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第七夜 紙魚-しみ
晩の肴を買いに出ると、魚屋に30センチほどもある大きな紙魚が売っていた。
紙魚が喰えるものだとは知らなかったので、わたしは魚屋の親爺に声を掛けて、これはどうやって食べるものか、と訊いた。
親爺は驚いたような顔をしてから得意げに、これは刺身で喰うとたいそう旨いのだ、と話してくれた。
なので、小ぶりなものを一尾見繕って買っていくことにした。
家につくとさっそく三枚におろして刺身にした。
いざ食べようと一切れつまむと、身がキラキラと銀色の粉をふいている。
口に入れるとさらさらと粉っぽい。
そのうえ妙にインク臭くて脂っぽいのでとても喰えたものではない。
これは魚屋にだまされたな、と苦く思いながら、そのまま隣家の猫に全部やってしまった。
あくる日買い物に出た折に思い出して、魚屋の親爺に文句を言うと、あれは湯引きをしないと食べられない、と大笑いされた。
-了-