序章 始マリ
大学生ーーそれは老後人生を除けば最も自由に時間を弄ぶことのできる最高の猶予期間である。皆は大学生になって、そしてこれからなるべく勉強に励んでいる若人達は一体何をして時間を費やしていくのだろうか。
ある人はサークルに入り様々な人間達と交流を交わしながら、『ウェイウェイ』なキャンパスライフ求める。
そしてある人は友人も作らず、特にこれといったこともせず、ただただ単位をとるがために大学に通う、『陰キャ』なキャンパスライフを求める。
ーーだが、僕は違う。
『ウェイウェイ』でもなく『陰キャ』でもない中間の存在。僕はこれを『第三勢力』と勝手に名付けてでしゃばっている。
ウェイウェイする気は全くないのでサークルには入らない。かも。というかウェイウェイがあまり好きじゃない。とにかく疲れる。高校時代にそれはよく学んだ。直接この体で味わっている。
だがどこかの物語の主人公のように、友達を作ると人間強度が下がるから友達はいらない。なんてこともいえるわけでもないので、ある程度テンションが似てる人を探して関わっておくことにしている。友達は量より質だ。まあ、昔からの大事な仲間もいるしこれ以上増やす必要もない。
そんな周りから見ればただの陰キャな僕が最近ハマっているものといえばーーー
アニメだ。昔は王道バトル系アニメしか興味はなかったが友人に勧められ様々なジャンルのものを見ていたらハマりにハマってしまった。
アニメというコンテンツは本当に素晴らしい。いや、まじで。アニメという概念が存在する世界線に生まれてきて良かったと思えるレベルだ。まさかアニメで鳥肌が立つとも思わなかったし、大学の図書館の4階で号泣するとも思っていなかった。ウェイウェイは嫌いだ、とかそんなことをほざいてはいるもののついついラブコメ展開やら急に異世界転生してヒロインとキャッキャする展開を望んでしまっている自分がいる。
そんなわけで僕は休みの日は大抵部屋に篭ってアニメを見るかゲームをしている。
おいおい、ここまで見た感じただの陰キャじゃないか?と思った読者諸君、先走りは良くない。
大事なのは見た目だ。服装だ。別に自分がイケメンだとは全く思ってはいない。フツメンだ。多分。
そしてオシャレだとも思ってはいない。自分が着たい服を着ればそれでいいし相手にダサいと言われようがなんだろうが関係ない。だがさすがにこの趣味を持った人間の大半がなぜか中学生のような服を着る傾向がある。流石にそれと同じ扱いをされるのは少々きつい。あれ、結局周りの目を気にしているじゃないか。矛盾していやがる。
とりあえず言いたいことは、ある程度着飾ればそれでいい、だ。古着屋で買った安い服達を着てサコッシュを持ってオシャレぶる。これで中途半端に目立つこともなく第三勢力として有意義にキャンパスライフを過ごすことができるのである。
「さて…と。」
そういえば名前を言うのを忘れていたようだ。
僕の名前はーー
「巫蓮…だったかな。」
ーーは?誰?今読者に語りかけているの俺なんだけど?
「突然の登場ですまない。俺はお前の中の存在。いわば化身のようなものだ。お前が今考えているようなことは後で説明する。そして、単刀直入に聞くがーー」
ーーあれ、何この展開。錯覚?アニメの見過ぎ?
「ーー神に…なってはくれないだろうか?」
こうして、19歳若干引きこもりがち、まだまだ人生始まったばかりの巫蓮の誰も想像できない、よくわからない物語が始まる。
「ってまだ終わってたまるか!!」
「俺、気になります!」
どこかの気になりすぎガールっぽく言ってみた。
「ったく…せっかくいい雰囲気で終わらせようするためにクールキャラ演じてたのになぁ。」
「キャラかよ。とりあえずこの状況を説明してくれないか?現実とかけ離れすぎててわけがわからない。今の所、俺はアニメの見過ぎだと思っているが。」
「えーどーしよっかなぁ。ここで終わらせておいた方が面白い展開だと思うのだがなぁ。」
僕は一旦目を閉じて見ることにした。そして、もう一度開くとやはりそこには金髪でスカジャンを着こなしながら優雅に葉巻を吸う30代くらいのおっさんがいた。
「こんないかにもヤンキーものに出てきそうな見た目をしてる奴が目の前にいたらむしろ気になって仕方がないのだけれど。」
「ったりぃなぁ。説明少しばかり長くなるかもしれないだろうけど、許せよ。」
「説明しよう。俺は天地開闢で有名な伊奘諾の化身だ。だから本人ではない。なにせ神話上の人物だからね。なぜお前の中の存在として現れたのか、だが。それはお前が選ばれし存在だからだ。理由は知らん。一般人からランダムで裁判員選出するみたいな感じで選ばれたのかもなぁ。だからお前があのタイミングで終わらせてくれれば、お前がすでに神と同等の存在になっちまったなんてことを言わずに済んだのだがなぁ。」
理解に苦しむ。僕は一体何を見せられ、聞かされているのだろうか。やはりアニメの見過ぎなのだろう。だが錯覚にしてはあまりにもリアルすぎる。
「つまり俺は…今日から神として民衆から崇められてお供えしてもらえるってことか?」
「ったく、バカな物言いはよせ。お前が神だと気づく人間がいると思うか?まあいないとは一概には言えないが…なぁ。」
なんだこの意味深な発言。伏線かこれは?
「でもよ、俺の前にわざわざ現れたってことは何か目的があるんだろ?じゃなかったらこんな展開ありえないもんな。」
「いい所に気づくねぇ。巫ボーイ…。」
だめだこいつあのおしn…アロハシャツのおっさんにしか見えねぇ。何か物語が始まるのか?
すると、金髪の男は表情を変え、ポケットに入れておいた葉巻をまた吸い始めた。
「伊弉冊を…探せ。」
この言葉が僕のキャンパスライフを揺るがす大きなきっかけになるとはこの時考えもしなかった。否、少しは考えていたのだけれども考えるのが面倒だった。