか?」
「!? ま、待ってよハル!」
「だったら、なんか話してくれよ、いたたまれないんだよこの空気!」
「う、うん」
と言っても、お前は話し出さないんだよなぁ?
ほんと、何をしたいんだよ心春。
「……へへへっ、なんだろね? 夏休みまでは普通にハルと話せたんだけどなー!」
「それは暗に、俺が悪いとおっしゃられていますか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……ね?」
ね、っていわれても普通に話せなくなったのって、俺が告白したからですよね?
夏休み前に原因があるとすれば、俺が告白したからですよね!?
「悪かったな、告白なんかして」
「別に、悪いなんて思ってないし……でもそのあと、一回もLINEも何もなかったのはショックだったなー!」
「心春も一回も送ってこなかったじゃん」
「ボクはハルからのお誘い待ってたの!」
乙女心がわかってない! って言われても分かるわけないと思うんだ。
むしろ、この場合。
「心春が男心わかってないんだよ! 連絡? 出来るわけないだろ!」
「なんでさ! 夏休みだって何しようって色々考えてたのに!」
「俺だって考えてたわ! 心春の浴衣とか楽しみにしてたわ!!」
「新しい水着買ってたのに、一回も着ないでもう秋なのはハルのせいだし!」
「いいや、心春が悪い!」
「なにをー!!」
ぐぬぬー! とガンを飛ばしあっていると……ぷっ、と、心春が噴き出した。
「なんだよ」
「ううん、やっぱりハルといるのは楽しいなって……」
「なんだよ、調子狂うな」
「へへっ」
そう笑いながらも、心春の目の端に涙が浮いているのが見えた。
なんでそこでお前が泣くの?
泣きたいの俺なんだけど! 色んな意味で!
「ボク、夏休み中ずっと寂しかったんだぁ……ハルがいなくて」
「だからって泣くほどかよ」
「だってハルがこーんなちっちゃい時から一緒だったんだよ? 寂しくもなるよ」
そう言いながら、自分の膝上あたりを指差す心春。
うーん、ふとももがまぶしい。
「そんなちっちゃかった時期なんてねぇよ、お前は……あんま変わんないな……」
「こ、これでも身長伸びてるし! まだまだ成長期だし!!」
「高校生の時点でそれじゃぁ、先が思いやられるなロリっ子」
「じゃあそんなボクに告白したハルはロリコンって事だね」
「バーカ、俺は心春が好きだったの」
たとえ心春が高身長美少女でも好きになったはずだ。
……多分。
うん、好きになった好きになった、俺はロリコンじゃない、イエスロリータ、ノータッチ。
「ハルは……今でもボクのこと、好きでいてくれてる?」
「それは……」
正直、わからない。
夏休み前まであった、燃え盛るような勢いは、今の自分にはないかもしれない。
ただ、心春のことが嫌いか? と言われたら、そんな事はない、と間違いなく言える。
ただ好きか、と言われると……。
それを考えた時、自分の中にもう一人の少女の姿が浮かんだのがわかった。
くそ、俺マジでチョロすぎんだろ……!
「ううん、言わなくてもいい、わかってるんだぁ……」
「心春」
「こればっかりはボクが悪いよね。 ボクが、ハルから逃げたのが……へへっ、幼馴染って、面倒くさいね!」
心春にかける言葉が見つからなかった。
かけるべき言葉も、思いつかない。
「でもねハル! 一回好きになったってことは、また好きになる可能性高いと思うんだ!」
少し前に出た心春が、くるりとこちらを振り返る。
その顔は先程までの哀しそうな顔ではなく、決意に溢れていて……。
「もう一回言うよ! ボクはハルが好き! 大好きだー!」
「お、おいお前、いきなり何叫んでんだよ!」
ここ、通学路だから!
周り見て周り! うちの生徒もほかの学校の連中も、なんならサラリーマンも歩いてるから!
めっちゃギョッとしてこっち見てるから!!
「ぽっと出の蓮見さんなんかに負けるもんか! 絶対ボクの方が、ハルの事好きだし! だから!!」
「えっ」
ぱっと、心春が飛びついて来たのに、周りを見回していた俺は気がつかなかった。
ぐっと首に手を回し、くちびるを押し付けられ……
「って心春! またお前!!」
「へへーっ、蓮見さんだけ二回もしてるなんて、ずっこいよね! これでおあいこおあいこ!」
「だからってお前、昨日も今日も……!」
「うーん……これは……ミントの味? ハルの家ってミントの歯磨き粉だっけ」
「話をはぐらかすなー!」
「きゃー! 襲われるー♪」
ぱたぱたと走って俺から離れる心春を、追いかける気力はすでになかった。
もう朝から二人に振り回されて、いっぱいいっぱいだよ!
「ねーハル!」
「なんだよ!」
「ボク、もう一回ハルに好きになってもらえるよう頑張るから!」
「だから、ハルもボクのこと、もう一回、好きになってね!」




