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夢数夜  作者: 厭堂 疎
3/9

第三夜 音-おと

 目が覚めて階下へ降りている途中に、自分の足音が消えていることに気づいた。

何事かと訝りながら居間の扉を開けると、ドアノブを回す音も、戸が開く音も閉じる音も聞こえない。

驚いて妻に、

「おうい、なんだか耳がおかしくなったようなんだけれど。」

と、半ば叫ぶように告げると、自分の声はちゃんと聞こえた。不思議そうに返事をする妻の声も聞こえる。


 どうやらわたしの立てる物音だけが、すっかり全部無くなってしまったらしい。


 何でこんな事になってしまったのだろう、と困惑していると、妻が訳知り顔で頷いて

「あなた、どうやら背中の口が逃げてしまったようよ。」

と妙なことを言った。

 ともかく、このままでは自分が幽霊にでもなったようで落ち着かない。

医者に行った方がいいだろうか、こういう時は医者でいいのだろうか、と訊くと

「まあ。そんなことでお医者に行ったら、お医者さまが困ってしまうわよ。」

と、可笑しそうに笑いながら、わたしを放って洗濯物を干しに行ってしまった。


 その振り返った妻の背の真ん中に、大きな口が付いている。


 妻が歩くとその口が、ぺらりと開いて「ととと」と足音を『喋った』。吐き出し窓を開けると「からからから」、つっかけを履くと「がろんがろん」。

どうやら妻の立てる物音が、この口から出ているのだ。


 さてはこれが背中の口だな、と考えながら、わたしは妻の背に見とれるようにつっ立っていた。

すると、妻がくるりとこちらを振り向いて、

「背中の口から離縁されてしまうなんて、きっと甲斐性なしだと笑われてしまうわね」

と、またくすくす笑って揶揄った。

 こんなに大きなものが付いているのに、今までどうして気づかないのだろうかと、わたしはその事ばかりを気にしていた。



-了-

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