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お昼は幸せの時間

 そんな風に午前中を過ごし、ようやくお昼休みになった。

もうおなかぺこぺこのぺこちゃんである、早く購買へ行かないと、ろくなパンが残らない!

せめてあんぱん! あんぱんだけは確保させてください……っ!


そもそもなぜ、二学期早々丸一日授業を受けされられるのか、これがわからない。

休み明けの辛さがわからないとか、鬼か教師たち……っ!


「天方くん、約束のお昼ですね!」

「え、あ、そうだった……そういえば約束とかしてたね……」

「なんですかそのがっかりした顔!」


 だってね、そりゃがっかりもするよ。

これからお昼だ! ってテンション上がってたのにお預けなんですよ。

普通の男子高校生ならがっかりしてテンション下がるのも仕方ありませんよね?


はぁ、失敗したなぁ……今日はかにぱんしか食べれないかも……。



「ふふふ、お昼のことなら心配しないでください……ちゃんと準備してありますから!」


ほらっ、と蓮見さんが取り出したのは……まさかのおべ……いや弁当? 何これ?


「ごめん、蓮見さん……俺にはこれ、お重箱に見えるんだけど」

「天方くんへの愛が溢れて、気がついたら5段重ねになってしまいました♡」

「5段重ね」


また凄いものを見てしまったぞ……!

こんなお弁当、三枝家と合同で行ってたお花見でも見たことがない。

え、これ蓮見さんが作ったの? やばくない?


「変な薬とか……」

「私の愛は入っていますけど、流石に薬は入ってません!」

「そ、そうだよね……え、これもしかして食べていいの?」

「はいっ、お好きなだけ、お食べください!」


これは嬉しい、まさかお弁当をもらえるなんて!

いつ振りだろう、お昼がパンじゃないのは!

一日だけでも争奪戦に参加しなくていいなんて、俺は幸せだ!

……嘘つきました! 周囲の視線が痛いです! あんまり幸せじゃないです……っ!!



「……ごめん蓮見さん、嬉しいんだけど食べたいんだけど! 教室で食べるのは……ちょっと……」

「あ、ごめんなさい天方くん……そうだよね、食べ辛いよね」


 わかってくれたか。

蓮見さんは頭の回転が速いのか、俺の言いたい事を先回りして察してくれるのが、話していて心地いい。

阿吽の呼吸って、こういうことを言うのかもしれない。

そう考えると、蓮見さんとの相性もそこまで悪くないのだろうか?


「天方くんも男の子だもん、私にあーんさせて食べさせてほしいけど、ここじゃ恥ずかしいってことだよね?」

「ダメだったなんにも分かってなかった!!」

「あ、ま、まさか……口移しがよかった?」

「違うよそういうことじゃないよ!」


どうしてそう斜め上の方に思考がかっとんで行くんですか蓮見さん!

男の思考を、間違いなく間違った方向に理解しているのは、一体何が原因なんだろう?

わからないよ蓮見さん……。



「というわけで、どこか静かな所に行きましょうか、天方くん♡」

「あ、はい、そうですね、お願いします……」

「二人きり……天方くんと二人きり……何も起きないわけがなく……!」

「何もおこらないよ!?」


もうやだ、この人。


蓮見さんに手を握られ、ずるずると引っ張っていかれる俺の脳内BGMは、子牛が連れて行かれる、例のあの曲だ。

誰かこの暴走特急のような彼女を止めて!



「は、ハル!」


 そんな俺の境遇を見かねたのか、ひとりの救世主が現れた!


「今日はボク、ハルとお昼食べたいんだけど……ダメかな?」


救世主じゃなかった、心春だった……。

というか、以前から心春と昼を食べるようなことはほとんどなかったのに、今更なんのつもりだろう?

いつもは、友達と食べていたはずなんだが……。


「へへっ、実はボク、今日はハルにお弁当作ってきたんだー!」


じゃーん! と取り出されたのは、風呂敷に包まれた弁当……弁当箱!?


 ……それは、弁当箱というにはあまりに巨大だった。

横にではない、縦にである。

風呂敷に包まれているので外からは分かりづらいが、段数で数えるなら、恐らく二段、三段……五段。


「なぁ心春……その弁当箱、なんかでかくね?」

「ボクも食べるけど、ハルもいっぱい食べると思ったんだよねー!」

「いや、食べるだろうけど……」


何人ぶんだよそれ。

お前、どんだけ食うつもりだよ。


「奇遇ね、三枝さん。 私も、天方くんとお昼を食べようと作ってきてるの」

「え……」


そういう蓮見さんの手にあるものも、先ほども見たとおり、五段。

心春の手にあるお弁当箱も、恐らく五段。

合計、十段のお重箱に詰め込まれたお弁当が、俺の目の前に!

わ、わぁ……嬉しいなぁ、たくさんお弁当があって。


で、これ誰が食べるの?


「もちろん、私のお弁当を食べますよね?」

「もちろん、ボクのお弁当を食べるんだよねー?」

「「…………」」

「あは、何言ってんのかわっかんないなぁ。 ハルはボクのお弁当を食べるに決まってるじゃん!」

「ふふふ、三枝さんこそ何をおっしゃるやら、ただの幼馴染でしかないなのに自信満々なことで」

「それを言うなら蓮見さんなんて幼馴染でもなんでもないじゃん!」

「私は、天方くんの彼女……いえ、将来の嫁ですから」

「嫁!?」


昨日告白されたところなのに、嫁にランクアップしてる!?

まだ付き合ってすらいないのに嫁って……蓮見さんの脳内、どうなってんのマジで。

これもあれか、蓮見さんの叔母さんの仕業か!

何変なことばっか教えてるんだよ叔母さん……!


「「さぁ、どっちを食べるんですか!?(食べるの!?)」」


笑顔で二人が迫ってくるけど、怖い。

どうして俺が責められてる雰囲気にならないといけないんですか……どうして……。

それに心春、お前はなんでいきなりそんなぐいぐい来るの?

俺のこと別に好きじゃないんだろお前!?


「えーっと……さ、流石にこの量は一人で食べきれないかなーなんて……はは……」


普通の弁当なら、二人分でも食べきれた。

でもさすがにお重箱は……きつい! しかも二人分! 無理無理無理!


「え、天方が食べきれないんだったら、俺にもちょっと食べさせてくれよ!」

「え……池下くん……池下くんじゃないか……!」


バスケ部でもなぜかモテない事に定評のある池下くんが、加勢にきてくれた!


「蓮見さんと三枝さんの手料理とか……池下がいいなら俺も食べたいんだけど!」

「松木くんまで……!」


中学時代、うちの学校じゃなければどこでもエースを張れる男と称された松木くん……!

この二人が手伝ってくれるなら、十段程度余裕で食べきれる!


「……どうして、お二人に食べてもらわねばならないのですか?」

「だよね、ボクのお弁当はハルのために作ってきたものなんだけど?」

「えぇ……」

「ですよね、天方くん以外の人に食べてもらう必要なんてありませんよね?」

「あは、だよねー!」

「……なにこれ……」


あれー、さっきまで一触即発な雰囲気だったのに、なんで仲良くなってんの?


呆然とする池下くんと松木くんをその場に残し、ずるずると二人に引きずられていく俺の気分は以下略。

蓮見さんだけでもどうしようもなかったのに、なぜか俺をフったはずの心春までそこに加わって……。

あれ、これからどうなるの俺……?




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