宣戦布告
「ご、ごめん……ちょっともう無理……やすませてもらうね……」
そう言って天方くんは、無防備にも夢の世界へと旅立っていきました。
……正直、天方くんが全部食べてくれるとは思ってなかったなぁ……。
しかも三枝さんのお弁当も含めて全部、食べてくれるなんて。
……まぁ、全部食べた天方くんは、当然ながらダウンしてしまいましたが。
お昼休みももうすぐ終わってしまいますが、こんな天方くんを起こすのは可哀想ですし、もう少し寝かせてあげましょう。
ふふっ、授業をサボるなんて、生まれて初めてでちょっとわくわくしちゃいますね!
しかも、男の子とサボるなんて、私ったら悪い子……!
「ふふっ、天方くんの寝顔……可愛いなぁ……」
「えー、どこが? なんか見慣れちゃって、今更って感じしかないよ……」
「三枝さんにとってはそうかもしれませんが、私にとってはようやく訪れた幸せな時間です」
さらさらと風に揺れる天方くんの前髪をそっと横に流しながら、おでこに触れました。
ああ、幸せ。
「蓮見さんって……ほんとにハルのこと、好きなの?」
「それはどういう意味ですか?」
「だって、蓮見さんって入学した当時は、男子からもすっごい人気あったのに、全部一蹴して拒絶してたのに、なんでハルなのかなって……」
「ああ、そういうこともありましたねぇ。 ……ええ、天方くんのこと、好きですよ? そもそも、好きでもない男の子に、こんなことしませんよ」
「あっ」
そういいながら、そっと天方くんの唇に口付けました。
天方くんとの二度目のキスは……うーん、からあげの味?
フルーツの味って、なかなかしないものですね……今度はデザートに、フルーツも持ってきましょうか。
そんな風に考えている私を、顔を真っ赤にした三枝さんが、呆然と見つめていることに気がつきました。
……ふぅん?
今更この程度で真っ赤になるなんて……意外と初心なんでしょうか?
幼馴染と言えば、もっと色々あるかと思ってましたが……。
「三枝さんと天方くんは、てっきりこれくらいは経験済みかと思っていました」
「しっ、してたっていっても、もっと小さい頃だったし! そんな……えっちくさい……」
それに、ハルは覚えてないし……とブツブツ言っていますが、まぁそこはいいです。
「はぁ……ごにょごにょと何を言っているのかわかりませんが」
正面から三枝さんを見つめると、彼女の瞳がぐらぐらと揺れているのがわかりました。
ふむ、彼女と二人きりになる機会なんてそうそうないでしょうし、ちょうどいいでしょう。
「私は天方くんの事が好きです、愛しているといっても過言ではありません!」
「なんで……」
「なんで、といわれましても、人を好きになるのに理由がいりますか?」
そう、人を好きになるのに、異世界に転生しましたや、落ちていたヒロインを拾ったら恋仲になった、なんてドラマは必ずしも必要ではないのです。
……幼馴染だから恋仲になりました、なんてドラマも、必要ありません。
「三枝さんが天方くんをどう思っているかは知りませんが……」
「っ……!」
「三枝さんは、天方くんの告白、断ってフッたんでしょう?」
「な……断って……フってなんて……!」
「当時の二人のやり取りがどうかは知りませんが、天方くんはフられたと思っていますよ」
「……それは……」
そうです、天方くんは彼女にフられたのです。
長年恋焦がれてきた、幼馴染の彼女に。
「私はこのチャンス、絶対に逃しませんから」
「ボク、は……」
これは、私からの宣戦布告。
なんやかんやといいつつ、未だ三枝さんに想いを残す天方くんを、絶対に振り向かせて見せるという、私なりの決意。
中途半端で何がしたいのかもわからない、一緒にいるだけで勝ち確定なんて幼馴染には、絶対に負けません!
見ていてください……花七お姉さん……!
次のお正月には、彼女いない暦=年齢の従兄弟にも、彼氏が出来たって自慢してやります!!




