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そんな出版社潰れてしまえ!

 昼休憩だと思っていたのに、気がついたら5時間目が終わっていたというアレ。

二人をつき合わせてサボらせてしまったのは、本当に申し訳ない。

蓮見さんも心春も、起こしてくれればいいのに……。



そんな心春だけど、昼休憩のあとから、明らかに様子がおかしい。

何かを考え込んでいるような、そんな表情だ。

いや、おかしいといえば、ずっとおかしいんだけど……俺が寝ている間に、蓮見さんと何かあったんだろうか?

蓮見さんは何故か、お肌が艶々になっているんですがこちらはこちらで何かあったんでしょうか?


……とはいえ、心春に声を掛けるようなことは、しない。


はっきり言って、俺から心春に言えるような事は何もないし、なんていっていいかもわからないからだ。

いまだに、心春に男として見ていないと、恋心を否定された傷はじくじくと痛みを発している。

こんな状態で心春に話し掛けたって、まともな会話が成り立つ自信が、今の俺にはなかった。



「……天方くん、今別の女の子のこと、考えていましたね?」

「カンガエテマセンヨ?」

「ふふっ、顔に出てるんだから……三枝さんが気になるって」

「……キニナリマセンヨ?」


 はは、何をおっしゃるやら。

全く気になんてしていませんよ?


「三枝さんは、まぁ……心の整理がつくまでは、そっとしておいた方がいいと思いますよ」

「……その心は?」

「三枝さんの事を考える時間があるなら、私と親交を深めましょう! 次の休日はデートしましょう!」

「欲望駄々漏れじゃんっ!!」


心春のこと思いやってるみたいな感じだったけど違った!

この人、完全に自分の欲望100%で動いてるっ!!


「蓮見さん……よくそんなんで今まで、猫被ってられたね……」

「と、いいますと?」

「いやもう、昨日の朝から今で、もう完全に別人みたいだなって」

「えー、そうでしょうか? そうでもないと思いますけど……?」

「いやそうだよ!?」


クラスメイト全員に聞いたら、全員が全員、キャラが代わったって言うよ!

夏休みに大人の階段上ったんです! なーんて言われても、誰も疑問に思わないレベルで!

返して! いつも物静かに本を読んでいた蓮見さんを返して!!


「と、言われましても……私の読んでた本って、だいたいこんなのだけど……?」

「あ、どうも……えーっと『隣の席になった男子を惚れさせる100の方法』ってこんな本存在するの!?」


あまりにも存在がニッチすぎるわ!

誰だよこんなもん書いたの! というか誰向けに書いたんだよこんな本!

そしてこんな本を見つけ出した蓮見さんは本気で何者過ぎる……!


「まぁ、この本には『幼馴染に恋する男子の落し方』は書いてないので、単冊では使えないのですが」

「そんなニッチな本あるわけ……もしかしてあるの……?」

「ありましたよ? さすがama○on先生だよね!」

「あるんだ……」


パないな、ama○on。

そしていつも真面目な顔して読書をしていた蓮見さんが、こんな本読んでたってのが一番パない。

俺の中の蓮見さんのイメージがガラガラと崩れていく……!

これ、クラスのみんなにはないしょだよ案件だよね!


「ニッチといえば、「後輩女子がヘタレ先輩男子を口説き落とすマニュアル」なんてものもあったかな?」

「マジでニッチすぎる……その出版社大丈夫か? 明らかに採算取れてないだろ」


しかも誰が読むんだよそんなもん。

世の中にはそんなに先輩男子を狙う後輩女子がいるというのだろうか?


「まぁ、私はその本を読んでいても、昨日まで天方くんとの接点は出来ませんでしたけど……」

「そんな本読んだくらいで気になる相手と仲良くなれるなら、誰も苦労しないと思うよ」

「まぁ、そうですよねぇ……でも、結果的に天方くんと仲良くなれたので、問題はないかなって!」


そういいつつ、こちらを振り返って綺麗な笑顔を見せてくれた蓮見さんに、思わず心臓が跳ねたのを感じた。



そして、それを後ろからじっと見つめている心春の視線に、俺は全く気がつかなかった……。


 * * *



「二学期始まってたった二日なのに、噂の的だな日葵ー」

「こんな形で目立ちたくなんてなかったよ……」

「ははっ、いいじゃねーか! お相手はあの氷姫だ、羨ましいぞこのやろう!」

「……彼女にチクってやろうか、柾人」

「ごめんなさい、許してください」


ていうかなんだよ氷姫って、そんなあだ名初めて聞いたぞ。


「もしかして蓮見さんのことかそれ? 誰がつけたんだよそんなの」

「あのクールな見た目に次々と男をフっていく様は、まさしく氷姫! ぴったりだろ?」


どこがだよ。

氷なんて言葉と程遠いぞ、今の蓮見さん。

いや、昨日以降、その片鱗はクラスのみんなにも見え隠れしてると思うけど。



「で、お前は三枝さんと蓮見さん、どっちを取るんだよ?」

「どっちって言われても……俺はそんな偉そうな立場じゃないというか……」

「まぁ、いきなりは難しいよなぁ……ま・せいぜい悩め若人よ♪」


 悩めって言われてもなぁ。

蓮見さんはどこまで本気なのかよくわからないし、心春にはとっくにフられてるし。

悩む余地がどこにあるというんだろう?


ま、今日のところは帰るか。

蓮見さんは……席を外しているのか、いないみたいだし。

それにしても、まだたった二日しかたってないのに、物凄い濃い2日間だったなぁ……。



 もうこれ以上、俺の平穏を脅かすものは必要ない。

今の俺に必要なのは、植物の心のような人生だ。

心春にフられて、蓮見さんに告白されて色々と台無し感が漂うけど、ここからは軌道修正を――


「ハル」

「……あん?」


……凪いだ心で帰ろうとしていた俺を呼び止めたのは、心春だった。


「……なんだよ、心春」

「えっと……帰るの、ハル?」

「帰るけど?」


なんだこいつ?

俺が帰っちゃいけないとでも言うんだろうか。

というか、なんでちょっとビクついてんの? 朝、昼と比べると態度が全然違うんだけど?


「そ、そっか……じゃー、ボクと一緒に帰ろうよ!」

「え、嫌だけど」


嫌だけど。

何が悲しくて、俺をフった女と仲良し小好しで帰らないといけないのか。

将来的には大丈夫かもしれないけど、今は無理だ、今は絶対無理だ。


「で、でも、明日は一緒に帰ろって……約束……」

「なんのことだよ、そんな約束した覚え、ないんだけど?」

「で、でも……」

「ていうか昨日、心春と話した覚えないんだけど? ……もういいか? 早く帰りたいんだよ」


蓮見さんに見つかる前に。



「あ! 天方くん、私を待っててくれたんですね!」

「っ!」

「ああ……ほら見つかっちゃった……」


ほら来た、蓮見さんだ!

5時間目をサボったおかげで、ただでさえ注目されている俺たちがさらに注目されてしまう……

しかも今はこの場に心春までいるから、倍率ドンさらにドン!


「ふふっ、嬉しいです! 今日はどこによって帰りましょうか?」

「えっ、もうどこか行くこと決まってるの?」

「放課後デート……憧れてたんです……」

「そうだね昨日もしたね……」

「まぁ、あれは今後の話し合い程度のことでしたし、今日は昨日とは違いますよ!」

「俺、帰りたいんだけど」

「えっ! 天方くんのおうちでおうちデートですか!?」

「よし行こう、すぐ行こう、どこに行こう」

「ふふふっ……冗談です! さぁ、行きましょう!!」


蓮見さんにぐいぐいと引っ張られていく俺。

そういえば、昨日もぐいぐい引っ張っていかれてたなぁ……俺、引っ張られ属性でもついたんだろうか?

その時の俺の頭からは、もうすっぽり心春の事が抜け落ちていて。


「ハルっ!!」

「なんだよ心は――――」


だからだろうか、心春の動きに、全く気がつかなかったのは。

呼びかけに振り返った俺の眼前に、思いっきり背伸びをした心春の顔が迫り……。


「えっ」

「…………っ」



俺のくちびるに、柔らかいものが、触れた。



絶句する俺。

目を細めて、心春を見つめる蓮見さん。

……顔を赤くして、はにかむ心春。


何が起こってるんだ……これ……?

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