これ、何キロカロリーになりますかね…
学校の昼休みなんて、基本的にどこも人がいっぱいなわけで。
人に見られないような場所なんて、早々ないわけで。
そんな俺たちが辿り着いたのは、校舎の端のほうからさらに裏へ抜け、裏庭……というには手入れもイマイチされていないような、そんな場所だった。
あたりに生徒の気配もないし、ここならゆっくりとお昼を食べられるだろう。
……食べられると、いいなぁ……。
「おお、凄いな蓮見さんのお弁当……!」
正直、蓮見さんの料理の腕もわからないし、どんなお弁当が……と戦々恐々としていたけど、あけてみればビックリ。
彩り綺麗なおかずで……へぇ、蓮見さんって料理が凄いできる人なんだな。
お弁当定番のメニューからサラダまで、至れり尽くせりなお弁当だ。
……これを一人で食べるんでなければ、だけど。
「えへ……料理は小さいころからよく、花七お姉さんに習ってて……男の子を捕まえるなら、まずは胃袋からよ! って」
「つまりその叔母さんの料理の腕に捕まった人がいるってことですねわかります」
旦那さんがどんな人かは知らないけど、ゴリゴリ攻められたんだろうなぁ多分。
気がついたら家にも上がりこまれるようになったり、朝起きたらリビングに……ホラー展開かよ!
なんか、蓮見さんもその叔母さんみたいに、そのうち家にも押しかけてそうだよなって……え、うちに来ないよね蓮見さん?
やだよ、朝リビング行ったら、蓮見さんがいるとか。
……やらないよね?
「? 天方くん、どうかした?」
「ううん、なんでもない、なんでもないよ……」
ふと思い浮かんだ恐怖の光景を振り払うように頭を振ると、早速お弁当に手をつけようとしたところで……。
「ちょっとハル! ボクのお弁当も見てよ!」
「……ちっ」
「蓮見さん何その舌打ち!? ボクだってハルのために作ってきたんだよ!?」
「はぁ……三枝さん、私と天方くんの時間の邪魔をしないでもらえますか?」
「そもそも蓮見さんがなんでハルの彼女面してるのか、意味不明なんですけど?」
「まぁ、遠からず彼女になりますし、ただの幼馴染よりは一歩先に進んでいるとは思いますよ?」
「なにをー!」
「なんですか」
帰っていいかな、俺。
どうして楽しい楽しい昼休みを、女の子二人に挟まれて冷や汗を流すドキドキの時間にしなければいけないのだろう。
昨日とは違う意味でマジ無理。
「はぁ……仕方ありません、こんなことをしていたら時間がなくなります、三枝さんも早くお弁当を開けてください」
「ふーんだ、蓮見さんに言われなくても開けるよーだ! ……はいっ、ハルどうぞ!」
「おお……さんきゅー……ってお前の弁当は相変わらず……相変わらずだな……」
蓮見さんのお弁当はおかずやサラダの詰まったバランスを考えられたものだった。
対して、心春が作ってきたお弁当は……
「彩りが……ない……茶色い……」
「あは、男の子はやっぱり、お肉とか好きだもんね!」
「うん、好きは好きだよ……好きだけどさぁ……野菜とか、そういうのをさぁ……」
一面に敷き詰められたからあげ・ハンバーグ・カツetc……。
なぜか心春が作ってくれる弁当には、赤や緑の色合いが足りないのだ。
自分で食べる弁当にはプチトマトとか普通に入ってるのに、なぜ俺にはそういうのがないのか。
つーかお重箱がこんな惨状になってるのは、ある意味感動するな!
「へへーん、ハルはボクが作ったからあげ、美味しい美味しいっていっつも食べてくれるんだ!」
「へえ、天方くんはからあげが好きなんですか」
「ボクの作った、からあげだけどね好きなのは!」
「じゃあその好きを、私の作ったからあげが好き、に塗り替えましょう」
「なにをー!」
「なんですか」
「君らは、本当に仲がいいねぇ……」
「「どこが!?」」
うん、息ぴったりだ。
二人の共通点がどこにあるのかはよくわからないけど、凄く仲がよさそうに見えるぞ。
蓮見さんも心春と接点なんて今までなかっただろうに、よくあわせられるなと感心するよ。
高校入学してから半年近く、よく猫を被り続けられたなぁというレベルで感心する。
隣の席の物静かな女の子が、実はこんなこと考えてました!
……なーんてネタが通用するのは、きっと小説だけだよねぇ……。
「それで、天方くんは、どっちのお弁当を食べるの? あ、もちろん私のだよね!」
「もちろん、ボクのを先に食べるんだよね!」
「~~~~っああもう! どっちも食べればいいんだろ!? いただきます!」
二人の弁当、どっちを先に食べるかだって?
どっちも両方、同時に食べればいいんだろ!
心春のつくったから揚げを口に放り込み!
蓮見さんの作ったおにぎりを食べる!
蓮見さんの焼いた卵焼きを口に放り込み!
心春の作ったおにぎりを食べる!
うまーい! どっちの弁当もうまーいぞー!
量さえ加減してくれれば!
「ふふっ、美味しいですか、天方くん?」
「ま、一番美味しそうに食べてるのは、ボクのおかずだけどねっ」
「面白い事を言いますねこのロリっ子は」
「なんだとこの妖怪猫かぶり!」
「なんですか」
「なんだやんのかー!?」
「だからケンカはやめなさいって……」
この後二人の作ってきたお弁当は、綺麗に俺のおなかに納まりました。
もちろん食後に、
「作ってくれるのは嬉しいけど、量は加減してください……」
と、涙ながらに訴えたのは、当然のことだと思います。
はぁ、帰ったら筋トレ量、ちょっと増やさないとなぁ。




