ここまでがプロローグ?勘弁してくれ……
「な……何してんだお前!?」
「へへっ……ハルとキスすんの、久しぶりだねっ」
いや久しぶりってお前……お前とキスなんて、したことあったっけ!?
ってそうじゃないよ! そうじゃなくて……いきなり……いきなりなんだよこれ!?
もうわけが分からない、昨日の蓮見さんの突然のキスにも混乱したけど、今日はそれ以上だ。
え、何なの? お前、ほんとなんなの心春!?
お前が一体、何考えてこんなことしてんのか、さっぱりわかんねぇよ!
今回も運悪く? 教室で事が起こってしまったため、目撃者多数だ。
ああ、どうすんのこれ、どうすんのこれ……。
「やだ、天方くん修羅場よ修羅場」
「昨日は蓮見さんで今日は三枝さんって、マジ節操ない……」
「天方くんと視線があったら妊娠させられそう!」
するかっ!!
くそ、好き勝手言いやがって……お前ら、俺の立場になってみろ!
困惑しかねーわ!
「天方二股かよ……」
「ロリっ子三枝に巨乳の氷姫とかあいつストライクゾーン広すぎだろ……」
「犯罪者だ……」
「犯罪者がいるぞ……」
「死ねばいいのに」
「お前らうるせぇよ!」
誰が犯罪者だこの野郎!
た、確かに心春の事は好きだったけど、それはちっこいからじゃないし!
ちまちま動いてるのがなんか可愛かっただけで……って違う!
「ハル」
「っ! お、おう……」
「先に言っとくね、夏休み前のあれ……ごめん」
すっ、と、感情が冷えたのが自分でもわかった。
何だよ今更。
今更掘り返して……どうするつもりだよ。
死体蹴りでもするつもりか? なんならやるか? お?
お前が何歳までおねしょしてたのか、この場で公開してやってもいいんだぞ?
「ボクはあの時、何もわかってなかったんだ……あの返事が、どれだけハルを傷つけたのか」
「ほんと、今更だなそれ……で、それで? さっきのとつながってないぞ」
「ごめん」
ああもう、話進まないな!
他の連中が注目してんだから、さっさと話してくれよもう!
「ボクね、ハル! ハルの事、好きだよ!」
「なっ……」
なんだよ、それ……っ!
じゃあ、なんで……! 夏休み前!!
「蓮見さんとハルが一緒にいると、胸がもやもやするし、キス……してるところを見たら、頭がグラグラするし……」
「…………」
「鼻の下伸ばしてる表情なんて、思いっきりぶん殴ってやりたくなるし!」
「おい」
何言ってんだこの女、マジで怖いんだけど。
ていうか鼻の下なんて伸ばしてねーし。
いやマジで。
「多分、これってハルのこと好き、だからなんだと思う」
「じゃあ、夏休み前のあれはなんだったんだよ」
「あれは……ごめん、まだ、なんとも言えないっていうか……上手く、言葉にできなくて」
なんだそりゃ。
なんかよくわかんないけどフりましたってことか?
それで今更、実は好きだった! とか言われても信用出来ないわ。
なんかもう、ただキープしときたいって言ってんの?って思ってしまう。
「心春には悪いんだけど、今更言われても信用できねーよ……1ヶ月だぞ? 1ヶ月、あったんだぞ!?」
「それは……ほんとに……ごめん……」
しゅんっ、と項垂れて小さくなっている心春を見ていると、言葉が詰まる。
ただでさえ小さい心春が小さくなると、小さすぎて消えてしまいそうだ。
「つまり!」
ぱんっ! と手を叩く小気味良い音が、教室に響いた。
音の主はもちろん……蓮見さんだ。
やばっ、ずっととなりにいたのに、放ったらかしにしてた!
謝らない……と……。
「三枝さんは私のライバル、ということですね?」
そこには、口角を上げ、物凄く好戦的な笑みを浮かべた蓮見さんがいた。
あ、あれ……何この表情……!
なんかすっごい寒気がするんだけど!?
「ふふっ……花七お姉さんが言っていました……『恋敵は徹底的に叩け、後顧の憂いになる』、と!」
またすげー事言ってんな蓮見さんとこの叔母さん!?
え、それ恋愛指南のことだよね? 戦争かなんかやってんスか!?
「正直、私と天方くんの将来を考えると、このままだと三枝さんが非常に面倒くさい事になるのはわかってました」
「面倒くさい」
ていうか将来て。
勝手に俺の将来、決めないでもらえますか?
「いつまでも中途半端な態度でウジウジと天方くんの周りをちょろちょろされると厄介……と思っていましたが」
その時浮かべた蓮見さんの笑顔が、思わず息を飲んでしまうほど、物凄く綺麗で。
「これで遠慮なく、叩き潰せますね!」
言っていることとの落差に、物凄くガッカリしつつ。
ああ、間違いない……蓮見さん、彼女は間違いなく、残念美人だ……!!
「三枝さん、私は、天方くんが好きです」
「ぼ、ボクだって、ハルの事好きだし! ていうか、ボクの方が好きだし!」
「ふふっ、どうでしょうねぇ? 三枝さんは一度、天方くんをフッてますし?」
「ぐぅ……」
「とっくに愛想尽かされてるんじゃないですか?」
「そ、そんなことないし! ていうか、例えそうでももう一回ハルを好きにさせてみせるし!」
「これが幼馴染という関係に胡座をかいた者の末路……!」
「うーー!」
……ヤバい。
当事者の俺、完全置いてけぼり。
心春にも言いたいことがあったはずなのに、何を言いたかったのかすら忘れてしまうこの状況。
ただ、そんな俺でも、これだけはわかる。
ここまでの話は、物語で言えばいわばプロローグ。
ここから、俺と、蓮見さんと、心春。
3人の長い長い物語が、始まるのだろうと……。
憂鬱だ……!
「まぁ、精々頑張ってください、ええと……ロリっ子三枝さん?」
「なんだと! この陰険根暗女ー!」
「なんですか」
「なんだとー!?」
「ね、ねぇ二人とも……そろそろやめない……?」
周りの目が痛いし、俺の胃も痛いから……!
この日、俺の称号欄に
「二股男」
が増えたのは、いうまでもないことである。




