二股どころか三股男とか……!
「は、蓮見さんは、とりあえず服着て!」
目のやり場がないから、ほんとに!
「はぁい、わかりました……あ、さっきの写真は天方くんにも送りますね?」
「送らなくていいよ!?」
「待ち受けにしてもいいんですよ?」
「しないよ! 蓮見さんもしないでよ!?」
「えー……」
「えーじゃないよ!!」
あんな写真が見られたら、何を言われるかわかったもんじゃない!
ただでさえ昨日一昨日で無駄に目立ってるんだから、これ以上目立ちたくないよ……!
渋々と制服を着ていく蓮見さんを部屋に置いて……おきたくはないけど……!
今の蓮見さんを置いておくと、なんか怖いから一人にしたくないけど!!
まずは勘違いをして走り去ったひまをなんとかしないとけない。
その後は母さんに、蓮見さんについて問い詰めなければ……!
* * *
「でねでね、おにぃの部屋に下着姿の女の人が……!」
「あらあら、日葵ったら朝からお盛んねぇ」
「ちょっとお母さん! あんな綺麗な人がおにぃの相手するわけないでしょ!? どっかのお店から来た人だよ絶対!」
おい日向咲……お前、お兄ちゃんの事を何だと思ってるんだ。
「だっておにぃの相手してくれてた女の子って、今までも心春ちゃんしかいなかったじゃんっ!」
ぐうの音も出ない。
くそっ、ひまのやつ……兄の事をよくわかってるじゃないか……!
「あらあら、それも今日からは鈴七ちゃんも来てくれたから二人になったわねー」
「ま、心春ちゃんにはフラれたみたいだけどねー!」
「はー……心春ちゃんがダメならあの子は一生独り身かと思ったけど……安心したわ……」
「えー……あたしはなんか……心春ちゃんにフラれたからってすぐ……こんな……」
「うふふ、日向咲は本当、お兄ちゃんが好きねぇ?」
「うえっ!? す、好きじゃないし! 全然好きとかないし!? キモいだけだし!?」
それにしても、朝からとんでもなく失礼な会話だなぁ……!
ふふふ、なんだかもうどっと疲れが押し寄せてくるよ。
もう今日の学校、休んでいいんじゃないかな?
「実の息子によくそんな酷いこと言えるな母さん……それにひまも」
「あら日葵、おはよう」
「あ! 変態おにぃ!」
「誰が変態だ」
くそっ、俺の事をいったいなんだと思ってるんだ。
ってそんなことよりも!
「母さん! なんで蓮見さんが俺の部屋にいるんだよ!」
「なんでって、ついさっき普通に訪ねてこられたからよ?」
「どうしてそれで家に上げちゃうんですか……どうして……!」
「鈴七ちゃん、礼儀正しいいい子ねー!」
ダメだこの母親……早く何とかしないと!
なんか怪しい宗教とか、そういうのちょっとは疑わなかったんだろうか?
疑わなかったから、俺の部屋で下着姿でいたんだろうけども!
「でもね日葵、母さん、二股はどうかと思うな」
「そうだよおにぃ! 心春ちゃんにフラれたとたん違う女の子なんて見損なったよ!」
「あらあら~、日向咲もいるから三股ね?」
「お母さん!?」
「うふふ、日向咲は大好きなお兄ちゃんを突然現れた鈴七ちゃんに取られそうで、怒ってるのよねー?」
「うう~~~~っ!」
はぁ、朝から元気なことで……てか母さん、浮かれすぎだろ!
いやまぁ、確かに蓮見さんは美人だし? 浮かれる気持ちもわからないでもないけど?
それ以上に変態的なところがあるけど……困った人だけど!
朝からぎゃーぎゃーと騒ぐひまを宥めていると、上からとん、とん、と足音が聞こえてきた。
どうやら、蓮見さんがようやく着替えて降りてきたようだ。
俺の部屋に一人にしたけど、なんにも変な事してないよね!?
「朝からお騒がせしてすいません、お義母様」
「うふふ、いいのよー、日葵が準備できるまでお茶でも飲んでて?」
「ありがとうございます、いただきます」
「ほら、日葵も着替えてきなさい、遅刻するわよ!」
「はいはいっと……」
それにしてもなんか、クラスメイトの女の子がうちでお茶飲んでるって、凄い不思議な光景だなぁ。
これまでうちに来た事のある女の子って心春だけだったし、物凄く新鮮な気分だ。
おっと、そんなことよりも準備準備、っと。
* * *
「じゃあ行って来る」
「はいいってらっしゃい、鈴七ちゃんもまた、いつでも来てね?」
「ありがとうございます! また伺わせていただきます」
「お願いだから今日みたいなことはやめてね!?」
マジで心臓に悪いんだから!
「鈴七ちゃん……うちの息子こんなんだけど、よろしくね?」
「いえいえ、こちらこそ幾久しく、よろしくお願いいたします」
「今、その言葉を使うのは本当に正しいシチュエーションですか?」
幾久しくなんて日本語、アニメ以外で初めて聞いたよ俺。
蓮見さんはいったい、何を考えているのか……どこまで考えているのか……。
「ふふっ、天方くんのおうちから一緒に登校、なんだか同棲中のカップルみたいですね♡」
「そうだねぇ……実際は全然そんなことはないけど」
「もうキスまでしてるんですから、付き合ってると言ってもいいと思うんですが」
それを言われると辛い……知らない間に、2回もしてるらしいし。
うう、あの日のことを思い出すだけで顔が熱くなる……!
ってそれをいうと、俺と心春も付き合ってるってことになるじゃないか。
まさに二股男ですね! ははっ!!
はぁ。
「……今、三枝さんのこと考えてましたか?」
「カンガエテマセンヨ?」
「嘘。 ……はぁ、天方くんはほんと、顔にすぐ出るんだから」
……そうでしょうか?
顔をぺたぺたと触ってみるも、自分ではよくわからない。
うーん、これまでそんな事、言われたことないんだけどなぁ。
「……そうですね、昨日は無理矢理話を纏めちゃったんで、一度三枝さんときちんと話をしてください」
「えっ」
「ほら、ちょうどあそこに三枝さんもいますし」
蓮見さんが指を指した先を見ると、心春が空を見上げて一人、立っていた。
ああ、ここ、いつも待ち合わせてた交差点か……今日も待ってたんだな、お前。
「あっ! ハル! おはよ……なんで蓮見さんといるの!?」
「ふふっ、天方くんのおうちまで迎えに行ってしまいました♪」
「抜け駆けだ!?」
「三枝さんには圧倒的に速さが足りてませんね」
「なにをーっ!」
「なんですか」
はぁ、また始まったよ。
この二人、ほんと仲良すぎてビックリするよね……。
「まぁ、今日のところはいいでしょう、私も気分がいいので!」
「? その嬉しそうに見てるスマホ、なんかあるの?」
「ななななんでもないよ! あるわけないじゃんははは!!」
「なんでハルが焦ってんの……?」
そりゃ焦るわ!
あんなもん、心春に見られてたまるか……っ!
「というわけで天方くん、私は一足先に、学校に行きますね」
「えっ」
「蓮見さん?」
ここまで一緒に来ておいて、ここで別行動?
「三枝さん、非常に……非常に! 不本意ですが、まずは天方くんとじっくり話してください」
「蓮見さん……」
「今度は話をまとめる私はいませんからね?」
「……ありがと」
「お礼なんていりませんよ……勘違いしないで下さい! これは三枝さんに塩を送るわけじゃありませんからね!?」
そう言い残し、蓮見さんは一人、颯爽と学校へと歩いていってしまった。
うーん、かっこいい人だなぁ。
そして何よりも。
どこのツンデレキャラかな?
「あ、あの、ハル」
「はー……わかったよ、蓮見さんもああ言ってたし……歩きながら聞いてやるよ」
「うん」
昨日に比べると幾分、今日の方が気分も落ち着いている。
じっくり、心春の話を聞いてやろうじゃないか。




